第14話 侵入

 敵は狭隘部を抜けようとしている。

 時間はあまり残って無い。


 俺は機体を全速力でこちらに向けて飛ばす。

 言うべき命令を3秒で考える。


「セルジュ百騎長、予定変更だ。魔法部隊が相乗りしているゴーレムは崖上を走らせて敵を追ってくれ。2離4km下でもう一度、岩壁を破壊して敵を攻撃する。

 今度は狭隘部ではない。谷の地形が変わるくらいにやらないと効かないだろう。後先は考えなくていい。目一杯の威力でやってくれ」


「わかりました」


「頼む。あとダルトン君、大型ゴーレムが俺の操縦を離れた時点で、回収出来れば回収を頼む、うまく行くかはわからない。すこしばかり強引な作戦をさせて貰う」


「何をされる気ですか?」


 此処で説明するつもりは無い。

 あれが乗り物であり、非常用進入口があるなんて事、納得出来るように説明出来る自信は無いから。

 それに説明出来るような時間も無い。


「とっておきの作戦を仕掛けてくる。なお次の岩壁攻撃を行った後、この本部は直ちに閉鎖、予定の地点まで待避してくれ。攻撃が成功したかどうかを確認するのは待避後でいい。

 無駄死にするな。これは領主家の一員としての命令だ」


「わかりました」


「なら行ってくる」


 俺は立ち上がり、天幕出口へ向けて歩きはじめる。

 ダルトン君が後を追おうと立ち上がった。

 手で制して、そして付け加える。


「ダルトン君は先程言った通り、ゴーレムの回収を頼む。ただし攻撃開始後は待避が第一だ。回収はその後でいい。頼むぞ」


 振り向かずに天幕の外へ。

 ちょうど上空から俺のロボットが下りてきた。

 身体強化魔法を起動し、全身を限界まで強化。


 ロボットの着地と同時にジャンプし、下げた右手に捕まる様に登る。

 今回はすぐ外へ出るので内部の操縦室に入らない方がいい。

 ロボットの右手を軽く握り、俺自身が落ちないようにしてから飛行開始。

 強烈なGは身体強化魔法で何とか耐える。


 崖上を飛行していくと、ちょうど敵が先程指定した第二攻撃地点にさしかかるところだった。

 さて、うまくいくか。

 

 搬送用ゴーレムが魔法を放った。

 土属性魔法の地割れ、そして熱魔法の爆破だ。

 崖が一気に崩壊をはじめた。

 岩壁がめくれるように剥がれ、そして落ちていく。


 崖の上に陣取った搬送用ゴーレムも足場が崩れ、下へと落ちていく。

 これで戦力となるゴーレムは1体しか残っていない。

 俺を乗せているこの大型ゴーレムだけだ。


 敵は谷の中央ヘと寄る。

 それでも大規模に破壊した岩壁の巨大な岩が届きそうだ。

 敵はレーザーを放ち、崩れてくる中で最大の岩を破壊した。

 チャンスだ。


 加速が内臓をぶん殴るように襲いかかる。

 身体強化を最大にしても、更に厳しい。

 しかしまだまだだ。


 崩れた岩塊の中央に敵の巨体が見えた。

 よし、今だ。

 ロボットの左右腰に装着したスラッシュハーケンを射出。


 反動で視界が一瞬ブラックアウト、そして胃を吐きたくなるような衝撃。

 しかし何とか堪える。

 少し胃液は吐いたけれど。


 ワイヤを巻き付け、引き寄せ、敵本体にロボットの機体を密着させる。

 ほぼ予定通りの位置だ。

 非常口横は俺のロボットの手の届く範囲にある。


 ロボットの右腕を伸ばしてあの非常口横へつける。

 ロボットの手の平で俺自身を囲うようにして身体を支えつつ、両腕に目一杯力を込め、ロックと思われる回転部分を回す。


 すっと横の四角形部分が開いた。

 やはり英語で書いてあった通りの意味だったようだ。

 俺は敵魔物とされていたUFOの中へと乗り込む。


 白い壁、白い天井、未知の材質。

 しかし詳しく調べている余裕は無い。


 全力で魔法探査をかける。

 この乗り物全体に魔法が通った。

 魔法の無力化措置は無いようだ。

 乗っているのは10人程で、全員が同じ場所にいる模様。


 乗っている10人のうち数人の動きが変わった。

 俺が侵入した事に気づいたのだろうか。

 今の俺では近接戦闘なんて無理だ。

 魔法で片づけるしかない。


『睡眠魔法・強!』


 乗っている全員にかかるような範囲で起動する。

 あまり得意ではない生命魔法が効くだろうか。

 そう思った直後、敵10人の魔力反応が弱まる。


 どうやら効いたようだ。

 全員、魔法に対する抵抗力があまり無かった模様。


 それでは行こう。

 俺は走ろうとして、そして倒れそうになった。

 今まで受けた衝撃で身体が大分キているようだ。

 

 壁に手をついて身体を支え、あまり得意では無い治療魔法を起動する。

 少し楽になった気がした。

 これで歩くくらいは出来そうだ。


 俺はゆっくり歩きはじめる。

 敵がいる場所まではおよそ5腕10m程度。

 位置的にこの通路の正面、四角で囲まれている凹みの向こう側の辺りだ。


 凹みはおそらく扉だろう。

 何処かに開ける為のスイッチか操作パネルが無いか。

 不明材質の白い通路をゆっくり歩きながら観察する。


 特にタッチパネル等を発見できないまま、扉とおぼしき場所の前へ到着。

 何となく手をかざしてみたが扉は開かない。


 どうしようか。

 思い付きで扉とその周辺に対して、精密魔力探査をかけてみる。

 周辺と少し異なる魔力を感じる場所が横の壁にあった。

 俺の知っている魔法や魔術式とは違う形だが、他に手掛かりはない。


 その部分に右手を当てて、軽く魔力を通してみる。

 凹みの内側の壁がすっと左にずれ、入口が出来た。

 どうやら正解だったようだ。


 扉の向こうは広い部屋らしい。

 何人かの男が倒れているのが見える。


 俺はその部屋の中へと一歩、足を踏み出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る