第7話 構想は次の段階へ

 うむ、これはいいものだ。

 出来上がった大型工事用搭乗型ゴーレムを試験操縦しながら俺は思う。


 今までの搭乗型と違い、歩いても振動が不快な程にはならない。

 性能上は走る事も可能だし、高さ10腕20m程度までジャンプも出来る筈。

 機体が大きすぎて試す事が出来ないけれども。


 このゴーレム今までの搭乗型ゴーレムより遙かに大きい。

 全高が何と7腕14mちょい。

 アニメのメカで言うとメサイアのバトロイド状態とかデナン・ゾンと同じくらい。


 この大きさ、実際に実機を見るととんでもない。


 大きすぎて組み立てられた状態では運べなかった。

 8つの部品パーツに分解し、6台の中型ゴーレム車でガナーヴィンの工房から鉄鉱山事務所裏へ搬送。

 寝せた状態で組み立てた。


 この大きさになってしまったのはひとえに搭乗者用衝撃緩和装置の為。

 何せこの衝撃緩和装置、全高3腕6m、横幅1腕半3m、奥行き1腕2mもある。


 この装置を内蔵したおかげで形も全体的に四角い。

 胴体はまあやむを得ない。

 しかし統一感を出すために頭部も腕も足も全て四角っぽくデザインされてしまっている。


 つまりキン肉マンのサンシャインとか、黄金戦士ゴールドライタンといった雰囲気だ。

 色は陸戦兵器という気分でオリーブドラブに塗って貰ったけれども。


 とりあえず起動試験を終え、僕は機体を特製台車の上に載せ、降着ポーズをとらせる。

 体育座りのまま2足歩行をするような格好にして背中中央にあるハッチから、搭乗用ロープで地上へ。

 

 この状態なら牽引用ゴーレムで引っ張れば倉庫へ何とか入れられる。

 それでも2階建ての一軒家近い大きさがあるけれども。


「(形はともかく)性能的には文句ない。これなら乗ったまま移動も探索も作業も出来るだろう」


 俺の操縦試験を見ていたダルトン君にそう報告。

 勿論括弧内の台詞は口にしていない。


「ただこれは大きすぎて、実際の作業に使うのは難しいかと。大規模作業の現場でも以前作った大型の人型ゴーレムで充分です。

 そもそも採掘はゴーレムを動かすより土属性魔法で行った方が効率的です。ゴーレム操縦者なら土属性魔法はレベル3以上で使用可能な筈ですから」


 確かにダルトン君が言う事は正論だ。

 しかし此処で『搭乗型ロボットは男のロマン』と説く訳にもいかない。

 ロマンと仕事とは往々にして馴染まないものだから。

 だから此処は真面目っぽくこういう感じでまとめさせて貰う。


「確かにコストはかかったし、この大きさのゴーレムを通常業務で使用する場面は今のところ無いだろう。

 しかしこれで新たな衝撃緩和装置が有効な事がわかった。またこの大きさの人型ゴーレムが人間以上に動ける事も確認出来た。

 これらの技術は今後役に立つ事があるだろう」


「確かにその通りです」


 ダルトン君、納得してくれる。

 何というか、本当にいい奴だ。

 だからついつい、次の計画なんてのもお願いしてしまう。


「さて、搭乗型ゴーレムの次はこんな技術を考えてみた。水を高温の水蒸気にして吹き出す事で反動の力を得る装置だ」


 俺はあらかじめ用意してあった概念図をアイテムボックスから出してダルトン君に見せる。


 この世界ではロケットエンジンやジェットエンジンを作るのは難しい。

 化石燃料が存在しないからだ。

 植物からアルコールや油脂を取って、というのは大量生産には向かない。


 だから代わりに水と魔法を使ったシステムを考えた。

 水は気体になると体積が凡そ1700倍になる。

 より高温にすればもっと体積が増える。


 だから水を高熱にして気化させ噴射すれば、ロケットエンジンの代わりになるのでは無いか。

 そう思った訳だ。


 無論推進剤の重さがあるからそれほど長時間の噴射は出来ないだろう。

 つまりロボットを飛行させるのは無理。

 しかしより高くジャンプするには役に立つ筈だ。

 

「これはまた……今までに無いものですね」


「ああ。だから作れるか、作っても実用になるかはわからない。でもだからこそ、余裕がある時に試しておきたい」


 搭乗型ゴーレムを高くジャンプさせる為、とは勿論言わない。

 しかしダルトン君も僕と結構付き合いが長い。

 だから搭乗型ゴーレムに関係している事は感づいているかもしれない。


 でも、それでもダルトン君はやってくれるだろう。

 お金は僕の方から出しているから鉱山の採算には響かない。

 そして新たな技術が使えるようになれば見返りも大きい。

 

 それになんやかんやいってダルトン君も新技術が好きなのはわかっている。

 そうでなければ工科学校なんて進学しないだろうから。

 

※ メサイアのバトロイド状態

  マクロスFに出てくる可変戦闘機『VF-25/MF25 メサイア』の人型ロボット形態のこと。

  メサイアはマクロスシリーズに出てくる可変戦闘機、通称バルキリーのひとつ。他のバルキリーと同様、ファイター(航空機)とバトロイド(人型ロボット)、両者の中間形態であるガウォークの三形態に変形する。


※ デナン・ゾン

  機動戦士ガンダムF91に登場する敵勢力、クロスボーン・バンガードの初期のモビルスーツ。一般用の量産型だが性能は当時の連邦軍の主力モビルスーツであるヘビーガン等を圧倒する。


※ オリーブドラブ

  主に各国の軍服、軍用車両、軍用機、重火器などに用いられている色。陸上自衛隊でも標準色として使用されている。

  何となく緑色に見える黄土色、といった感じの色彩。

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