第13話 攻撃開始

「先導班確認。敵、11離22km地点。低空飛行中。移動速度等変化無し」


 どうやら魔法部隊の先導班の偵察魔法が敵を捉えたようだ。

 ならもうすぐ、俺達の偵察魔法の範囲に入る。


 そして、ついに俺達の偵察魔法の視界にも敵が入った。


「あれは……既知の魔物とあまりにも違います。竜の卵か幼生、あるいは蛹のようなものでしょうか」


 ダルトン君も見えているようだ。

 確かに既知の魔物と全く違う姿形をしている。

 銀色の紡錘形に幾つかのコブがついたような形で、首も手も足も、尾も羽根も見当たらない。

 

 それでもこの国フェリーデの常識では、これは魔物なのだろう。

 他にこのような代物を表現する言葉が存在しないから。


 しかし俺には前世の語彙と概念がある。

 滑らかな紡錘形と金属にも見える銀色の表面。

 あれは魔物というよりむしろ……


「UFOだな、まるで」


「えっ、リーランド様、何ですか?」


 UFOなんて単語、この国フェリーデには存在しない。

 地球を知っている俺だけだ、わかるのは。


 見た限りは飛行機やヘリコプターのような、揚力を利用した飛行では無い。

 ロケットのような噴射口も無い。

 下の地面に空気を吹き付けている様子も無いようだ。


 しかし何故UFOが低空飛行なんてしているのだろう。

 谷間に隠れるよう、ぎりぎりの高度で。


 何かから隠れているのだろうか。

 飛行制限みたいなものがあるのだろうか。

 それとも他に何か理由があるのだろうか。


 まだ攻撃は始まらない。

 狭隘部に入ってからだ。

 敵もまだ飛行している以外の動きは無い。


 じりじりと時間が過ぎていく。

 そしてもうすぐ俺達のいる狭隘部へと敵が入る、という時だった。


「敵、膨大な魔力反応!」


 まずい、これは。


「回避する!」


 俺は機体をジャンプさせ、更にバーニアを全開にする。

 敵の紡錘形の先端近くがスライドして、穴が出現。

 そこから俺の機体めがけ、エネルギーの奔流が放たれた。

 

 バーニアを全開したまま機体を捻り、右方向へ急速転回。

 ぎりぎりでそのエネルギーを回避。

 崖の一部が溶けて崩れたのが見えた。


「大型ゴーレム、損傷無し」


「魔法・ゴーレム部隊、異常なし」


「敵攻撃、光魔法か高熱魔法と思われます。既知の魔法と違いすぎてそれ以上解析できません」


 本部天幕内を飛び交う報告が聞こえる。

 いや今のは魔法じゃない、レーザーだ。

 なんて言っても通じないだろうと思うので言わない。


 しかしこれで俺は確信する。 

 あれは魔物では無い。

 遙か未来方向の技術が生み出した、機械だ。


 そしてあの機械、俺の機体を敵として認めたようだ。

 これは金属製でレーダーに反応しやすいからだろうか。

 単に目立つからだろうか。


 他のゴーレムはずっと小さいし、崖にへばりつくようにしている。

 だから視認しにくいし、レーダーなんて物があってもわかりにくい。


 さて、連続しての攻撃は来ないようだ。

 エネルギー充填に時間がかかるからだろうか。


 飛行しっぱなしでは俺の魔力を消耗する。

 だから一度、崖の上に着地。

 念のため他のゴーレムとは離れた場所に。

 さて、次の敵の攻撃が早いか、それとも……


「敵、予定地点」


 敵が攻撃予定地点に到達する方が速かった。


「攻撃開始」


 セルジュ百騎長が命令する。

 一瞬遅れて現場に弾ける魔力反応と、連続して響く爆発音。

 ゴーレムに相乗りした魔法部隊が爆破魔法で崖を崩したのだ。

 膨大な土砂と岩石が敵に襲いかかる。


 俺の機体は槍を取り出して構える。

 鉄の棒の先を魔法で尖らせただけの、急造の槍だ。

 何せこの機体、本来は作業用として作ったので武器は無い。

 製鉄所に在庫があった手頃な鉄骨で急造した代物だ。


 それでも長さ6腕12m、重さは300重1.8tを超える代物。

 全力で突き刺せばそれなりの威力はある筈だ。


「敵、膨大な魔力反応! 攻撃来ます」


 レーザー光線がUFOに襲い掛かる大岩を溶かす。

 今まであの攻撃は連続して放ってこなかった。

 もし連射出来ないなら、今がチャンスだ。


 俺は機体を軽くジャンプさせ、そしてバーニアを全開にする。

 敵に槍を向け、重力も利用して一気に迫り、槍を全力で突き出す。


 ガツンと抵抗。

 刺さったか、そう思ったのは一瞬だけだ。

 槍の先が横方向へ滑った。

 固すぎて全く刺さっていない!


 すぐ近くの蓋が開き、砲口らしき丸い形が見えた。

 まずい! 反射的に敵機体を足で蹴って反動をつける。

 バーニアを全開にして、水平方向に出来る限り距離を取る。


 敵機体に何か一瞬見覚えがある何かが見えた気がした。

 しかし確認する余裕はない。


 すぐ背後をレーザーが通り過ぎた。

 機体を掠めて岩壁をジュッと溶かす。


「大型ゴーレム、左肩装甲一部溶解。動作に支障なし」


 相乗りして機体状況をモニターしているダルトン君の声。

 

 刺さらなかった槍が落ちていくのが見えた。

 拾いに行く余裕は無い。


「敵、見える限りでは損傷無し」 


「弩弓攻撃、弾かれています。効いていないようです」


「あれだけの攻撃ですら効かないとは」


 セルジュ百騎長の唸るような言葉。

 岩や土砂だけではない。

 俺のロボットも思い描いた通りに槍を突き刺した筈だ。

 しかし敵本体に小穴を開ける事すら出来なかった。

 やたら固い素材なのか、何か特殊な方法で強化しているのか。


 敵の魔力がまた膨れ上がったのを感じた。


「敵攻撃、弩弓部隊ゴーレム、3体とも大破」


 弩弓で攻撃していた人型ゴーレムがやられたようだ。

 直線的な攻撃で居場所がわかりやすいし、足もそれほど速くない。

 だから仕方ないと言えば仕方ない。

 

 しかしこのままでは勝てない。

 有効な攻撃が思いつかないのだ。

 先程の攻撃が通用せず、槍も失った俺達に何か手は残っているだろうか。


 ふと思い出した。

 先程俺が見た何かは何だっただろう。

 何か手掛かりになるかもしれない。

 縋るような思いで偵察魔法で場所を探る。


 機体側面、出っ張りの陰になっている部分だった。

 黄色と黒の縞々模様、更に赤色で囲まれた長方形。 

 そして長方形の中央にある下向きの赤い三角形。

 更に英語としか思えない文字で描かれている『EMERGENCY ENTRANCE』という表記。

 

 何故こんなところに英語表記が。

 ここはひょっとして地球なのか。

 俺は猿の惑星状態なのか。


 俺の偵察魔法は更にその長方形の横にある円形の構造物を発見する。

 引いて回すタイプのノブか何かに見える。

 しかも赤い矢印と文字が描かれている。

『TURN TO OPEN』

 やはり英語としか思えない文字だ。


 とっさに思考が頭の中を駆け巡る。

 もしこれが俺の知っている英語で、そのままの意味ならば。

 此処から敵の内部に侵入する事が出来る筈だ。


 他の作戦も思い浮かぶ。

 レーザー攻撃を放つ為に蓋が開いた場所。

 あそこなら槍を突き刺す事が出来るかもしれない。


 しかし槍は下へ落としてしまった。

 拾いに行けそうな状況では無い。

 しかも先程の攻撃、銃口からかなり横方向に逃げた筈の機体を掠めて来た。

 まっすぐで無く、かなり左右に狙える構造らしい。


 少しでも可能性があるのは……

 乗り込む方だろう、そう俺は判断する。


 なら覚悟を決めるとしよう。

 昔見た、ロボットアニメの主人公のように。

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