第9話 理由は不明

 鉄鉱山は相変わらず順調だ。

 最近新たな鉱脈が発見され、採掘場所が更に増えた。

 これもゴーレム化の副産物みたいなものだ。


 ゴーレムを操縦するには土属性魔法の適性が必要だ。

 そして土属性魔法の適性があるのなら、土中の様子を魔法で知る事が出来る。

 おかげで新たな鉱脈が今まで以上のペースで発見されるようになったのだ。


 ただあまり遠い場所の鉱脈だと、採掘して運搬する時間が無駄になる。

 ついこの前発見して開発した第12鉱区あたりが限界だろう。


 それに採掘量は現状で充分以上。

 これ以上の増産は鉄鉱石が値崩れするおそれがある。

 だから鉱山の拡大はこの辺までにした方がいい。

 あとは業務の見直しと改善で業績向上を図るという方針で。


 ◇◇◇


 さて、鉱山経営はそれでいいとして、俺の趣味というか生き甲斐の巨大ロボット。

 ついに自由に性能を確認出来る試験場を確保した。


 場所は製鉄場がある山の反対側の谷間だ。

 ここは現在、何にも使われていない。

 かつては此処の雑木で製鉄用木炭を作っていたが、森林公社がルレセコイアの伐採を始めてからはそれも無くなった。

 製鉄場の巨大煙突が近いので農業にも適さない。


 鉄鉱山の事務所からはゴーレム車で5半時間12分かからない距離。

 ほどよく囲まれていて、騒音を出しても街まで響きにくい。

 平らな場所も斜面もあって、試験用には最高だ。


 勿論毎日この試験場に来ている訳では無い。

 週に1回までと自分で決めている。

 そうしないと仕事が進まないという事もあるけれど。


 また此処へ来る時はダルトン君にも同行して貰っている。

 彼は工科学校出なので機械に詳しい。

 それなりに魔法も使えるので、彼1人いればゴーレムの調整や改良が出来るのだ。


 こんな便利な人材は公社内にも他にいない。

 それにそもそも、この搭乗型ゴーレムの開発を最初から知っているのはダルトン君しかいないし。


 そのダルトン君の現在の役職は総務部業務推進室長。

 課長格の管理職扱いとなっている。


 そしてこの業務推進室は本来、業務改善の為に部署の管轄範囲を超えて横断的に問題解決を行う為という名目で設けた部署だ。

 実際は新型ゴーレム、というかロボットの開発にダルトン君を気軽に借りられるよう、僕がでっち上げたという面が大きい。


 しかし実際に業務改善で管轄範囲関係なく動いていたりもする。

 おかげで気を抜くとダルトン君、事業部のゴーレム修理から営業部のクレーム処理まで引っ張られてしまう状態だ。

 

 勿論ダルトン君が忙しくなり過ぎないよう、配慮はしている。

 そこそこ有能な部下も5人付けた。


 それでもダルトン君が動くのが一番早い場合が多い。

 能力の面もあるし、公社内だけでなく取引先にも顔が知られているし、管理職の肩書きもあるしで。


 ◇◇◇


 今日も何とかダルトン君を確保、昼食後に此処の試験場へ行き、更に改良を加えた巨大ロボットを試してきた。


 今回の改良点は、蒸気で打ち出すスラッシュハーケンを装備した事。

 名目上は通常の登坂方法では登れない崖等での機体保持の為。

 実際は勿論ロマン武器の一つとしてだ。


「スラッシュハーケンは発射時の反動が強いな。蒸気噴射をうまく使わないとひっくり返る」


「確かにこれで水中、水上以外の何処でも活動可能という気がします。しかしあのゴーレムをそこまで使うような状況はまず無いと思いますが」


「境界山脈の未踏破領域探索用にはあれくらい必要なんじゃないか」


「確かにあのゴーレムを量産すれば出来るでしょう。ただ製作と維持にかかる費用を考えると、鉄鉱山の収益では到底無理です」


「まあそうだけれどさ」


 そんな事を話しながらゴーレム車で公社事務所へ戻る途中だった。

 ゴーレム車が向かいから高速でやってくる。

 この道の先には俺のゴーレム試験場しか無い。

 何だと思って魔力反応を確認、実家の使用人の1人、バルザックだ。


「止めてくれ。多分俺に用件だ」


 ダルトン君にそう告げてゴーレム車を止める。

 向こうのゴーレム車はこちらのゴーレム車の真横で止まった。

 車室から領主館の使用人の1人、バルザックが顔を出す。


「失礼致します。リーランド様、チャールズ様が至急の用件でお呼びです。申し訳ありませんがこちらのゴーレム車に乗り換えて、御同行願います」


 至急の用件!?

 何が起きたのだ。

 

 いずれにせよ、行かないという選択肢は無い。


「わかった。今行く」


 そう返答して、そしてダルトン君へ。


「済まないが事務所に戻って、この旨を副鉱山長に連絡しておいてくれ」


「わかりました」


 俺はゴーレム車を乗り換える。

 車室内でバルザックに確認。


「至急の用件とは何かわかるか?」


「いえ、私はリーランド様を至急お呼びするよう、チャールズ様の命令を受けただけです」


 理由不明か。

 いずれにせよ至急とは穏やかでは無い。

 今まで一度も至急なんて用件は無かったから。

 一体何があったのだろう。


 思い当たる事は特に無いのだけれども。


※ スラッシュハーケン

  先端にカギ形の金具がついたワイヤーを射出する装備。移動用としても攻撃用としても何かと便利。ナイトメアフレーム(コードギアス)に一般に装備されている。 

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