おまけ3 逸般人同士の邂逅

 階段をのぼりきった。

 あとは目の前のゆるい坂を登り切れば山名標だ。

 メモにあった標柱とは山名標の事だろう。


 それにしても登山客が多い。

 この中で果たして大叔父が見つかるだろうか。

 そんな危惧を抱きつつ最後の坂を登り切る。


 山名標付近はやっぱり人が多かった。

 時計をちらっと見る。

 13時30分、フェリーデ風こちらの言い方で言うと昼1半の鐘まであと6半時間10分程度だ。

 

 此処は人が多い。

 山名標が見える少し離れた場所で待っていようか。

 そう思った時だった。


「日本語と英語、どっちが読めたのかな。英語は苦手なんで、日本語の方であったのなら助かるのだが」


 一瞬感じた違和感の正体にすぐに気付く。

 今のは日本語だ。


 とっさに声のした方を見る。

 人がいない訳では無いが、こちらを向いて喋っているような人は見当たらない。


「日本語でいいようだな。この言葉がわかるのならケーブルカーの駅と反対方向へ登山道に沿って歩いてきてくれ。此処は人が多すぎて、いない筈の人間が出てくるには向かないから」


 間違い無い。

 姿は見えないが間違いなく転生者、それも元日本人がいる。

 大叔父かどうかはわからないが、年配の、それも父によく似た声だ。


 声の主の居場所と意図は不明。

 だが言う通りにして問題は無いだろう。

 僕は言われた通り登山道を駅とは反対側へと向かう。


 ピーク部分を過ぎ下り坂になると周囲の人が一気に少なくなった。

 これは南側の展望が無くなるからだろう。


「4人ほどついてきているようだが、あれは護衛か? もしまいたり姿をくらませても問題無いなら歩きながらでいいから頷いてくれ」


 僕はわかりやすいように大きく頷いて見せる。 

 

「わかった。それでは回収する」


 回収?

 そう思った瞬間、周囲の風景がぼやけて歪み灰色に溶けた。

 足下の感覚がない。

 何だこれは、こんな魔法は知らないぞ。


 ふっと周囲が白色になった。

 いや、白色の部屋だ。

 モニタスクリーンが横並びになっていたりして、アニメに出てくる宇宙船の艦橋っぽい。


「どうだい、UFOによってアブダクションされた気分は?」


 部屋の中央、いかにも艦長席ですという感じの場所から白髪の男が立ち上がる。

 一目見てすぐに大叔父だとわかった。

 声も見た目も父とよく似ているのだ。


 ただ、どう見ても父より若く見える。

 父より歳上の筈なのだけれども。


「リーランド大叔父様ですね」


「ああ。あと自己紹介はいい。大体はダルトンに聞いている」


 なるほど。

 ならちょっと気になった事を聞いてみよう。


「ところでその、アブ何とかって何ですか?」


「アブダクションを知らないか? UFOに連れ去られる事をそう言うんだが。ミューティレーション※とかと同じで有名なUFO用語だと思うんだが。日本にいた世代が違うのだろうか」


 そう言えば聞いた事があるような気がしないでも無い。

 ただしそういったものが流行ったのは僕より上の世代の筈だ。

 それにそういった事を知っているマニアだとは思われたくない。


「まあいずれにせよ、リチャードは日本語が通じるようだし日本人であるのは確かだろう。ところで小学校高学年の頃やっていたガンダムはどの世代だった?」


 普通は生まれた年を聞くところだと思うが、ガノタ※はガンダムで世代を区別するようだ。

 ならちょっとネタで遊んでみよう。


「機動戦士Oガンダム※です。呪われたステロタイプがスーパー・ジオンと戦う」


 リーランド大叔父と思われる男は表情を変える。


「ちょっと待ってくれ。あれは俺の方では存在しない、たんなる冗談記事だった筈だ。ひょっとして平行世界パラレルワールドの日本から来たのか」


 しまった、話が複雑になってしまいそうだ。

 ここは大人しく白状しておこう。


「冗談です。ZZ※だったと思います」


「ZZか、難しいな。ZZとV※の間は結構空いているからなあ」


 さて、僕は此処にガンダム談義をしに来た訳ではない。

 というかそもそも此処が何処なのかすらわからない。


 ただ想像はつく。

 大叔父の言葉からして、僕はロト山の登山道からUFOに連れ去られた形なのだろう。

 そしてUFOと言うと思い当たるものがある。


「ところで此処は魔竜の中ですか?」


「ああ」


 彼は頷いた。


「かつてトレバノスの奥地でシックルード領騎士団と戦った魔竜そのものだ。その正体は見たとおり、進んだ科学技術が作り出した未来の乗り物。


 たまたまこの機体を見つけた盗賊団が非常モードで動かして近くの集落だの街だのを襲っていた。それが魔竜の正体さ。

 魔竜との戦いの真相をダルトンから聞いただろ」


 僕は頷く。


「ええ。ゴーレムで取り付いて乗り込んだと聞きました。ダルトンは巨大な飛行型ゴーレムと言っていましたけれど」


「巨大ゴーレムか。まあ間違いではないかもな。乗り込んだ後、乗っていた盗賊団を睡眠魔法で制圧。この機体の操縦権を得た訳だ。


 ただその後が大変だったな。盗賊団の始末だの被害者の救済だのをやっているうちに20年近く経ってしまった。


 そして久しぶりにシックルード領を見てみようと来てみたら、いつの間にか鉄道なんてのが走るようになっていた訳だ。しかも列車は旧国鉄色でデザインがキハ20だのキハ55。

 これは偶然じゃないだろう。そう思ってダルトンにカードを持たせた訳だ」


 なるほど、車両が旧国鉄色でキハ20モチーフとわかった訳か。

 どうやら大叔父、ただのガノタではなく、鉄としての素養もあるようだ。


■■■ 逸般人用語の解説 ■■■


※ ミューティレーション 内臓や血液を失った動物の死骸が見つかる怪現象のこと。UFOの仕業だとされている。


※ ガノタ ガンダムオタクの事 GUNDAM-OTAKUを略した結果、GUNOTAとなった。これではグノタだって!?

深く考えるな、感じるんだ!!


※ 機動戦士Oガンダム アニメ誌『OUT』上に掲載されたパロディ企画『機動戦士Oガンダム・光のニュータイプ』。

  つまり実在しない。なお世代的にはZZガンダム相当。

  なおダブルオーガンダムとは全くの別物。ついでに言うとオガンダム(コロコロコミック掲載の漫画『超人キンタマン』に出てきたキャラクター。後に著作権の関係でバカラスとなった)とも別物。


※ZZ 機動戦士ガンダムZZ ガンダムのTVシリーズ3作目。1986年~1987年放送。


※V 機動戦士Vガンダム ガンダムのTVシリーズ4作目。1993年~1994年放送。敵味方死にまくるわ狂うわギロチンするわでガンダム中トップクラスのエグさ? を誇る作品。

 

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