第5話 宿屋
結果として、シグは大金を手に入れた。プレートを手に入れられず帰ってきた冒険者が北の門へ向かう所を数人集めて競りをした結果金貨10枚(個人商店の平均売上が月金貨5枚程)まで釣り上げる事に成功したのだ。
これにはシグも予想より多く手に入りちょっと怖いくらいだが寝床にありつけた。この街に来るまでに無一文になって野宿が多かったので、食事やベッドで眠れる事に心が踊り早速北の門に向う。
北の門は試験の為か普通に開いており、門番が4人、城壁の上に弓を構えた者達が数人待機している。通ろうとすると2人の兵士に止められ、所在と何しに来たかを聞かれた後に無記名の冒険者プレートを見られ、納得した顔で通して貰えた。
ギルドの職員がどこにも見当たらないので優しそうな顔の門番に聞いてみると
「夜も遅いのでギルド職員は帰っているよ。明日ギルドでプレートに名前を掘ってもらうことができるのでそうすると良い」
と教えて貰った。仕方ないので今夜の宿を取るために門番にいい所はないか?と聞くと
「なんだ、君は田舎から来たのか?この街のことを何も知らんのだな。ならばここから南にまっすぐ行って中央の噴水広場に出たら東に進んで行くと宿屋街だ。上に赤い旗で書いてあるのですぐに分かる。オススメはその宿屋街に入って右から5軒先にある所がこの街の名物料理を出してくれるいい宿屋だ」
「色々教えて頂きありがとうございます!」
お礼を伝えて早速言われた通りに噴水広場まで行き、東に進むと道の両端にある鉄柱から中央に紐を括り付けて、真ん中に【アインスベル宿屋街】と旗に書かれていた。成程、確かに分かりやすいな。
「えぇと、右から5軒先だから…あ、ここかな?」
豪華な見た目はしていないが綺麗に磨かれた看板を見るにしっかり部屋も掃除して清潔感のある宿屋なのだろと思える店で、看板には【リルグーの宿屋】と書かれていた。
早速中に入ると優しそうな恰幅のいいおばさんが「いらっしゃい」と声を掛けてくる。
「あの、門番の方にここで名物料理が食べられると聞いたんですが、まだ食事は注文出来ますか?」
するとおかみさんは目をパチクリとさせて次の瞬間には笑いながら
「あはははは、あんたその門番ってのは優顔の男だったかい?そりゃうちの息子でねぇ、少し前に国の兵士になったばかりの奴さ、この街の名物料理ってわけでも無いがうちの宿自慢の料理、食ってくかい?」
成程、実家の宿に泊まって貰おうって事か、まぁ優しくしてもらったし食事ならなんでも良いか、と了承の胸を伝えて椅子に座ること十数分、食事が運ばれてきた。
「お待ちどうさま、グルル(家畜に似たモンスターらしい)の煮込みにサラダとスープ、それからうちで焼いた自家製パンだよ。おっと、あんた酒は飲むかい?」
「いえ、お酒は飲めないので結構です。」
酒を断りすぐに食事にした、味は名物料理と門番が言うだけはあるようで肉汁とタレが口の中いっぱいに広がり、自家製のパンを齧ると肉汁が吸われて口の中を落ち着かせつつもパンと肉の香りが混ざり合い嗅覚まで喜ばせてくれる。なんとも絶妙バランスの料理だろうか。
野宿しながらこの街に来た為こんなに美味しい料理は久しぶりに味わうので、ゆっくり食べるつもりがあっという間に完食してしまった。
「ご馳走様でした、とても美味しかったです!」
「あらそうかい、そりゃよかった。良い食べっぷりだったよ」
「あ、ところで宿は空いてますか?今日の宿も探しているんですが」
「空いているさ、じゃなきゃ飯なんて食わせやしないさね。そこの階段から2階上がって左側の真ん中の部屋使いな。」
そう言っておかみさんが鍵を渡してくれたので早速2階に上がり、言われた通りの部屋の鍵を開けてすぐにベッドに寝転がった。ふかふかのベッドに横になった時にはすぐに眠気に誘われて…ん?今ノックの音が聞こえたか?幻聴か?
「そういえばあんたシャワーでも浴びたらどうだい?結構臭うよ?」
とおかみさんの声がする。確かに野宿生活で気にしなかったがせっかくの綺麗なベッドを汚してしまうのは申し訳無いので1階に降りてシャワーを借りてから再びベッドに入り、明日の約束があるのですぐに眠りについた。
朝目が覚めると早速朝食を食べに1階へと降り、朝食を済ませると宿泊代金を払いギルドに向かう。この街に来たばかりなので2人との待ち合わせもギルドにしておいたがプレートに名前を掘ってもらうこともついでに出来るので待ち合わせをギルドにしておいて良かったなぁと、思ったのだが…
「へへっ良い面した女が2人、ギルドに何の用だよ?まさか冒険者になったワケじゃねぇよなぁ?」
と、またもや2人が絡まれてる姿を見つけてしまう。あの二人は変な虫を寄せ付ける匂いでも出して居るのだろうか?
仕方が無いので足取り重く2人の元へ向かうシグであった。
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