第1話 実験開始宣言
マンブルズ鉄鉱山本部事務所2階会議室。
俺は定例幹部会議の席で演説している。
『諸君、私はロボットが好きだ! 諸君、私はロボットが好きだ! 諸君、私はロボットが大好きだ!
スーパーロボットが好きだ、リアルロボットが好きだ、モビルスーツが好きだ! パワードスーツが好きだ! アーマードトルーパーが好きだ! デストロイドが好きだ! ナイトメアフレームが好きだ! カタクラフトが好きだ……※』
ちょっと待て、俺は何をしているんだ。
この世界の一般人にこんな事を言っても通じないだろう。
そう思った時直後に俺は理解した。
この演説は夢だと。
夢の景色が薄れていき、そして俺は目を覚ます。
何故そんな夢を見たかはわかっている。
昨晩寝る前に必死で考えて作ったからだ。
本日の幹部会議で話す原稿を。
鉱山での採掘作業にゴーレムを投入する。
その事をどう説明し説得するべきか。
ゴーレムを投入する事の利点と欠点は。
勿論本当の理由は『俺がロボットを好きだから!』だ。
ゴーレムもロボットの一種のようなもの。
だから当然ゴーレムの存在に、形に、動きに、そしてその技術に心惹かれる。
しかしそんな理由で鉱山にゴーレムを導入する訳にはいかないだろう。
一応僕は鉱山長だし領主家の一員。
その気になればごり押しも出来るのだが性にあわない。
だからそれなりの理論武装が必要となる。
まず、こういう場合はゴーレムを使用する事のマイナスから考えよう。
それを上回るプラスがあれば導入も当然と考えられるだろうから。
そんな訳でマイナス面を列挙してみる。
➀ 価格が高い
② 土属性がレベル3以上の魔法使いしか使えない
③ 保守管理にも費用がかかる
思ったより少ない。
こんなものか。
なら利点の方を列挙してみよう。
➀ 人間より力が強い
② 事故があっても死なない。掘り出して整備すれば再使用出来る
③ 土属性魔法使いの魔法で採掘が可能
④ 坑内環境が劣悪でも病気にならない
うむ、福利厚生的には悪くない。
採掘活動は過酷な労働だ。
狭い坑内で酸欠や出水事故に怯えながらの重労働。
他領の鉱山では犯罪者を半ば使い捨て状態で使用している場所もあると聞く。
此処マンブルズ鉄鉱山で働いている鉱夫は犯罪者ではなく普通の人間。
しかし過酷で危険な労働だという事もあり、なり手は少ない。
空気を送り込む風属性魔法使いや出水を防ぐ水属性魔法使いを採用して環境整備をしている。
給与も普通の職業の倍は払っている。
それでも鉱山の持つ埋蔵量に見合わない採掘しか出来ていない状態だ。
鉱夫の人数不足によって。
ゴーレムで採掘すれば鉱夫が危険な場所に行く必要はない。
ゴーレムを操縦可能な土属性レベル3以上の魔法使いなら掘りながら穴の強化も出来るだろう。
更にゴーレムは呼吸しないから風属性魔法使いは必要なくなる。
出水はたまにあるから水属性魔法使いは必要だろうけれども。
なんて事を昨晩延々と考え、何とか原稿にしたためたのだ。
こうやっておけば現場で苦労せず話せるから。
窓の外から鐘の音が聞こえる。
半鐘、つまり6半の鐘か。
なら起きるとするか。
僕はベッドから身を起こす。
◇◇◇
2時間後。
マンブルズ鉄鉱山本部事務所2階会議室。
夢と同様、俺は定例幹部会議の席で立ち上がって発言している。
しかし当然話している内容はあの少佐的な演説ではない。
「これは新たな採掘方法の実験をしようという話だ。内容はこんな感じとなる」
昨日頑張って描いて、今朝出社してから複写したゴーレム採掘構想の概念説明を全員に配る。
複写は複写専用紙を使えば簡単だ。
これで会議出席者12人分を複写した。
なおそれ以外の詳細についての概念図は複写せず、手持ちで持ってきている。
「これは今後実施しようという計画の事前説明となる。
内容は資料の通り、採掘にゴーレムを使用しようという案だ。これが上手く行けば危険な作業に人間が従事する必要がなくなる上、効率も数段良くなる。
しかし勿論これは新規のアイデアだ。ものになるかはまだわからない。だから予算は僕の方の別途予算でつける。ただ各部門の協力は必要になる。宜しく頼む」
「予算上は問題ありません。ですがこれはどのくらい実現可能なものなのでしょうか。先例はありますでしょうか」
これは経理部門担当のモーリアさんだ。
「残念ながら先例はない。新規のアイデアだ。ゴーレムも販売中の物に採掘に適したものは見当たらない。だから最初は小型の人間型汎用ゴーレムを使用し、どのようなゴーレムが採掘に適しているか、専用ゴーレムを作るならどうすればいいかを探る事になる」
「体制はどのような形でやるのでしょうか」
これは採掘部長のレイモンドの質問だ。
「主任級1名を長として、係員は土属性がレベル3以上の土属性魔法使い2名と庶務担当1人。合計4人で鉱山長直轄の推進研究室とするつもりだ。
ただこれはあくまで試案だ。もしよりよい意見があれば是非出して欲しい。
現在、公社内の他部署から土属性魔法使いを出す程の余裕はない。だから推進研究室を発足させるのは魔法使い2名を採用出来てからという事になる」
これがこの計画の泣き所だ。
何せゴーレム、土属性のレベルが3以上なければ操縦することが出来ない。
貴族なら自衛の為にゴーレムを操作できるのが普通だ。
しかし子供時代から魔法の訓練をしていない平民では、ゴーレムを操縦出来る程の魔法レベルを持っているのはむしろ少数派。
概ね10人に1人程度だろう。
故に採用はなかなか難しいし給与も高くなる。
現在、うちの鉱山でも各属性の魔法使いは一般職とくらべ、2倍程度の給与を出している。
そうしないと採用出来ないからだ。
「ならゴーレムを操縦可能な魔法使いが2名以上、新たに採用されてからの話になるのですね」
「その通りだ。ただ第3鉱区のように深さがある現場では酸欠や落盤をはじめ、危険性が一段と高くなる。だから今後採掘を続ける為には必要な実験であると私は思っている。
故に本日以降、ゴーレムを操縦可能な魔法使いが2名採用された時点で、実験室を設置し、とりかかるつもりだ。皆もそう認識して欲しい」
何せ土属性の魔法使いは便利だ。
鉱山では何処の部署でも引く手あまた。
だから先にこうやってつばをつけておかないといつまで経っても必要な人材が回ってこない。
「他に意見は何かありますか」
副鉱山長のミルドレットが問いかける。
どうやら特に問題は無かったようだ。
まあ名誉職とは言え鉱山長が自分の出資でやると言う事を止める事は無いだろうけれど。
そんな感じで僕のロボット計画は始まった。
※ 『HELLSING』著:平野耕太
上記の漫画に書かれた『諸君、私は戦争が好きだ』で始まる演説がネットミームとして広まったものを、『戦争』を『鉄道』に置き換える等したもの。
この演説はネットミームとして広まっていて、当時のWeb上にはこれを微妙に改変したコピペ等が広範囲に広まっていた。
これ以上の詳細は『よろしい、ならば戦争だ』等で検索を推奨。
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