プロローグ

※ 『異世界鉄道』のプロローグ2とほぼ同じです。


 転生前の記憶を思い出すパターンなんて大体決まっている。

 高熱を出すか事故に遭うか、はたまたとんでもない衝撃的な出来事に出逢うか。


 俺の場合は事故がきっかけだ。

 ゴーレム用の魔石を改造中に魔力を込めすぎ、爆発させてしまったのだ。

 咄嗟に防護魔法を展開したが爆発の勢いを殺しきれず吹っ飛ばされた。

 結果、頭を打ってそのまま気を失ってしまった訳だ。


 そうして寝込んでいる最中、夢の中で前世の記憶を思い出した。

 アニメがあり、MSモビルスーツや可変戦闘機、レイバーやパワードスーツが画面の中を疾走している姿を。


 別にアニオタとかではない。

 人型ロボット系が好きなのだ。

 アシモとかでも別にいい。


 ただアニメの中のロボットの方が格好いい。

 そう思うだけだ。


 勿論自分でもある程度作ってみたりした。

 サーボだのボードコンピュータだのを駆使して動歩行だって出来る奴とかも。

 しかしどうしてもアニメの格好良さには叶わない。


 夢は搭乗可能で速度が出る、出来れば可変タイプのロボットを作る事。

 ただ実際問題として俺の生きている間にVF(ヴァリアブルファイター)は無理だろう。 

 でもせめてパワードスーツ程度は作りたい。


 そう思って大学の工学部に入学したのだが現実は厳しい。

 合格の翌々日、事故で死んでしまった。

 自動車という、理想からかけ離れたロボットの出来損ないによって。


 夢から覚めたがまだ目は瞑ったまま、俺は今の夢をもう一度思い出す。

 間違いない。

 前世のロボットの記憶は残ったままだ。


 そして考える。

 今の俺なら、あの頃より遙かに理想に近いロボットを作れると。

 なら今こそ夢を叶えるべきだろう。

 俺の俺による俺の為のロボットの王国を築くのだ。

 

 さて、それでは起きよう。

 目を開けてベッドから身を起こそうとする。


「もうよろしいのですか、リーランド様。ご無理をなさっては」


 これはベッドサイドで椅子に座り、俺の容体を見ていたらしい見習いメイドのマリオン。

 おそらく俺は事故の後、寝たままだったのだろう。

 何時間、あるいは何日間寝たのかはわからないけれども。


「ああ、大丈夫だ」


 俺はマリオンにそう声をかける。

 今の俺はリーランド・アイザック・シックルード。

 シックルード子爵家現当主の三男だ。


 現在18歳。

 2年前に王都の高等教育学校を出た後、シックルード領の稼ぎ頭であるマンブルズ鉄鉱山の鉱山長を務めている。

 まあ実際の実務のほとんどは部下に任せているけれども。


「わかりました。今すぐハウスキーパーを呼びますので少々お待ち下さい」


 マリオンはそう言うと俺の寝室を出て行く。

 すぐにハウスキーパーのマチルダさんがやってきた。


「そのまま動かないで下さい。今、御身体の様子を確認します」


 彼女は俺の家の全部を統括して見てくれている。

 つまり執事兼メイド長みたいな立場だ。

 なお彼女は医療属性レベル3の魔法持ち。

 つまり健康診断や病状診断的な事も可能。


 元々は実家のメイドだった。

 多才だし信頼できるので父にお願いして引っぱらせて貰った。

 確か22歳で俺と4年しか年齢は違わない。  

 しかし世話になりっぱなしなので微妙に頭が上がらない存在だったりする。


「確かにもう宜しい様です。しかし今度から御自分でゴーレムの魔石に手を加える等という危険な事はおやめ下さい」


「ああ、今度こそ気をつけるよ」


 何気なさを装った返答。

 しかし彼女は俺の意図を察したようだ。


「やらない、とはおっしゃらないのですね」


「ああ。ただ限度はわきまえるようにするから」


 マチルダさんはため息をひとつつく。


「今回はそれで結構です。それではお食事の準備をさせます。半の鐘が鳴りましたら食堂へお願いします」


「わかった」


 そう言って、そして聞いていなかった疑問にふと気づく。


「そう言えば俺はどれくらい寝ていたんだ。事故の後」


「今は事故から3日目の朝です。事故の後、思考活動が少し異なる形に見えましたので、念の為睡眠魔法でしっかり休んでいただきました。

 それでは失礼致します」


 そんなに経っていたのかと俺は思う。

 思考活動が異なる形うんぬんはきっと前世の記憶が戻ったからだろう。

 なお思考活動の形を見られても思考そのものが見える訳では無い。

 だからロボットの記憶は見られていない筈だ。

 

 あと仕方ない事はもうひとつ。

 今度から魔石の極限改造はやめよう。

 確かに危険な行為だったから。

 何かこの世界のゴーレムには足りない気がしていたのだ。


 今思うとその理由もわかる。

 きっと熱きロボット魂が無意識のうちにそんな形で現れていたのだ。

 でももう大丈夫。

 俺は自分の夢を思い出した。


 とりあえず魔法で濡らした布で顔を拭き、寝間着から着替える。

 別に貴族用の面倒な装束など着ないので着替えではメイドは呼ばない。

 子爵家も三男くらいになると格式とか気にしないのだ。

 何処ぞの入り婿にでもならない限り俺の次の代で貴族でもなくなるし。

 次の代が存在するかどうかは別の話として。


 さて、朝食までしばらく間がある。

 その間に思い出したデザインを整理し、忘れないようにメモしよう。

 俺は小机について紙とペンを取り出す。


 まずはゴーレムで実現が可能そうなものがいいだろう。

 ならリアルロボット系でしかも量産型だ。 

 トリコロールなんて派手なのや訳が分からない強力な試作型なんて現実にはありえない。

 地味な量産型こそ正義で最強なのだ。

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