おまけ2 気分は一人旅
面倒なのは警備の皆さん対策だ。
僕の身辺には常に4人以上の警備がついている。
大叔父に会うなんてのを見つかったら何がどう反応するか、わかったものじゃない。
なにせ大叔父、シックルード家を伯爵家に昇爵させた立役者で竜討伐を行った国家的英雄だ。
なおかつ既に死亡認定されている。
そんな存在がいきなり再登場したら、少なくともシックルード家的には大事だ。
かといって警備の皆さんをまくなんてのはやりたくない。
見失った事で責任問題なんて起きたら嫌だからだ。
ここは正攻法と行こう。
という事でマルキス君に直談判する。
「明後日、すこしばかり知られたくない相手と密談する約束が出来た。安全は確認してあるが、相手を知られたくない。
だから相手を確認するな、僕の後を追うな、見失った場合でも警備の責任は取らない。そういう体制を取る事は出来るか? 場所はスティルマン領内を予定している」
「難しいですね」
マルキス君はそう前置きして、そして続ける。
「リチャード様の身辺警戒部隊は指揮系統的にはウィリアム様の配下となります。ですからもしその指示を徹底するのなら、ウィリアム様に直談判するのが一番確実かと」
なるほど、確かにその通りだ。
ならばウィリアム兄に話を通しておけばいいだろう。
警備の皆さんからの情報がウィリアム兄まで行ったところで止めて貰えれば。
よし、直談判だ。
話をするなら早いほうがいい。
「なら行くか、領主館へ」
「今からですか?」
問題無い。
「まだ夕食前の筈だ。それに領主代行と確実に話をするならこの時間が一番確実だろう」
昼間は領主代行業務が忙しい。
4月の一番忙しい時期に僕やパトリシアの結婚式で領を空けたのが未だに響いている。
それに北部縦貫線の関係で他領との結びつきが強まった今、業務が更に増えているようだし。
そんな訳でマルキス君操縦のゴーレム車で、領主館へ。
◇◇◇
そして当日の昼、僕はスウォンジー北門駅からモレスビー港行きの普通列車に乗る。
ウィリアム兄とは話を取り付けた。
有給もしっかり取った。
これで問題無く話し合いに行ける筈だ。
なお警備はいつもの通り4人ついていた。
しかしウィリアム兄には話をつけてある。
『わかった。ただ警備は一応つける。万が一何かがあってはまずいからさ。ただそこで見聞きした事は口外させないし、何かが発生しても警備の責任問題にはしない。
これが僕としての妥協点だけれど、こんな感じでどうだい』
だから問題は無い筈だ。
乗車した普通列車はそこそこの乗車率だ。
最後尾、一番空いている筈の車両でもほぼ座席が埋まった状態。
なお車両はセミクロスシートのクモロ502。
運輸部の調査によると路面鉄道直通列車の方が乗車率が高く、またガナーヴィン方面行きは午前中の方が客が多い。
つまり空いている筈の車両でこれだけ乗っているのだから、鉄道の需要はいい感じで定着しているのだろう。
お気に入りのアヒル弁当を食べながら車窓を楽しんでいれば、グスタカール中央駅はすぐだ。
正直あと2時間は列車の旅を楽しみたいところだが仕方なく下車。
ケーブルカー駅までの道をのんびり歩く。
平日なのに観光客っぽい人でそこそこ賑わっている。
ロト山観光も完全に定着した感じだ。
通りに並んでいる飲食店や土産物屋もそこそこ繁盛している感じだし。
やはりガナーヴィンから気軽に来る事が出来るのが成功の理由だろうか。
ならガナーヴィンから遠いラングランド大滝観光は大丈夫だろうか。
昨年夏はまあまあだったけれど、今年の夏はどうなるだろう。
ラングランドの方は観光より林業や石灰石運搬が本業だから、今年の成績いかんでは観光を中止しようか。
そんな事を考えながらケーブルカー駅へ。
切符を買ってそのまま車両に乗って上へ。
登るにつれて景色が広くなっていく感覚はやはりいいな、なんて思っているうちに到着。
ケーブルカーも列車と同じで時間が短すぎると感じる。
久しぶりの一人旅だからそう思うのだろうか。
考えてみれば講演会以来、一人で旅を楽しんだ事は無い。
列車で出かける時も概ね仕事か何かで誰かと一緒。
一人で鉄道を楽しむという感じでは無かった。
今回も一応護衛さんは4人いるけれど、まあそれは置いておいて。
今回は大叔父に会うのが目的。
でも折角ここまで来たのだ。
売店の方も一応覗いていく。
売店の方の雰囲気は変わらない。
カウンターの方は太鼓焼きとおかず焼きがメインなのも相変わらず。
ただし新たにソフトクリームなんてものが増えていた。
しかもコーンが三角錐の、前世日本でもよく見た感じのものだ。
この形のソフトクリームは別に此処だけではない。
ガナーヴィンやスウォンジーの市場なんかでも売っている。
ただ観光地で売っているのを見るのは何と言うか新鮮だ。
このソフトクリームの形も前世の記憶を持つ誰かが作ったのだろうか。
そう思いつつそのまま買いそうになるのを思いとどまる。
食堂の方を確認してからにしよう。
食堂の方は冬に来た時とはまた様変わりしていた。
今度は夏の高原というイメージなのだろうか。
白と青を基調にした爽やかな感じだ。
あとメニューに海鮮丼なんてものが加わっている。
『遠くに見える海を眺めながら食べる海鮮もお勧めです』とあった。
いいのだろうか、山上のレストランなのに。
でも美味しそうな事は間違いない。
思わず入って注文したくなるのを堪えて売店に戻る。
本日は観光では無く大叔父に会いに来たのだから。
でもソフトクリームくらいなら買って食べながら歩いても問題無いだろう。
懐中時計で時間を確認、あと
3人並んでいるけれど問題無いだろう。
観光地のソフトクリームは食べたくなる魔力があるのだ。
だから食べるのは必然。
ソフトクリームを食べながら売店の外へ。
さて、此処から山頂までは歩きだ。
今回は上で大叔父に会うのが目的。
だから体力的な余裕を持っておいた方がいい。
そんな理屈で最初から身体強化魔法を起動しておく。
勿論本音は体力に自信が無いからだけれども。
なお弱めにだけれど自動回復魔法なんてのも起動しておく。
ここまで万全にしておけば山頂までの道だって問題無い。
実際5~6歳の児童だって登れる程度の道なのだ。
なので同じケーブルカーで登ってきた人々の群れから少し遅れて、のんびり山頂への道を辿る。
緑が綺麗だしソフトクリームが美味しい。
なかなかミルクの味が濃くていい感じだ。
もし帰りに売店に寄れたら、ローラや使用人の皆様分も買って帰る事にしよう。
そう思いつつ歩いて、そして最後の階段部分へ。
ここを登り切れば山頂だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます