第11話 俺の役割

「つまりその対策部隊の総指揮官として、トレバノスへ派遣という事ですか」


 これは貴族家的には当然というか、仕方ない話だ。

 この国フェリーデの場合、貴族家の当代というか領主は王都バンドンに詰めている事が多い。

 議会や舞踏会等の外交行事等があるからだ。


 だから普通は貴族家の長男が領地を管理し、護る役割を担っている。

 シックルード家でも長兄のチャールズが領主代行として、最後まで領主館で領地全体の指揮を取る事になる。


 次男は領内でいざという時があった時の保険。

 だから領地から離れた王都バンドンにいるのは正しい。


 つまり有事に現場で家を代表して指揮を取るのは三男以下。

 シックルード家の場合、つまりは俺だ。


 もちろん貴族の穀潰しである三男坊に戦闘指揮なんて出来る訳は無い。

 現地総司令官というのは名目だけで、実際の指揮は専門職の騎士団幹部が行う。


 つまりお飾りの総指揮官という訳だ。

 領主家として、事態を重視しているという体面を示す為の存在。

 逆に言えばそれが必要な位には有事だという事でもある。

 

「それだけの事態という事だね。バーリガー領からの情報が本当なら、シックルード家の者を派遣しない訳にはいかないだろう」


 確かにその通りだ。

 

「現在、その化物の情報は何処まで話していますか?」


「領役所は補佐官筆頭のロッチナまで、騎士団は中隊長までだね。例外は現地の部隊と緊急対策室、あとはリーランドだけだよ、現在は。

 ただ、リーランドが赴任したと同時にもう少し広げる予定だけれどね」


 妥当な線だろう。

 そして俺が行かないという選択肢は無い。

 最悪の事態の場合を考えると。


 ならば俺としても全力を出させて貰おう。

 それにはそれなりの道具が必要だ。


「なら、領主予算で徴用を御願い出来ますか」


「この事態だ。よほどの物ではない限り許可せざるを得ないね。それは何処のかな」


 敵は空を飛ぶ巨大な怪物だ。

 第三騎士団が情報を秘匿して逃げ帰る程の。

 なら領騎士団の1個中隊程度では勝ち目が無い。

 魔法部隊を総出で出したとしてもだ。


 しかし今の俺にはもう少し気のきいた武器がある。

 厳密には『武器に転用できる』ものが。


「徴用するのは鉄鉱山の、大型工事用搭乗型ゴーレム1機、二足歩行型・内部搭乗空間付を3機です。あとはゴーレムを動かす為に、総務部業務推進室のダルトン室長、採掘管理部技術班のバートラー班長、シャッコ班長。


 なお3人に対する報酬はしっかり出してやって下さい。彼らがいないとゴーレムがまともに動きませんから」


 ゴーレムそのものは領騎士団の魔法部隊でも動かせるだろう。

 しかし整備は無理だ。

 だから申し訳ないけれどダルトン君を含む3人は一緒に来て貰おう。


「わかった。直ちに手配しよう」


 そんな訳で俺のトレバノス行きが決まってしまった。

 空を飛び、炎を吐く、巨大な魔物討伐の指揮官として。


 ◇◇◇


 そして翌朝。

 ゴーレムや補充部品、更には俺達を載せたゴーレム車13台の車列は無事トレバノスの騎士団臨時駐屯地へ到着した。


 現地部隊に挨拶をした後。

 徴用した3人はゴーレムの組み立て作業をして貰い、俺は早速現場責任者であるセルジュ百騎長と面談だ。


「現在の派遣部隊の配置はこのような状態です。第二中隊と魔法中隊第1小隊が主力となっています」


 現場の配置図と、人員をざっと確認する。

 出動しているのは合計165名。

 シックルード領騎士団は総員481名で、この数には常駐討伐とか定点監視隊、王都屋敷隊などの常時派遣部隊、更には経理部や装備被服部といった間接部門まで含んでいる。


「領騎士団としては出せる限界だな」


「ええ。それでも相手が情報通りなら勝算は薄いかと。

 それで現在、作戦はこのようになっています」


 配置図を見ながら説明を聞いて、作戦の流れを確認する。


 ① 魔法部隊から偵察班として3個班6人を出し、シックルード領境にて偵察活動、敵を確認したら、狼煙魔法で連絡。

 ② 主力部隊は敵が侵攻すると思われるアスタラ谷の狭隘部上の稜線東西に別れて配置。

 ③ 敵が侵攻してきたのを見計らい、崖の爆破で足止め。弩弓と長弓、投槍で敵を攻撃し、敵が落下した場合は突撃戦を実施。

 ④ ③の時点で後方連絡本部は領主宛へ連絡、更に③の戦況を確認の上、場合によっては付近の非常連絡・避難対策に従事。

   更に場合によっては撤収し、領主宛に緊急報告を行う。


 つまりアスタラ谷の狭隘部が唯一の防衛線という作戦だ。

 ここを抜けられると、後は戦闘できる部隊がいないという状態。


 この配置は正しい。

 兵力を漸次投入せず、全兵力をもって撃破に当たる。

 兵法上の基本通りだ。


 ひととおり説明を聞いた後、感想を言わせて貰う。


「この狭隘部で止められなければ、後の平地部に攻撃部隊を配置しても意味が無い。むしろ連絡と避難にリソースを使おうという配置か。

 敵の情報を考えると正しいだろう。あの特性では地上で第二防衛戦なんて張っても無意味だ」


 空を飛び、火を吐くまたは炎魔法を使用する敵だ。

 地上に騎士団なんて配置しても役に立たない。


「ありがとうございます。それでリーランド様はこちらの後方連絡本部の方へ詰めていただこうと思っております。いざ本隊に万が一の事が起こった際、指揮をとっていただく必要がありますので」


 セルジュ百騎長の意図はすぐに理解した。

 俺が配置可能な中で生き残れる可能性が一番高いのが、後方指揮本部だ。


 逆に言うと、派遣部隊の大多数を占める挟撃部隊とそれを直接指揮する現場本部は壊滅する可能性が高い。

 情報通りの敵なら、炎による攻撃だけで充分だ。


 結果、おそらく挟撃部隊のほとんどは未帰還となる。

 領主家としては大打撃だ。

 兵力としても、予算的にも。


 それでも領を護る領騎士団としてはこの配置以上に正しい配置は出来ない。

 この正しい配置を曲げるには、正しさ以外の力が必要だ。

 例えば領主家からの天の声とか。


 だから俺はセルジュ百騎長にこう告げる。


「なるほど、この作戦は正しい。

 しかし領主家の一員であり、この部隊の最高責任者である僕の一存で作戦を変更させて貰おう。

 これから作戦の変更点について説明する。説明が終わり次第、ただちに招集できる幹部を集めてくれ」


「どういう事ですか」


 セルジュ百騎長の視線を俺は正面から受け止める。


「作戦の基本的な配置は変えない。挟撃部隊の位置と第二命令以降の行動計画を変更。更に魔道部隊から1分隊6名引き抜き、別働隊を編成。

 具体的にはつまり、こういう形だ……」

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