おまけ4 都市国家ダイアスパー

「ところでこの乗り物はどんな出自なんですか。文明が進んだ異星人の乗り物なんて事は無いですよね」


 椅子の大きさが人間サイズなのだ。

 それに見たところ操作系も何となく何処かで見たような形。

 僕の目には地球の科学が進化した結果の産物のように見える。


「どう思う?」


 リーランド大叔父、そう尋ね返してきた。

 まあ大体の想像はついたので言ってみる。


「此処は遠未来の地球で、科学文明が一度滅びた後。この乗り物はかつての科学文明の遺物。

 魔法ってのはよくわかりませんが、きっとクラークの第3法則※みたいなものなんでしょう。違いますか?」


 大叔父、にやりと笑った。

 何と言うか笑い方はウィリアム兄とよく似ている。

 体格は全く違ってリーランド叔父はむしろガリガリに近い感じで細いのだけれども。


「惜しいな。一箇所だけ違っている。それでは正解だ。この船の搭載AIに自己紹介させよう。アイリス、自己紹介」


 この乗り物には対話型の人工知能がついている訳か。

 SF的な定番だな。

 それにしても違う箇所とは何処なのだろう。


「わかりました。それではリチャード様、始めまして。私は第3次星系移住船団所属のヘルメス3型連絡艇『アイリス』の管理コンピュータ、アイリスと申します」


 流石未来のAI、流暢に喋るな。

 そう思って気付いた。

 星系移住船団だって!?


 それって出発前なのだろうか、それとも出発後なのだろうか。

 もし出発後だとしたならば、此処は地球では無く……


「もうわかっただろう。此処は地球では無い、別の星系だ。場所の説明はしにくいが地球から1,400光年程離れているらしい。

 惑星の大きさも地球と違う。もっと小さい星だ。比重が高めだから重力は0.85Gと地球に近いけれどな。


 つまりはまあ、マクロスの超長距離移民船団が到達した先という感じな訳だ。統合軍も統合政府も無いしバロータ軍もバジュラもいないけれどな」


 微妙にわからない単語が出てきたが、意味そのものは理解可能だ。

 つまりここは地球では無く他の惑星。

 でも待てよ。


「移住という事は、人間そのものは地球人の末裔という事ですか?」


「その通りだ。どうやら移民船団が出た頃は、英語も日本語も理解可能な文法と単語で存在していたらしい。おかげで俺だけがこの船や他の遺産の機能を使う事が可能だ。


 だからこそ他の人に任せられない事が多かった訳だ。まあ趣味的に一致するパワードスーツがあったり、この惑星のラグランジュ点に現存する船団を構成する他の巨大宇宙船を確認しにいったりなんて事もしていたけれどな」


 聞き逃せない事を聞いた気がする。


「この船以外にも宇宙船があるんですか!」


「ああ。今、基地にあって宇宙まで飛べるのはこの『アイリス』と、同型の連絡艇の『マーキュリー』。あと飛行可能な中型パワードスーツ『クラトス』や無人偵察艇のアドラステア級なんてのもある。


 元々盗賊団が発見して拠点として使っていたのが全長8kmの巨大揚陸艦『デュカリオン』だったからな。まあ連中は言語がわからないから『アイリス』を非常モードで動かすのがやっとだったけれど。


『デュカリオン』は飛べないがそれ以外のほとんどの機能はまだ生きている。あとラグランジュ点に現存する宇宙艦艇にはもっと巨大で機能がほぼ完全に生きているものもある。

 その気になれば更に他の星への移住を考えたり、地球への帰還を企てたりなんてのも可能だ」


 そう言って、そして大叔父は手元のジョイスティック状の機器をささっと操作する。

 モニタスクリーンの1枚が映像を映し出した。


 険しい山の中の盆地に唐突に広がる田園都市。 

 畑や水田らしい場所が広がり、中央に四角い石造っぽい建物が並ぶ街がある。

 フェリーデの街とは明らかに違う、近代的に見える都市国家風の場所だ。


「ここが今の俺の拠点、ダイアスパーだ。

 見たとおり、かなりこの星の標準とは違う街になってしまった」


 かなりというか、これは……


「完全に21世紀初頭レベルか、それ以上の街ですよね」


 何と言うか論外だ。

 この世界にこんなの、あっていいのだろうか。

 そう思ってしまう。


「言いたい事はわかる。だが仕方なかった。魔竜、正確には連絡船『アイリス』を使った盗賊団は思った以上に広い範囲で蛮行を繰り返していた。相当広い範囲で、数多くの人間が難民として生きるか死ぬかの状態だった。


 てっとり早く効率的に最低限の生活を立て直そうとした結果がこれさ。揚陸艦『デュカリオン』メイン反応炉のアイドリング出力を前提にして組み上げた近代都市だ。


 エネルギーはあと千年分以上はある。教育体制も整えて、俺がいた頃の日本以上の科学水準を理解・維持出来るようにした。

 まあ『デュカリオン』の情報庫にあった古代の知識や学問体系をそのまま活用しただけだけれどな」


※ マクロスの超長距離移民船団

  マクロスとはこの場合、テレビアニメ『超時空要塞マクロス』(1982~1983)及び続編、外伝からなる、アニメを中心とした作品群のこと。

  OVA『超時空要塞マクロス Flash Back 2012』で第1次超長距離移民船団が出て以降、幾つもの超長距離移民船団が出ていることになっており、中には超長距離移民船団そのものが舞台となっている作品もある。


※ 統合軍も統合政府も無いしバロータ軍もバジュラも

  上記マクロスシリーズに出てくる組織。なおバロータ軍やバジュラは地球外生命体で敵。


※クラークの三法則

 クラークとはSF作家のアーサー・C・クラーク(1917~2008)の事で、法則とは下記載の3つ。ここでリチャード君が言ったのは3番。

 1 高名で年配の科学者が可能であると言った場合、その主張はほぼ間違いない。また不可能であると言った場合には、その主張はまず間違っている。

 2 可能性の限界を測る唯一の方法は、その限界を少しだけ超越するまで挑戦することである。

 3 十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない。

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