第20話
続いてはギルベート兄様。ギルベート兄様も大出世を遂げました。まず騎馬隊隊長となり、ルキウス騎士団のテンペストという称号を手にした。
この称号というものは五つある。上からステラ、バレイ、テンペスト、デルージ、ブレイズだ。お兄様はこの三番目の称号だ。騎士団にも色々な称号がある。例えば戦争で名を残すと栄誉騎士と呼ばれる。この五つの称号は全ての騎士の模範となり、優秀な成績を残した者に与えられる称号らしい。
偉い人というと騎士団長、騎士副団長、その下の隊長などとなるので称号のランクとはまた別物なのだ。お兄様は色々な騎士に慕われる存在となり、パレードなどでは騎馬隊の先頭で馬に乗って豪華な服を着て民に一目もくれず進んでいく。無愛想なことだ。
前任の騎馬隊隊長は歳で引退。これからは教官として学園で指導するらしい。そんな中、次の隊長に任命されたお兄様。前任の隊長からの推薦や他の隊員からも支持があり、円満に話が進んだ。
対立した場合、決闘とかあるらしいのよね。そうならなくて良かった。
二十四歳という若さで隊長となるのは大変稀なことだという。確かに隊長というと大体がおじ様。こんな肌に艶のある青年が隊長というのは中々に珍しい。シュティル兄様が活躍する姿を見て騎士を志す少年少女も増えたようで騎士団に所属する騎士はどこか嬉しそうだった。
戦争が起きるのはもう二度とごめんだ。誰かが命をかけてでも戦い、犠牲になってしまうのはあまりにも酷い話だ。そんなことが起きないように騎士の人々には頑張って欲しいと思っている。
ギルベート兄様はせっかく良い顔をしているのに女なんか興味ねぇ、みたいな態度をとり続けているので、これまで何も音沙汰なしだ。少しくらい女の子と恋してみても良いのに。ぶっきらぼうだし物騒だしちょっと扱いが酷いところはあるが、とっても優しい人だし面倒見は良くないけど、ちゃんと見てくれているから安心できる。それに強いしね。スタイルも良いし優良物件ですよ。ちょっと目を瞑れば。
そんなこんなでギルベート兄様は公道を行くだけできゃあきゃあ言われるようなイケメンに成長したわけだが、訓練やらに力を入れすぎてるせいか色恋も何もないというわけなのだ。やれやれ。
お兄様は騎士団に入団してから駐屯地に入り浸っていたのだが、私が攫われる事件があってからちょくちょく城に帰ってくるようになった。クロウド兄様は結婚して家を出たため全員というわけではないが家族揃った食事も増えて私は嬉しい。
このときにいつも揉めるのがテオだ。
テオは卒業と同時に私の専属護衛騎士となることを申し込み、私はそれを許可した。私はとても驚いた。てっきりどこかのお嬢様の所に行ってしまうのだと思っていたからこれからもずっと一緒にいてくれることになって私は喜んだのだが、テオはそれで良いのだろうか。まあ、本人が申し込んだのだから本人の意思なのだろう。私は嬉しいから大歓迎だ。
そんなテオは家族との食事のとき、以前は私の隣に座っていたのだが最近はそれが無理だと言うようになった。なぜなのか問うと、護衛騎士である自分が隣に座るなど、みたいなことをうだうだと言っていた。食事のときくらい家族として食べれば良いのに。変なところで堅物なのだ。
それに、テオは私の護衛騎士となってからため息をつくことが多くなった。何かあったのか聞き出そうにも避けられるというか、話を変えられて全く聞けなかった。そんなある日のこと。テオは話があると言って部屋の窓を閉めて扉も鍵まで閉めて私に向き合った。
私はそこで驚くべき事実を聞いてしまう。実は、テオは私と全く血が繋がっていなかったのだ。ということはつまりテオには王族の血が流れていないということ。貴族たちも王族側が嫁いでいったりもしている関係で若干ではあるものの遠い親戚のようなものではあって、伯爵家出身のルミーテから産まれたからまあ、うーん。遠い遠い遠い親戚くらい。
側妃ルミーテは今までこのことを誰にも話すなとテオに言っていたらしい。もう物心ついた頃からそう話していたのだそう。結構酷なことをするなと思った。母上にも何か考えがあったのだろう。幼い子どもに兄弟の中には全く血が繋がらない者がいると教えるのには、少なくとも勇気が必要だったはずだ。
事の経緯はこう。母上はお父様やお母様と共に話しているときに子どもはあと一人ほどで十分だと話したのだそう。歳のこともあるし人数が増えると大変なことも多くなる。今いる子どもたちだけでも幸せだと話していたらしい。五人でもだいぶ多いけどね。今現在でお父様たちは大体五十前後。結構若い方だと思う。下の私が二十三で五十くらいなのだから、若い。お父様たちは随分と早く結婚したみたい。
え、ということはもう私の年齢ではクロウド兄様もシュティル兄様たちも産まれていたということ、よね。もしかして、私って行き遅れてる? 大丈夫かな。
……そんな私の不安はひとまず置いといて、母上はある日妊娠していることを知ったときに嬉しさと不安が過ぎったらしい。とある日に買い物をするため大市場へ出かけていたとき、見習い騎士に襲われてしまったのだという。だから、この子の父親が誰なのか。どうか夫であるウィレウスであることを望んだ。だが産まれてきた子はウィレウスの子ではなかった。母上の髪は鮮やかな青色をしている。テオは紫っぽい色をしているのだが、お父様が赤色なので混ざった色なのかなとか幼い頃から思っていた。
母上は父親が誰か調べるために血液検査を匿名で頼んだ。母上はA型。お父様はO型。テオはAB型だった。一応持ってきていた騎士の血液でも調べてみる。すると、その場にいた三人のうち、一人の血液がB型だったという。これで確定してしまった。母上も怖くて人の顔をちゃんと見ていなかったそうだが、この検査によってテオの父親はイロンという見習い騎士だということが判明した。母上は誰にも知られることのないよう隠密に三人を処刑した。
そんな話、二人が誰にも話すことなく聞かれることなく守ってきた話だったからこそ、今まで聞いたこともないような突然の現実味のある恐ろしい話を聞いて、胸が苦しくなった。
お母ちゃんって感じのする優しい母上。綺麗で威厳のあるお母様と喧嘩したとき、いつも逃げるのは母上の元だった。私には二人もお母さんがいる。ちょっと不思議な特別感だった。でも、そんな母上にこんな秘密があったなんて。
私はショックというより今までテオとの二人で抱えてきたあまりにも大きな秘密という荷の重さを想像して何も言えなくなってしまった。
テオは私の護衛騎士となる以上、いつか話さねばならないと思っていたらしい。こんな大きな秘密を話してくれるなんて、信頼してくれている証だろう。嬉しいと同時に苦しくなる。
私はこの件は二人に任せようと思った。知ったからといってお父様たちに告げ口する気もない。でも、話したいときには二人のそばに座って一緒にその場にいる。私たちは、血は繋がらなくとも家族なのだ。困ったときはお互い様。支え合うのが家族だから。私はそう言って久しぶりに泣き出したテオを慰めていた。
その日から荷が少し軽くなったのかテオに笑顔が戻った。私も姉として弟が楽しそうにしているのは嬉しい。
こうもはっきりと血が繋がっていませんでしたと言われてみると変な気持ちがした。私にとっては義理の弟みたいになるのだろうか。でも母上の顔も見慣れているし、どこか母上の面影のある顔はどうにも他人のようには感じられなかった。
お父様は変わらず公務に精を出していた。スラム街の件もノア兄様の考えを聞いて方針を変えた。スラム街の人々の意見を聞いて、そこでより良く住んでいけるようにとまず大きな事業を執り行った。
まずスラム街の継ぎ接ぎの家を取り壊してちゃんとした家をそれぞれ建設した。そして何か理由があって働けない人には月に一度食料を供給。そしてそんな人にも低賃金ではあるものの、働ける仕事を用意した。家でできる仕事や人と直接関わらない仕事など。そのおかげでスラム街というものもほぼなくなったと言ってもおかしくないだろう。
お金は王族が少し節約した分で賄った。今まで王族に反発する人も多かったスラムの人々も王を支持するようになった。
前と同じように子どもたちは教会などで学ぶ機会があり、学園に進学したり騎士を志す子も増えたのだ。前よりも活気づいた国を私は城のバルコニーから見渡して晴れやかな気持ちになっていた。
お母様も母上も元気に過ごしている。もしかしたらお母様は母上の秘密を知っているのかもしれない。ああ見えてユーモアのある人だから、そこまで気にしないかもしれないし、それはお母様じゃないと分からない。でも、たまに西庭園でお茶をしているのを見てこの光景がいつまでも続けば良いと願っていた。
ちなみに私の幼い頃から教育係として先生をしていたレオン先生は私の成人と共に自由の身となった。お父様は私のお願いを聞いてくれ、レオン先生はこれから好きに生きていけるほどの金を手に入れた。
最初はレオン先生も受け取りを拒否していたのだが、私がお願いして受け取ってくれた。今まで私のせいで自由な時間もほとんどなかっただろうから、残りの人生は好きに生きて欲しい。学園を出てすぐ私の教育係になったから、せめてこれからは自分のために。
これからはイケメンの人が常連になってくれることを願って喫茶店を開くという。レオン先生はコーヒーが好きでよく私におすすめしてくれたのを思い出す。きっとレオン先生なら街中で噂の喫茶店になるんだろうなって思った。騎士が来てくれるようにとこの王都で店を出すらしい。それなら私もいつでも店に行くことができる。
あとティナ。ティナは主にテオの世話をしていた若い執事と結婚して今は産休中。ティナは最初産休など要らないと言っていたのだが、逆にこちらから産休をとることをお願いした。子どもとの時間はその時しか体験できない。私にはテオというできた護衛騎士がいるので大丈夫だ。
物心ついたときからティナという優秀なメイドがそばにいたので、急にいなくなってしまうのは何だか少し落ち着かなかった。だが城にいるメイドがティナだけなわけではない。他のメイドとも仲良くやってるし、何も心配は要らないと言うとティナは安心したように笑った。
今は家族とちゃんと過ごして思い出を作って欲しい。かけがえのない大切な家族との時間を。
たまに城にやってきては私に赤ちゃんを見せてくれる。可愛らしい男の子だった。私によく懐いてくれて抱っこしても泣かないでいてくれる。テオはあの子のこといけ好かない男だと言っていたが、いくつ離れているのか分かっているのだろうか。テオはもう二十歳になるのに。相手はまだ産まれたばかりの赤ちゃんよ。
そんなこんなで城はしばらく幸せなムードに包まれていた。
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