パン屋と珈琲は朝がいい

 勤務先が日によって変わるのですが、パン屋の近くを通る時がありまして。中学ぐらいの年齢の、ちょっと脚が色気づいたショートパンツのメスガキは私の後をついて歩いてきています。

 奴は電車もフリーパスです。

 ……できるだけ見ないようにします。


「必ず行くんだよね」

 その通り。早朝のパンはちょっとだけ違います。

 皆さんは揚がったばかりのカレーパンを食べたことはあるでしょうか。

 これは……質感がちょっと違うんですよ。いつも食べているので、どう違うのか説明できなくなってしまったのですが。

 そうだメスガキ、食べてみなさい。


 髪をかき分けて、カリッと一口。

 どうやら気付きがあったようです。

「油のしっとり感……がある中に、カリカリの、そう、衣が立ってる!」


 その通りです。忘れていた。

 数時間で衣が寝ちゃうんですよね。まあそれでもカリカリなんですけど、揚げたては違うんです。

「美味しいっ」

 だから必ず、早朝のパン屋に入るんですよ。


 あと、ここはコーヒーも美味い。

 まあ朝イチはチェーン店のコーヒーも大抵、味が違うんですけどね。

 これは夜勤で働いていた時に学んだことです。

 ただ……。


「ここ、マヨネーズが多いね」

 パンにマヨ。相性が良いのは分かるんですが、自分は好きじゃないんですよ。おかずパンって大抵マヨネーズがかけられている。パン屋さんよ……誰も彼も喜ぶと思わん方がいいぞ……。

 だからカレーパンばかり選んでいるのもある。


 ところでメスガキ。

「何よ。エッチな目で見るなって言ってんでしょ。へんたい」

 見ておらぬ。おらぬが、お前はだんだん発育が良くなってきている。これは、危険な兆候だ。


「あんたのエロが伝染ってきてんだよ!」

 このエッセイがセンシティブ判定を受ける前に、処置を施さなければ。店内ではマナー違反ですが、駅で買ってきた“おしるこ”を、ここぞとばかり開けて、メスガキに飲ませました。餅の無いおしるこ……それは虚無……。


 数度の瞬きで、メスガキは生意気な面構えの幼女に戻っていました。

 これでしばらく大丈夫。

「こんどエッチな目で見たら、ころすからねっ」

 そもそも、そういう風に見てないから。


 ポリコレ自警団の時代にそんな事、絶対言わないですわ。私は数年前、OLお姉さんに元に戻らないくらい性癖を歪められてしまったんだし。

「ああ、そっちね。いい加減……忘れなよ」

 お前さんはイマジナリー存在だもんな。

 話が通じて助かるよ。


 上書きされるような何かが無い限り、無理だろうなあ……。

「エッチで未練がましいとか、最悪じゃない?」

 私はおしるこの他にもう一本、短いボトルのカルピスをグラスに注いだ。


 メスガキの消えたパン屋で、考える。

 本当だね。

 もう何年経っているんだろう。

 誰かの助言通り、マッチングアプリでも頑張ってみようかね……。

 今は、何をすればいいのか。

 それはメスガキも答えてはくれないので、こうして文章を打っているのです。

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