エピローグの、その後で
おまけ1 読めない招待状
ローラと結婚して1ヶ月ちょっとが経過。
フェリーデ北部縦貫線の開業でバタバタしていた北部大洋鉄道商会もようやく落ち着いてきた。
新ガナーヴィン駅直結の百貨店もどきも順調だ。
当初は2階と3階だけだったのだが、夏には4階も開業する予定になっている。
入居希望は200件以上来ている。
今はその中から出店する商会を選別している状態だそうだ。
次の課題はシックルード領、スティルマン領以外での更なる鉄道路線の拡張と、サルマンドの温泉リゾート。
午前中はいつものように会議と決裁で潰れた。
だから午後は技術部というか工房へ行って、それから観光開発部を回ろう。
商会長室で昼食をとりおわってそんな事を考えている時だった。
ダルトンが商会長室にやってきたのは。
「どうしたダルトン、何か起こったか?」
ダルトンの様子がいつもと違う雰囲気だった。
何と言うか、落ち着かない、そわそわしているという感じで。
「実はこのようなメモを受け取ったのです。商会長なら読めるかもしれない、そう思って持って参りました」
何だろう。
僕はこの世界ではフェリーデ語しか理解出来ないのだけれど。
そう思いつつ、僕はメモを受け取る。
メモはこの世界でよく使われている細長い厚紙タイプのもの。
そこにはこう書いてあった。
『もしもこのメモが読めましたら、下記の日時にこちらに来て頂けると幸いです。
6月5日 13時30分 ロト山第三ピーク標柱前
元、津々井文明 こと リーランド・アイザック・シックルード
If you can read this memo, I would appreciate it if you could come to the following place on the following date and time.
June 5th 13:30 In front of Mt. Loto 3rd peak pillar.
Former Fumiaki Tsutsui, also known as Leland Isaac Sickrude』
一瞬脳味噌がバグった気がした。
フェリーデ語ではなく、日本語と英語で書いてあったからだ。
そして続く名前が、日本人らしい名前と大叔父の名前。
ちょっと待って欲しい。
確かに大叔父の行動は転生者っぽい気がしなくもない。
大叔父が名付けた地名もガンダムのパクリっぽいものが多い。
しかし何故、これが……
混乱しそうになる頭を何とか整理する。
まず、確認するべきなのは……
「これは本人からか?」
大叔父の名前を出さずに尋ねる。
ダルトンは頷いた。
「ええ、20年経ってはいますが、まちがいなくあの方でした。
リチャード様はこれを読めたのですね」
僕は頷く。
「ああ、読める。しかし何故これを僕に」
「つい先日、あの方と再会しました。魔竜、あの飛行型ゴーレムに襲われた人々の救助やその後の生活支援、更には危険な技術の封印など、東でやるべき事が山のようにあって、気がつくと20年経っていたという事です」
僕は頷きながらダルトンの話を聞く。
「それで何とか一息ついた後。シックルードやフェリーデがどうなったかが気になって、先日こっそりやってきたそうです。
そうしたらシックルード領の様相が一変していた。今までに無かった鉄道が敷かれ、一気に発展している。これは背後に自分と同じような知識を持っている者がいるのかもしれない。そう思ったそうです。
このメモはあの方に先日お会いして、この20年間の話をした時に渡された物です。書いてある内容は私には読めません。判断もリチャード様にお任せすると言っておられました」
「鉄道を考えて広めたのが僕である、そう相手は知っているんだな」
ダルトンは頷く。
「ええ。鉄道について聞かれた際、話しましたから」
なるほど。
「これは時間と場所を指定した案内状だ。読めるならばこの時間に、この場所に来てくれ。そう書いてある」
「そうでしたか」
ダルトンは頷く。
ところでダルトンはリーランド大叔父から聞いているのだろうか。
転生前の記憶があるという事を。
ここは聞いてみた方がいいだろう。
ただし、他の人に聞かれてもわからないような言葉を選んで。
「ダルトンはその人から聞いているのか? 僕が持っているかもしれない知識がどういうものかを」
ダルトンは頷く。
「ええ。聞いています。この国でも時々あるようです。そこまで細かく覚えている事は滅多にない事のようですけれども」
なるほど、ダルトンは全てを知っている訳か。
つまり大叔父は全てを話したと。
ダルトンが大叔父と言うのなら、多分それは確かだろう。
ただ大叔父がどういう意図で僕を呼び出したのかはわからない。
単に前世の話をしたいのか、それとも別の意図があるのか。
しかし僕はどうするか、既に決めていた。
興味が抑えきれなかった。
だから僕はダルトンにこう告げる。
「わかった。場所と日時は言えない。しかし私用として6月5日に休みをとる事にしよう」
「わかりました。それでは庶務の方にそう伝えておきましょう」
「ダルトンはどうする?」
一緒に行くかどうか聞いてみる。
彼は首を横に振った。
「私はひととおり話をしてきました。ですので
「わかった」
僕は頷いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます