自ら選んだルート

 俺は今、決断を迫られている。


 俺に好意を抱きすぎて殺しそうにまでなってくるメンヘラか。


 俺に好意など一切なく根本からむしり取ろうとしてくる悪女か。


 そのどちらかと明日デートをしなければ、百合なサイコパスに殺される。

 はっきり言って死んだ方がマシなレベル。


 どうしてこうなった。

 そしてどこに向かってるんだ俺は。


「……いや、しかしどうせ死ぬなら、せめて俺のことを好きなやつの手で死んだ方が……いや、だけど加奈さんなら命までは取られないような……あー、無理だ決めれねえ」


 もちろん決められない。

 しかし決めないことが最悪のルートだということも知っている。


 一ノ瀬はるかはあやめのことが何故か好きなようで、明日予定がなければ理由は知らないが彼女の部屋に招かれて殺される。


 俺のことを好きでもないやつに、理由も分からず殺される。

 それが一番最悪だと思うと、やはり決断するしかない。


「……頼む、この選択であっててくれ」

 

 俺はそう願いを込めて。


 明日デートをするヒロインを選んだ。



「おはよー。まさかそっちから誘ってくれるなんてびっくりした」


 翌日の放課後、俺はデートのための待ち合わせに選んだ駅前でそいつと合流した。


「……まあ、ちょっと暇ができたから」

「へえ、ちょっとはその気になってきたんだ? いい傾向だね、琢朗君」


 満里奈だ。

 なぜ満里奈にしたかなんて、俺でもわからない。


 一応あやめと予定を組めないか彼女に連絡をしてみたが、


「ごめんたっくん、明日はみゆきとお買い物なの。せっかく誘ってくれたのに……そうだ、明後日は?」


 だそうだ。

 もちろん明後日は是非と予定を確保したけど、問題は明日なのである。


 明日死んだら明後日はこない。

 ああ、実に単純な話である。


「琢朗君、今日はどこいく? 私の家? 琢朗君の部屋? それともホテル?」

「なんで屋内限定なんだ。駅前をぶらぶらしたらいいだろ」

「え、琢朗君って外でしたい人?」

「なんでやること前提なんだ」


 まあ、だからと言ってこの選択が正しかったかどうか、それは誰にもわからない。


 ゲームもゲームだ、選ばせるだけ選ばせておいて、そのあとフリーズしやがった。


 アップデートだとかぬかしてたけど、ネット繋がってねえだろあのゲーム。

 ほんと、不思議で不都合で理不尽なゲームだ。


「じゃあまずは……カラオケとかは?」

「ギリギリアウトな気がするから却下だ。バッティングセンターにしよう」

「えー、あそこ人多いじゃん」

「だからだよ」


 とはいえ、こうなった以上満里奈とのデートを無事に終えてから家に生きたまま、そして童貞のまま帰還することが俺に課せられたミッションだ。


 だから人の少ない場所は避けて。

 適当に楽しんでる風に時間をやり過ごせばなんとかなるはず。


 それに満里奈と遊んでいるうちは、一ノ瀬さんは脅威じゃないし。

 問題は加奈さんの方か。

 イレギュラーすぎて予想ができない。


「さて、とりあえずバッセンだ」


 なんにせよ、楽しんでるフリだ。

 つまらなさそうな顔して満里奈の機嫌をいたずらに損ねてもいい未来は見えてこない。


 バッティングセンターの中に入ると、カップルや家族連れで賑わっている。

 ああ、俺もちゃんとした子と来たかった……。

 

「満里奈、俺からやるぞ」

「おっけー。琢朗君、あのホームランってとこ、当ててよー」

「……わかった」


 ケージの中に入ると、ピッチングマシンのはるか上に見える『ここホームラン』と書かれた的が見える。

 結構遠いし小さい。

 その代わり、当てた時の景品は結構豪華だ。


 近くのレストランのペア無料商品券。

 結構高い店だというのに随分と奮発したもんだ。


 でもまあ、あれくらいなら……


「ふん!」

『ホームラーン』


 昔っから運動神経と目はいい。

 野球、サッカー、それにバスケなんかにもよく誘われたけど、だけどやってたことはバイク乗ったり喧嘩に巻き込まれたりばっかで。

 結局、泥臭い努力より目先の華やかさをとった結果だ。

 ほんと、ちゃんとなんかやってたら今頃はそれこそ部活動のエースとしてちやほやされてたかもしれないのに。


「え、琢朗君すごい! めっちゃ飛んでる!」

「まあ、力はあるからな。ていうか二回目はどうなるんだ?」

「さ、さあ。でもあれを二回もなんて」

「そうでもないさ。……ふん」


 狙えば当たる、なんてほど精度のいいものではなかったけど、飛ばそうと思ってミートしたら的の付近には飛んでいく。

 何球かに一回は的に当たり、打ち終えるまでに数えてはいないが数回は的を鳴らした。


「お、おめでとうございます! ええと、景品となります」


 係の人も焦った様子で俺に無料券を渡してきたが、二回目以降のことについては何も言ってこず。

 ま、別にいいんだけど。

 ていうかつい調子に乗りすぎたな。

 

「琢朗君、やばいじゃんー」

「いや、たまたまだよ。それより、これあげる」

「え、私に?」

「まあ、誰か家族とか連れていきたいやつがいたら一緒に行けよ」

「……普通、こういう時は一緒に行こってならない?」

「タダでもらえるだけマシと思えよ。ほら、お前は打たないのか?」

「いい。それより、やっぱりここ、一緒に行こうよ」

「……それ食べたら帰るのか?」

「さあ、どうかなあ」

「じゃあ行かない」

「もー、いじわるなんだ琢朗君って。いいわよ、ご飯食べたら帰るから」

「……わかった」


 どうもゲームの狂気なまりなを見すぎているせいか、現実の満里奈が可愛くみえてしまう。

 もちろんリスカはするし脅しばっかかけてくるけど、実際に俺に何か危害を加えてきたわけではない。

 もしかしてこいつ、ゲームよりもいいやつなのか?

 い、いや、だとしてもだ。

 あんなに自傷行為でずたずたな満里奈をさすがに彼女になんかはできない。

 うん、心を鬼にして突っぱねろ。

 こうやって一緒にデートしてやってるだけマシだと思ってもらうしかない。


「じゃあ、早速食べにいくか?」

「ふふっ、琢朗君とご飯だ。嬉しいなあ」

「……」


 満里奈は基本的には美女だ。

 服の下が見えなければ多くの人の注目の的になるくらいの整った容姿と抜群のスタイルを持っているし、実際こうして話してるだけでは彼女の心の闇はさほど感じられない。

 

 しかし俺はそれがこいつの本性でないと、ゲームで学んでいる。

 だから……いや、なにがだからだ?

 ゲームのまりなが、そっくりそのまま満里奈だという保証は?

 傷もずいぶん違ってたし、実際一度だってこいつは俺を殺してはいない。


 なのに勝手にこいつは悪だと、決めつけていいのだろうか。


 ……いや、心を鬼にすると決めただろ。

 ちょっとくらいゲームよりましだからって、メンヘラはメンヘラだ。


 俺はメンヘラは嫌いだ。

 だから飯を食ったら満里奈とさっさと別れる。


 それだけのことだ。

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