第6話
私の手を引き外に連れ出してくれたのはサリー。
最後まで私の手を握ってくれたのがサリー。
最初から最後までそばにいてくれたのもサリー。
けれど数年の逃亡生活中に助けてくれたのがサリーだけと言うわけではない。
城から逃げ出す時、城から離れる時、街に入る時、街で過ごす時、街から逃げ出す時、私たちを手助けしてくれた人達がいた。
そうしてくれた人達への恩返しは最後までできないままだったのが心残り。
「姫様?」
「何かしら、サリー?」
急いで手紙を届けてきてくれたサリー。
紅潮した頬がとても素敵だわ。
「流石に国王陛下からの許可もなく、護衛も無しに外に出る事は難しいかと思いますが、どのようにされるのですか?」
「簡単よ。ほら、こっちに来て」
「はい」
外行きの服に着替えたサリーの手を取って体を引き寄せる。
ふわりと香る花畑のような匂い。
素晴らしいわ。
今日一日、いえ、これからもずっとこうしていたい。
けれどそれでは数年後の未来にサリーの手を取ることができなくなってしまう。
だから今は少しの我慢よ。
今後数十年サリーと共にあるために、今だけは我慢をするわ。
「さぁ、サリー目閉じて」
私の胸の中で素直に目を閉じるサリーと共に風に包まれた。
風は私達を運ぶ。
その速さは空を飛ぶ龍すらも決して追い付かないほど。
「さぁ、もう目を開けていいわ」
感覚で言えば数秒ほどで私達は目的地へと到着した。
廃れたと言うほどは廃れていなくて、賑わっていると言うには無理がある。
私たちが訪れたのはそんな村。
「あの、ここは?」
周囲が変化したことを感じ取ったサリーが目を開けて私の手の中から離れていく。
名残惜しいけれど、今はまだそれすら悟らせないように振る舞わなくてはならない。
「城から数キロほど離れたところにある村よ」
「村?あの、姫様?」
目を瞬かせるサリーも素敵だわ。
とても可愛いわね。
そんなに可愛い顔をされたら唐突に抱きしめてしまうかもしれないじゃないの。
「細かいことはいつか説明するわ。今は時間がないの。ついてきてくれるかしら?」
「はい!もちろんお供させていただきます」
このまま見つめあっていたら理性が持たないわね。
今日は私の心残りの一つを消せる日なのだから、しっかりしないといけない。
「さて、こちらだったと思うのだけれど」
掠れた記憶を辿って歩くこと十数分。
記憶にあるものよりも幾分か綺麗な家が見えた。
「失礼するわ」
「ひ、姫様!?」
扉の前に立った私は遠慮することもなく玄関の扉を押し開ける。
その様子に驚いた様子のサリーがとても愛らしいわ。
サリーを横目に押し開い扉を抜けて進む。
階段を上がり2階にある二部屋のうち奥側の部屋へと入る。
「あら、居たわね」
ノックも無しに入り込んだ部屋の中にはいくつかの家具とベッドが一つ。
そのベッドに横になっていた少女がこちらを見て体を起こした。
「あの、どなたですか?」
少女の問いかけに答えようとした時、後ろからバタバタとやってきたサリーがようやく私に追いついた。
「姫様、少々お待ちください!」
さすがサリーだわ。
正体を誤魔化す余地すら残さないあたりがとても素敵ね。
自己紹介も必要ないのではないかしら?
「お姫様、なんですか?」
「……えぇ、そうね。私はエルリア・R・スレイブロウ。正真正銘のお姫様よ」
百合姫様の憂鬱 @himagari
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