第9話 強敵への挑戦
シグが宿に帰るとニコニコしてはいるが目の笑って無いレイと眉間に皺を寄せ、明らかに怒ってるエリナが1階の椅子に座って待っていた。
「遅い!すぐ帰るって言ってたのにどこ行ってたのよ!!まさか本当に遊廓に行ってたの?馬鹿じゃないの?」
「シグさん?まずは何故遅れたか理由を教えて頂けますか?嘘を言ったら…分かりますよね?」
「待って待って!遅くなったのはギルドに行ってたからで遊廓なんて行ってないよ!それになんで僕は怒られてるの!?どこか出かける約束してたっけ?」
と、浮気がバレそうになって言い訳をする夫の様な物言いに、2人から更に睨まれて萎縮してしまう。
するとおかみさんが
「あんたがすぐ帰るって言ってたから2人ともまだ飯食ってないんだよ。あんたが帰ってから飯を食べるって言うんだがらいい嫁さん捕まえたねぇ〜」
成程、それはすまないことをした。嫁では無いが。
それから2人に頭を下げて遅れてきたのはギルドに行って使わないお金を貯金して帰ろうと思ったらこの前のダンジョンでモンスターが一匹も出なかった報告をしたらギルド職員に捕まって談話室で詳しく話をさせられて遅くなったと伝えた。
「本当に?明日ギルドで確認するからね!」
「分かりました、その話を信じて取り敢えず食事をしませんか?」
「そうだね、遅くなって本当にごめん」
とにかく機嫌を取って貰おうと今日の宿代は奢ることを約束し、何とか2人に納得してもらった。
食事を済ませたあと2人は部屋で休むと言って階段を上がって行ったので、シグはシャワーを浴びてそれぞれ過ごした。
夜が明ける前にシグは目覚め、装備を整えて宿を出る前に既に起きて朝の準備をしていたおかみさんに支払いと軽めの食事を貰い、宿を出た。
待ち合わせ場所に向かう際にもシグは強敵と戦える事に武者震いが止まらず、駆け足で北の門へと向かった。
待ち合わせ場所に着くと何やら昨日いた団員だけでなく、3倍程人が増えていて鎧や鞘、盾やマントに同じマークが描かれている。なんで人がこんなに?
昨日部屋にいた団長以外の3人もいるし。
「おい、見ろよ本当に来やがったぜ」
「団長に喧嘩売るとか自殺志願者か?」
「まぁ、うちの派閥に入りたくて啖呵切っただけの青二才だろうな」
「しかもあの見た目で男らしいぜ。」
などと派閥の方々がひそひそと話している。もうちょい声抑えないと聞こえるんだけどなぁ、師匠がいたら鞘でしばかれて訓練と言う名の拷問が始まっていただろう。
「よく来た、では1度外に出てそれから始めようか」
「それは良いんですが人多くありませんか?」
「すまない、ジルが…あぁ、昨日いたアマゾネスが団員に今日の決闘を話したらしくてな、人が大勢集まってしまった」
大派閥ってこんなに人がいるんだなぁ、管理とか統率するの大変そう。なんて考えながら後ろをついていき、北の門を抜けて林道を横に逸れて少し歩いた先に拓けた草原地帯がある。
「ここで良いだろ、さてお前ら下がってろ」
団長が皆に命令すると団長とシグを囲むように円になってフィールドが出来上がった
「うちの派閥の方式でもいいか?」
「構いません」
「ではルールを説明する。まずは皆が円になっているがそれより外にはじき出さて負けるか、先に有効打を当てた方の勝ちだ。」
「殺してしまった場合は?」
「随分と威勢は良いが構わん、その時は私が弱かっただけと言う事だ。それでは誰か合図を頼む」
そういうと昨日のアマゾネスがシグと団長の間に立ち右手を前に出す。それから2人が構えたのを見て
始め!と掛け声をかけた瞬間シグが刀を鞘に収めて中腰の体勢をとる。団長はその構えに眉をピクリとさせてこちらを凝視する。お互いが固まったまま数分経つ頃に周りの連中が
「何やってんだよ2人とも早く始めようぜ!」
「強気なのは口だけかよ!団長もさっさとそいつ叩き潰して下さいよぉ〜」
なんて言ってるが2人はまだ動かない。まるで周りの声が聞こえてないかの様に2人はお互いを見つめあったままだ。
するとジルが
「あの坊や中々やるね、どう思う?メイザー」
「彼はどこで剣を習ったんだろうね。接近戦は得意じゃ無いが団長をあんなに真剣な顔にさせるなんて、口だけじゃ無いようだ」
「…可愛い」
なんて昨日の3人が会話を始めて周りがどよめく。一見彼らは止まっているだけのように見えるが、そこには膨大な駆け引きが繰り返されているのを彼らだけは見抜いたようだ。
あたりのどよめきがおさまり、静まる空気の中シグが先に動いた。中腰の体勢から片足で地面を蹴ると目にも止まらぬ速さで団長に接近し、刀を抜こうとした。
が、それに団長も反応し剣でその抜刀されかけている刀身に風切り音をさせながら圧倒的力をぶつけてシグごとギャラリーの外に吹き飛ばした。
シグが起き上がり再度駆け寄ろうとしたところでルールを思い出し、
「僕の負けですね。ありがとうございます」
と、丁寧にお辞儀をした。
「いや、君も良い速さを持っているな、抜かれてたらこっちが危なかったよ。うちにも刀を使う奴がいてな。そいつと手合わせしていなければどうなっていたか」
「いえいえ、団長さんなら初見でも交わして一撃入れてきてたでしょ。どう攻め込んでも勝てる未来が見えなくて師匠を思い出しました」
「はは、君にそれ程言わせる師匠と手合わせしたくなったな」
団長と会話をしているといつの間にか昨日部屋にいた緋色の髪の女性がシグの隣に立っていて袖を引っ張りながら
「私リン、あなたは?」
「あ、そういば名前を言ってなかったですね。僕はシグ・マグナって言います!」
「そう…ねぇシグ、次は私と手合わせしよ?」
物凄く魅力的な提案にすぐに返事をしたかったが、そう言えば昨日クエストに行くって話をレイとエリナにしていたので、これ以上時間を掛けて2人にまた怒られるのは面倒だなぁ。でもなぁ、せっかく強い人と斬り合う事が出来るんだけどなぁ
「リン、抜け駆けはダメだろ?あたいが先だよ」
「嫌」
「我儘言うなよ!それならジャンケンで決めるよ!」
「嫌」
「こっちが譲歩してやってんのにーー」
「2人ともやめろ、それにそろそろシグの言ってたダンジョンの調査に向かうぞ」
団長さんありがとう!なんて心の中で感謝してたら
「それにシグとやりたいんならいつでもできるだろ?シグ、入団おめでとう。改めて俺の名はレオス・ガノフだ、今日から宜しくな」
満面の笑みを浮かべて何やらとんでもないことを言い出したレオスの言葉を聞いて周りの人達まで宜しく!なんて言い始めた。
「まっ、待ってください!僕は入団するとは言ってません!それに連れが宿で待ってますので僕は帰りますよ!!」
「ん?入団したくて試合を申し込んだんじゃないのか?」
「僕は強い人と斬り合いたかっただけです!結果は惨敗でしたけど。」
「そうか、だがシグよ。お前ならいつでも入団歓迎だ!気が変わったら街の北西にあるうちの派閥のシンボルマークが飾ってある屋敷に来てくれ。仲間も即入団させてやるからな」
なんて言われたが大勢の中は苦手なので多分入団することは無いだろうと思いながら、別れを告げてまだ日が昇ったばかりの朝焼けに照らされながら宿屋に戻るのであった。
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