第5話 今は待ちの時
やばい、とても乗っていられるような振動じゃない。
新型ゴーレムに搭乗した俺の感想である。
一応搭乗スペースにはバネと水による衝撃緩和装置がついている。
これが無いと歩くたびに脳天に突き抜ける程の衝撃を感じる羽目になるから。
しかし衝撃緩和装置を動かしても歩かせている時は座って操作なんてのは無理。
絶え間なく来る衝撃を軽く曲げた膝で受け止め、両手で内部の支え棒をしっかりつかんで姿勢を維持しなければならない。
こうして俺のロマン挑戦はあえなく失敗に終わった。
ただ、この二足歩行型・内部搭乗空間ありのゴーレムそのものはあと2台作られることとなった。
「土木工事部が試用してみたところ、確かに便利だし有用だとの結論が出ました。内部格納スペースがあり、また両腕が使用可能なので搬送にも工事にも有用との事です。
また私が危惧していた二足歩行の不安定性も、元々二足歩行である人間が操縦する分には問題は無いとの結論が出ました。
どうやら私より鉱山長の方が正しかったようです。申し訳ありませんでした」
いやダルトン君、謝られても困る。
俺としても有人機構想としては失敗したのだ。
でもまあ、これで少しは次のロボットが提案しやすくなる。
そう思えば悪くはない。
そして鉱山の方はやはり順調だ。
これは昨今の地震被害によるところが大きい。
ライバル鉱山が軒並み事故対策で採掘量が減少している中、うちの鉱山だけがむしろ採掘量を増加させているからだ。
おかげで同じくシックルード領直営公社である製鉄場も増益中。
領主である父も領主代行の兄もホクホク顔だ。
これなら他の鉱山もすぐにゴーレム化するだろう。
そう思ったのだが一向にそうなる気配はない。
別にゴーレム化している事を秘密にしている訳では無い。
ゴーレム開発・製造を委託している商家も領内ではなく隣接するスティルマン領所在。
更に地震被害が多い中でも採掘量を増やしている事から、王立研究所から調査団が来てそのレポートが発表されたりなんて事もしている。
だから真似しようと思えば真似できる筈。
というか真似して欲しい位なのだ。
そうすればゴーレム技術も更に進むだろうから。
しかし何故、そうならないのだろう。
「新しい事をするときにはどうしてもリスクを過大に考えてしまうから、ではないでしょうか」
これはダルトン君の意見だ。
「ゴーレムを1台採用する為にかかる初期投資は鉱夫20名を雇うより高額となります。また組織もある程度変更しなければなりません。ですので旧来の方法でも持続性が見込めるならわざわざそこまでの投資を行う必要はないとみているのでしょう」
なるほど、ロボットを作りたいという動機がなければそこまでする必要はない、そういう事か。
どうやらゴーレム技術が更に進むのを期待するのは難しいようだ。
なら俺の力で有人機開発を進めるしかない。
実は搭乗型ゴーレム第2弾を考えてある。
座って操作するというのは振動が厳しすぎて無理だという事がわかった。
ならその振動に耐えられるように工夫すればいい。
そしてこの世界には魔法がある。
その中には身体強化という魔法もあったりする。
文字通り身体能力を数十倍に上げる事が出来る魔法だ。
レベルが高くない身体強化の魔法は難しくない。
俺でもそこそこレベルなら使える。
そんな訳で考えたのが搭乗型ゴーレム第2弾。
名付けて『モビルファイタータイプ』。
なおモビルファイターとはGガンダムに出てきたガンダムファイト専用のモビルスーツあるいはモビルアーマーのこと。
なんて古いアニオタしかわからないだろうけれども。
振動が厳しいなら自分の身体で緩和すればいい。
身体強化した状態なら俺も通常の10倍近い速度で走る事が出来る。
当然衝撃にもそれだけ強くなる。
そしてゴーレムが歩くときに同様に歩く動作をすれば、足首や膝、腰で衝撃を和らげる事が自然と出来る。
ジャンプするときも着地する時も同じだ。
つまり『内部で身体強化した人間がゴーレムと同じ動きをとることによって、振動や衝撃を緩和する』という理屈だ。
これなら多少の衝撃は何とかなるだろう。
自分の身体が大きくなったと思えばいい。
しかしこれをすぐに作る事が出来ない。
俺が動かせる予算にも限度があるからだ。
今期分の予算の半分は搭乗型ゴーレム1号で使ってしまった。
新型ゴーレムはもっと金がかかるだろう。
それにモビルファイター的にするなら搭乗者の身体を支える機構を考える必要がある。
モビルトレースシステムなんて物は当然開発されていない。
勿論この仕組みを俺以外の人に考えさせてもいい。
しかし今は新型ゴーレムを作ったばかりだ。
時期が悪い。
来期までは真面目に鉱山経営に専念するとしよう。
ゴーレム操縦者不足問題はとりあえず解決した。
なら事務部門や営業部門も少し人を増やすとしよう。
あとは少し待遇も良くしてやるか。
ゴーレム操縦者は資格持ちだから高給だが、他の作業員や事務員も少し給与を上げてやろう。
幸いな事に当鉱山は収益も結構あがっている。
それに此処スウォンジーは田舎だ。
給与くらい上げてやらないと採用を増やしても人が来てくれないだろう。
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