第6話 やっと一息

 搭乗型ロボットの失敗から3年。

 あの後、急激に忙しくなり、またロボット計画に手をつけられない日々が続いた。

 最近になってようやく業務も落ち着いてきた感じだ。


 忙しかったのは事業拡大からはじまった急速なシックルード領の成長が原因だ。


 搭乗型ロボットに失敗したあの年。

 地震による採掘量減少の影響がほとんど無かったうちの鉱山は過去最大の増益となった。


 俺はこの増益の一部を採掘量調査や新規鉱脈の探索へと投入した。

 事業拡大をするつもりは無かった。

 むしろ不安が俺にこの調査を行わせたのだ。


 ゴーレム化をして効率を良くしたおかげで採掘量が一気に増えた。

 そのせいで鉱脈が尽きたりしたら大変な事になる。

 それが不安の内容だ。


 しかし調査の結果、埋蔵量は現在の採掘ペースでも百年以上は持つというお墨付きが出てしまった。

 しかも新たな鉱脈の発見なんて成果まで。


 こうなると俺にその気がなくとも周りがその気になって動き始める。

 上は領主代行のチャールズ兄から、下は鉱山組織の末端幹部まで。


 兄からの鉄鉱石増産要請。

 下から上がってきた新鉱区開発計画の決裁。

 採掘体制強化に伴う新規採用計画。


 討論し、説明を聞き、決裁して、命令する。

 そんな事をやっているうちにゴーレム操縦者だけで50名増加。

 鉱区も一気に第8まで開発。

 増える業務に現場人員だけでなく事務担当者まで新規採用が必要な状態になってしまった。


 もちろん普通の条件ではスウォンジーなんて田舎に人は来てくれない。

 だから既存の勤務員を含めて給与を大幅アップ。

 事務員まで含めて概ね王都の同等職比で5割増し程度にする、なんて改革も行った。


 何せゴーレム化で以前の3倍以上の採掘効率を得ている。

 事故による損害が少ない為、対費用効率はもっと上だろう。

 だから給与を上げても全くもって問題はない。


 ただそれら結果がマンブルズ鉄鉱山だけでなく、スウォンジー全体まで波及してしまったのは正直予定外だった。


 給与のおかげか予定以上に人が集まって、鉄鉱山の事業規模が更に拡大してしまったのはまあいいとしよう。


 鉄鉱山の増産で同じシックルード領営の製鉄場が規模拡大するのもまあ予想可能。

 公社員の増加と給与上昇で購買力が増えたのも理解できる。


 しかしそれだけの事でスウォンジーの街そのものが活性化。

 人口が2倍近く増えるなんてのは完全に俺の想定外だった。


 更にその増えた人口を養う為、領主代行をしているチャールズ兄がスウォンジー近郊の農地化政策を推進。

 以前はのどかな放牧が中心だった西の高原地域まで畑と化し、新しい集落が5個も出来たのに至っては想定外を通り越して何だかなという感じ。


 なおこれら新しい農村集落の名前は俺が付けさせられた。


『こうなったのもマンブルズ鉄鉱山の発展が領内景気を牽引した結果だ。だから功労者としてリーランドがこれらの村の名前をつけて欲しい』


 そう父であるシックルード子爵に言われてしまったからである。

 ただそう言われても名前なんてそう簡単に思いつかない。


 結果、東側から順に

  ○ ジムカイ

  ○ クゥエル

  ○ ジムサン

  ○ ジ・エガン

  ○ ジェスタ

と名付けさせてもらった。

 勿論ガンダムのGM系統の開発系譜から名付けたものだ。

 そのままの名前ではまずいかなと思ったので一部を変えたけれど。


 ジオンのザク系統ではなく連邦のジム系統なのは、こちらの方が発展性がありそうだと思ったからだ。

 あとはスウォンジーにザニーなんて名前の地区があったからなんてのもある。


 とりあえず領内の方はまだまだ当分ばたばたしそうだ。 

 領内人口の増加によりシックルード家も子爵から伯爵へと昇爵するなんて話まで出ている。

 

 ただマンブルズ鉄鉱山の方はこれで事業拡大は終了するつもりだ。

 これ以上採掘量を増やしても販路が確保できないだろう。

 シックルード領直営の製鉄場もこれ以上の規模拡大は難しい。

 生産しても輸送量の限界なんてのがあるし。


 社内体制もようやく今の事業規模に追いついた。

 決裁書類が机を埋め尽くし会議で動き回る悪夢の日々もようやく終わる。 

 

 そんな訳で俺はようやく新たなロボット開発に取り組む事が出来るようになった。

 新たな案を机上で考える。

 

 この3年でゴーレムの技術もかなり進歩した。

 だから以前と同じような搭乗型を作ってもある程度は内部の人間が耐えられるように出来る筈だ。


 上下動と重心位置の変化による左右ブレは、自在継手と液体充填形の衝撃吸収装置で何とかする。

 更に関節の自由度増加で歩行時も上下動や振動が少なく出来るよう考慮。


 衝撃吸収装置が大きくなるため、今度のロボットは全高が5腕10mサイズとなる。

 しかし採掘規模拡大によりこれくらいの大型作業機械があると便利な現場も出てきている。

 だから開発費用を俺の私費とするなら文句も出ない筈だ。


 よし、概ね要求事項とラフデザインは完成した。

 それではこの案をダルトン君に出して意見を貰う事としよう。

 俺は立ち上がり、彼のいる技術部の部屋を目指して歩き始める。


 ダルトン君はこの3年で昇進し、今は技術担当副主任。

 しかし実質的には技術部の中心人物だ。

 当初からゴーレム化に関わっていて、かつ工科学校出身でその他の技術にも詳しいから。

 本人は相変わらず腰が低いし弱気っぽい立ち振る舞いだけれども。


 きっと今日もダルトン君は忙しくやっているだろう。

 忙しすぎるせいか、元々薄めの髪がさらに後退している気もする。


 技術部に顔を出したついでに、ちょこっとだけ技術部長を脅して、彼の業務を周囲に配分させ楽にしてやろう。


 新規採用で工科学校出身者も何人か雇っている。

 その辺りを上手く使えば少しはダルトン君の負担も減る筈だ。

 更に技術関係の知識が必要ない事項は極力ダルトン君以外にさせるよう働きかける。


 それで少しは彼の仕事も減るだろう。

 何せダルトン君、人が良すぎるし技術関連以外の処理能力も高い。

 だから業務整理をしないと余分な業務まで請け負ってしまうのだ。


 勿論これは業務整理で出来た余裕分で俺の案に対処して貰う為、だったりするけれど。


※ ザニー、ジムカイ、クゥエル、ジムサン、ジ・エガン、ジェスタ

  本来の名称はザニー、ジム改、ジム・クゥエル、ジムⅢ、ジェガン、ジェスタ。いずれも機動戦士ガンダムシリーズに出てくる連邦軍のモビルスーツの名称。ザニー以外はモビルスーツGM(ジム)の発展型。


  その後にヘビーガン(にちなんだ地名)、ジェムズガン(にちなんだ地名)、ジェイブス(にちなんだ地名)、グスタフ・カール(にちなんだ地名)もつける模様です。

 

  ジムコマンドが好きだとか、ジムⅡが無いとか、ネモはどうした、ジャベリンは? という苦情は受け付けません。

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