第15話 UFOの正体

 倒れているのは10人で、全員男。

 睡眠魔法が効いていて起きる気配は無い。

 全員、魔法耐性が無かったようだ。


 服装から見る限り、このUFOの本来の使用者ではなさそうだ。

 山賊とか野盗とかがたまたま見つけて使っていた、という雰囲気。


 それでこのUFOの方はどうなっている。

 俺は部屋の中を改めて見回す。


 前方には壁の幅ほどある長いスクリーンがあり、このUFOの周囲を映し出している。

 その下にはいかにも操作卓という感じで、小さいディスプレイやキーボード、ジョイスティックらしきものが並ぶ机。

 操作卓には4人分の席があり、それぞれの横に男達が倒れている。


 それらの席の後ろ側、スクリーン全面や操作卓についている全員を見る事が出来る位置に偉そうな席がある。

 ここの他より偉そうな椅子にもごつい男が倒れ込んでいた。

 このUFOの艦長席か何かだろうか。


 スクリーンを見る限りではこのUFO、停止しているようだ。

 映し出されている景色がほとんど動いていない。

 静止画ではない事は、画面左に移っている草が風に揺れて動いている事でわかる。


 取り敢えずこれで侵攻や攻撃は止んでいるようだ。

 さて、次はこのUFOをどう扱うか。


 静止しているという事は操作していた奴がいたのだろう。

 ならばという事で、一番偉そうな席についているディスプレイを見てみる。


『Emergency mode』

 画面上に表示されている窓のひとつに、確かに英語でそう表示されている。

 更に画面下にはAttackとかHelp等といったボタン等が並んでいた。

 カーソルらしきものも表示されている。

 どうやらジョイスティックで操作し、ボタンを押す仕組みのようだ。


 また右上にENGLISHなんて表記があるボタンもある。

 これを操作すれば日本語モードになってくれるだろうか。


 操作するには倒れている男が邪魔だ。

 どかそうとして一瞬くらっとくる。

 そうだ、俺はここまで来るのもやっとだったのだ。

 身体強化魔法を限界までかけているのに、自分の身体に力が入らない。


 それでも何とか男を横に転がして、倒れ込むように席につく。

 座ったと思った瞬間、視界がブラックアウトしかけた。

 思ったより俺の身体、参っているようだ。


 緩衝装置なしに、ゴーレムの加速を受けたせいだけではないだろう。

 身体強化魔法をかけまくった事が、相当な負担になっているようだ。

 何せ元々あまり頑丈では無いのだ、この身体は。


 治療魔法と回復魔法を自分自身にかける。

 ただ何度もかけまくっているし、俺が使用可能な治療・回復系魔法は初級程度まで。

 それでも気休め程度には意識がはっきりした気がする。


 俺は右手をジョイスティックに伸ばす。

 ジョイスティックを動かすと予想通りカーソルが動いた。


 ENGLISHのボタンにあわせて、ジョイスティックについているボタンを押す。

 予想通り言語一覧が出てきた。

 フェリーデ語は無いが、日本語はある。


 日本語を選択。

 一気に表示が見やすくなった。

 ヘルプボタンがあるのでそれを選択。


『調べたい内容を入力して下さい。音声入力も可能です』


 そんなメッセージ表示にほっとする。

 身体を動かさなくてもいいようだから。

 腕や手を動かすよりも話す方が幾分か楽だろう。


 ただ日本語は前世以来だ。

 上手くしゃべれるだろうか。


「非常時モードとは何だ?」


 微妙に発音が変だったかもしれない。

 大丈夫だろうか、そう思ったところで画面にメッセージ窓が表示される。

  

『今回の非常時モードは、安全な飛行を指示・操縦する事が出来ないと見做された事によって起動しています。操縦者が仮乗員登録を行い、簡易操縦要領を記憶域へ転送する事によって解除されます』


 つまり脳内に操縦要領を書き込まれるという訳か。


「その仮乗員登録にはどれくらい時間がかかる? あと仮乗員登録を行った場合、登録者にリスクはあるか?」


『転送は5秒程度で完了します。転送中に僅かな目眩を生じる事はありますが、それ以上の健康リスクはありません』


 なら問題無い。

 それくらいなら今の俺の身体でも何とかなるだろう。


「わかった。なら俺を仮登録してくれ」


『仮登録申請、了解しました』


 ふっと視界が歪んで、思考に妙な異物感。

 しかしそれは一瞬だった。

 何だったのだ、今のは。

 そう思った瞬間、俺は気付いた。

 今までなかった知識が当たり前のように思い出せる。


 操縦方法は勿論、このUFOの正体が何かもわかる。

 まるで昔から知っていたかのように。


『身体の状態が危険なようです。早急に治療措置を行う事を提案します』


 いきなりそんな表示が出てきてしまった。

 そんな事はわかっている。

 治療魔法と回復魔法をかけないと辛い状態なのだ。

 元々身体が弱い上、今日は大分無理している。


 しかし今はやることがある。

 まずは転がっている連中の始末からはじめよう。


 俺はこのUFO、正確には第3次星系移住船団所属のヘルメス3型連絡艇『アイリス』の管理コンピュータに呼びかける。


「アイリス、この部屋にいる俺以外の人間を第2乗員室に収容。収容後、部屋から外へ出られないように頼む」


『了解。ただし監禁措置には理由が必要です』


 理由か、ならこれではどうだ。


「無関係の人間に対して攻撃を仕掛けた。アイリスならば彼らの魔法や武器など脅威にはならなかった筈だ。違うか?」


 俺の新しい知識では、これは充分拘束理由になる筈だとされている。


『了解しました。その通りと認めます。内鍵を完全にロックし、監禁措置をとる事にします』


 大丈夫だったようだ。

 そう思ったと同時に男達の姿がさっと消えた。


 これで目の前の懸案事項は解決だ。

 では次、そう思ったところでくらっと来た。

 やばい、本当に俺の身体、参っているようだ。

 治療魔法と回復魔法をかけても、あまり良くなった気配が無い。


「進言、至急治療措置を行って下さい」


「治療措置はこの艇で可能か?」


「可能です」


「所要時間は」


「治療措置に半日、その後最低でも10日間の安静は必須です」


 時間が足りない。

 この艇アイリスの始末を考えなければならないのに。


 この艇アイリスの能力は今のこの国フェリーデ、いやこの世界には過ぎたものだ。

 使用可能というだけで余分な争いが起こる可能性がある。

 間違えても俺の屋敷とか領主館になんて持って行けない。

 

 とりあえずこの艇アイリスの存在は隠した方がいいだろう。

 その上で善後策をゆっくり考えよう。

 ならば……お別れだ。

 俺は覚悟を決める。


「アイリス、わかった。ただ治療措置の前に、外にいる人間にメッセージを伝えたい。これから俺がこの国の言葉で話すメッセージを録音した後、外部スピーカーを展開して前方右斜め下にいる集団に聞こえるように流してくれ。出来るな」


『了解。メッセージをどうぞ』


 ここからはフェリーデ語だ。

 そう意識してから口を開く。


「シックルード領立騎士団の諸君、リーランドだ。現在この竜の意識に精神同調魔法をかけている。とりあえずこれ以上の襲撃は無いから安心してくれ。

 私はこれからこの竜が出てきてしまった問題を解決しに行ってくる。シックルード領及びフェリーデを離れる事になるが心配しないでくれ。

 以上だ。それでは後を頼む」


 こんなものでいいだろう。

 俺は椅子に全体重を預けて倒れ込む。

 もう限界だ。

 でも気絶する前に、指示をしておかないと。


「アイリス、メッセージを流した後、この山脈の奥、人が近寄ることが出来ないような場所で、一時待機。俺が治療から回復して、指示を出せるようになるまで、動くな。

 あと」


 呼吸が苦しく感じる。

 ゆっくり大きく息を吸い込む。

 大丈夫、もう少しだ。

 指示さえしてしまえば何とかなる。


「監禁措置にした連中は、部屋の外に、出すな。食事は一応、3食、取らせろ。可能だ、な」


 俺に与えられた新しい知識は可能だとわかっている。

 これは単なる確認だ。


「了解しました」


「それでは、治療を、頼む」 


 言い終わったと思った瞬間、俺の意識が薄れはじめた。

 どうやら完全に限か……

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