魔法のない世界の魔女

 その稀人は決して我々に対して敵対的なわけではなかった。しかし、この世界の在り様が彼女の尊厳を傷付けてしまったのは間違いなかった。それほどまでに『魔女』であることは彼女の誇りであった。


---それでは、あなたにとってこの世界は。

 夢ね。悪い夢。死後に見る夢にしては趣味が悪すぎるわ。


---どうしてそう思うのですか?

 私はね、魔女なの。数多の魔法を扱う誰よりも優れた魔女。そんな私から魔法を奪うなんて、冗談じゃないわ。


---魔法は切っても切れないあなたの一部だったのですね。

 そうよ。それをこの世界が奪った。


---あなたはこれからこの世界でどうするおつもりですか?

 元の世界に戻る方法を探すわ。来ることができたのだから帰る方法も何かしらあるでしょう。


---私たちにはそれを止める権限はありません。しかし、もしもこの世界で生きる気になったら、遠慮なく我々を頼ってください。

 そうね。その時はよろしくお願いするわ。


---では、今日の聞き取りはこの辺で。気を付けてお帰り下さい。

 ありがとう。それじゃ。


 この聞き取りの数日後、保護者から連絡があった。彼女がいなくなったらしい。保護機関は大騒ぎになり多くの人員が捜索に駆り出されたが、ついに彼女を見つけ出すことはできなかった。

 現在も少数ながら捜索は続いているが、手がかりとなる物は一向に出てこない。

 彼女は本当に元の世界に戻ってしまったのか、あるいは……。

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