第17話 グリーンアースという街
ーー グリーンアースの街 side
「報告にあがりました」
シスターセレナが辺境伯邸に面会に訪れていた。
しばらくしてシルバーが現れる、
「どうしましたそんなに慌てて」
と言うシルバーの問いにセレナは
「辺境伯様も知りたいかと思い報告に来ました・・・が待っていなかったですか?」
と心配顔のセレナに
「いえいえ、待っていましたよ、それでどうなりました」
と話を進めるシルバーにセレナはことの成り行きを話し始めた。
「なるほど、スーデル王国では被害はごくわずかでアルフ国ではかなりの被害を出したがなんとか討伐に成功したと言うことですね。」
と感想を言うシルバーにセレナは
「はいそうです、使徒様のお手を煩わせずともなんとかなりました。」
と締めくくると
「そこでお話があります、辺境伯様はどこまでこの世界の人をお助けいただけるのでしょうか?」
と聞いてきたそれに対しシルバーは
「それは僕の手の届く範囲にしか手を出しません、この世界に住む人々に頑張ってもおらうことが一番だと思っています。多分遠くない日に私はここからいなくなることもあり得ますし。」
と意味深な話をして席を立ったシルバーをセレナは見ながら
「そうですよね私たちが自分の力で努力しなければならない・・・分かっているんですが弱いのです人は。」
と言って席を立ち辺境伯邸を後にした。
シルバーは亜空間への入植を急ぐことにした。この世界は予想以上に他の神いわゆる邪神に干渉をうけやすい様でゆっくり自由を謳歌する暇もなさそうなので。
スクナは先日の亜空間の生活について考えていた、
「あの世界に誰を連れて行けるのだろうか?親しい人?守りたい人?それとも弱い人たち?・・・どれも合っている様で違う様な気もする・・・難しい。」
出口のない問題に悩んでいると妹のカクナが
「お姉ちゃん、あそこは何人くらい人が住めるの?」
と一番基本的な質問をしてきた、『そうだあそこにあった街がそこまで大きくなかったから沢山の人は無理だと思っていたが・・・土地はまだまだ広がっていたし海や山もあった・・・と言うことは家を建てればまだ沢山の人が住めると言うことだ。』
そこまで考えるとスクナは、
「シルバーお兄様の統治で生活を望む人であればいくらでも良いのではないか、また私たち3人だけでも構わないのではなかろうか。」
とこぼす言葉にカクナが
「3人だけじゃ未来がないわよ、やはり多くの人が住んでこそあそこは生きると思うの」
と言う妹を見直してスクナは
「カクナは意外と見ているのね」
と褒めながらまた最初に戻って考え出した。
「あの街はこの世界の街とだいぶん生活の仕方が違うと思うの。楽というか便利というか命の危険を感じない平和な街という感じがとてもしたの。」
とカクナが言い持ち帰った使い捨てライターを見ながら
「クズ魔石を使った炎を灯す魔道具、こんなものが溢れる街で魔法使いは何をするのかしら?」
と疑問を口にする、確かに便利な道具に平和な日常そこに魔法使いの存在意義はあるだろうか。
「あそこには魔力が少なく弱い人や争いが嫌いな人、そして静かに暮らしたい人が住むべき場所なのではないかしら。そして冒険や一攫千金を求める人はイシルダーの世界で生きていけばいいのではないか。」
という棲み分けを考えるスクナであったが
「これでも違う感じはするかな」
とまたも迷宮に入り込んでしまった。
その頃シルバーは自分のステータスを確認して驚いていた
シルバー=グリーンアース 神(新生) 創造神 イシルダー神の世界に間借りしている神
これ以外の表記がなかった、イシルダー神の世界において彼が必要以上に干渉するのは邪神と同じ様な行為になりそうだと思い始めた。
ーー 亜空間の開拓と初の入所者
シルバーはグリーンアースの街の職人を何人か亜空間に呼び入れ街づくりを進めることにした。
住宅の作りを公開して建材や新たな素材アルミサッシなどを使った機密性の高い住宅や道路舗装のノウハウさらには河川や護岸の改良など現代日本の技術を取り込みながら亜空間の世界を開拓していった。
職人の中には
「ここで生活してもいいぜ」
とか言う職人も増え他の職種の住民も亜空間に連れてくることも多くなった。やはり生活があまりにも違うため誰でも馴染むものではなく、ごく一部の者が入所を希望するのみであったがそれでも数百から千は居そうだった。
シルバーは亜空間では自分の想像する物を創造することが出来たため、
・1年に何度でも実を成らせる穀物や野菜
・綺麗で美味しい水の流れる川
・海中の魚が直ぐに大きくなる海
・温暖で年中過ごしやすい気候
・病原菌が存在せず健康で生活できる空間
などイシルダーの世界に住む住民には考えつかないほど安全で豊かな生活が保障されている。だからといってそれだけで人は満足するものではない、辛いことがなければ幸せは感じられにくいのが人なのである。すぐに飽きがきて厳しいイシルダーの世界に帰ると言い出す住民がいても何らおかしくないとシルバーは考えていた。
「ここでは目的を持って生きてもらわなければいけない。それを実現するにはどうすれば良いのか・・・今はまだわからない。」
と呟きながら着実に生活圏を広げるシルバーであった。
そして初の入所者が決まった。シルバー孤児院の子供らをここで生活させることにしたのだ。
子供だけでは色々と難しいことがあるので
・教会からシスターを数人
・商業ギルドから商人を数人
・小物や生活雑貨を作る職人を数人
・料理を作る調理人を数人
・家や家具を作る大工を数人
・勉強を教える教師を数人
・動物や魚を狩る狩人を数人
・薬を作る薬師を数人
・布を織り洋服を作る職人を数人
・街をまとめる役人や文官を数人
・仕事を斡旋するギルドの職員を数人
などと人を集めるとそれだけでそこそこの人出になりその多くはシルバー孤児院の卒院者だった。
シルバーは亜空間の生活を豊かにしながらイシルダーの世界での役割も果たすことにした。ここでしか生きられないものやたまにこちらに行きたい者がいることは前提でその者たちが暮らすためにもグリーンアースと言う街は必要であった。
シスターの中にはセレナも居た。セレナは神の住まう世界を見てみたいと喜んで参加してきたのだ。その為教会も急遽建立したがその中には神の姿は無かった。
シルバーは亜空間の世界に色々な動植物を持ち込みさらに海や川、山に森と資源となる存在も大きく取り込み出した。既に生活圏は国3つほどは十分に入るほどになっていた。
「この世界は不思議はエネルギーで活動できるようになっているが、俺が全てを供給していたのではうまく回らなくなることが予想できる。魔素を使えば魔物が発生するし、化石燃料を使えば資源の枯渇や乱開発が予想できる。」
どうしたものだろうか。
突然全く違う世界では生活しずらいだろうからそれぞれの良いところとデメリットを少しでも小さくできるようにしようかな。エネルギーは魔素で魔物の生息域をある程度決めて太陽光や風力と水力も活用できるようにしよう油田はできないようにしよう。
ある程度仕様が決まったことからシルバーは亜空間の拡張を真剣にやり始めた。
「ここが魔物の森で、ここが魔物が住む湖。ここは活火山地帯に温泉の湧く地域も合わせて・・・ここは動植物の楽園でこの草原は栄養たっぷりな穀倉地帯予備軍に・・・この辺りに牧畜しやすい村を数個準備してここは商業都市に・・・」
世界作りにのめり込むシルバーはグリーンアースの街が隣国に狙われていることに気づいていなかった。
ーー 戦争そして街の移転
グリーンアースの街は既にキグナス王国の首都である王都の街を大きく上回る規模と人口になっておりその経済的存在も大国並みになりつつあった。そんなグリーンアースの栄誉を忌々しく思うものがいても不思議でもない。ここにその思いを大きく思いかつ行動に移した男がいた、
ガルガット王国とセラーヌ王国の高位貴族らであった。
セラーヌ王国宰相のキルギス公爵は東部大深林の西側に位置しシルバーが大森林の中心部まで魔物を狩り尽くしたため、追われた魔物達が西側のセラーヌ王国側にたびたび氾濫し多大な被害を受けていた。しかし直接的に誰がと言うことが言えない魔物の氾濫に苦渋をなめていた。
ガルガット王国の第二王女は同じような問題で大森林に接する辺境伯から何とかならないかと嘆願を受けていた。
それらの情報を掴んでいたキグナス王国の反シルバー辺境伯派が両国にグリーンアースを攻め込むなら手助けをすると打診し、今回の混成軍が編成されグリーンアースを挟み込むように取り囲み宣戦布告をしてきたのであった。
「シルバー辺境伯様!敵軍が押し寄せております、いかがしましょうか?」
辺境伯軍の騎士隊長であるマルコ=セガールが報告にきた、
「相手はどこで、その規模と理由は?」
と言う問いにマルコ隊長は
「セラーヌ王国第二王女軍とキルギス公爵軍および我が国の反シルバー辺境伯を謳う貴族軍で合わせて10万が2手に分かれて進軍中です。近辺の村や街の住民にはグリーンアースの城壁内へ避難させておりますがしばらくは出入りできなくなりどうです。」
と交易的にも封鎖されていることを語った。
それに対しシルバーは
「その程度の軍勢ではこのグリーンアースは攻め落とせぬ。しかし交易が滞ることと周辺の農地が荒れることは許し難いな。」
と言いつつ移転魔法で数カ所に飛び回り根回しすると怒りの鉄槌を振り下ろすことにした。
ガルガット王国の国王ガイダンス=ガルガットは怒りに震えていた。その理由は数刻前に遡る。
「何!メアリーロウ第二王女が隣国の手引きでセラーヌ王国軍と共にキルギス王国領内に侵攻していると、真か!」
とその真意を報告者の密偵に聞きただした、すると密偵は
「はい、大森林を挟んだシルバー辺境伯の魔物狩りのため我が国及びセラーヌ王国内に度々魔物が氾濫してりその原因でるシルバー辺境伯領を、打ち滅ぼしに向かった模様ですその規模10万であります」
と答える
「何10万もの軍隊を・・・それで勝てるのであろうな当然。」
との問いに密偵は
「賢個な街と聞いておりますが10万もの軍隊を持ってすれば数日中に落ちるかと」
と答える言葉に大きく頷くと
「キグナス王国に使者を出しておけ。大森林を持つ各国に被害甚大な所業許せず、妨害することあれば全面戦争だと」
言うともう勝てその戦利品をどうするかと考えていたところに突然
「勝手に他国に攻め込む娘を諌めずそれに乗っかるとは困った国王だ、それなら手加減せずとも良いな」
という若い男の声に
「何者!」
と近衛の騎士が誰何するのを無視し、国王の目の前に歩きよる。それを止めようと動き出そうとした近衛達は突然身がすくみ動けなくなった。
「お前は何者じゃ、生きてここから出れると考えておるのか」
国王は去勢を張りながら若者を詰問すると
「俺は、あんたの娘がアホな理由で攻め込んでいるキグナス王国のシルバー辺境伯だ。魔物を抑え込むことすらできない軍隊に何ができると言うのかその身できっちりと思い知るがいい、それだけを言いにきた」
と言うと幻のように姿を消した。
「誰か、キグナスのシルバーとかいう若造の情報を出せ」
と怒りに震える国王は大声を上げたのだ。
同じ頃セラーヌ王国でも同じようなことが起こっていた。
こちらは宰相であるカイン=グランデ=キルギス公爵が率いる6万の軍勢、国王にシルバーは
「宰相率いる軍隊が突然戦争を仕掛けてきたんだ負けたら覚悟しておけよ」
と捨て台詞を吐いて姿を消した。こちらも国王がシルバーの情報を至急求めたのは言うまでもないことだった。
グリーンアースの長大な城壁を目の前にしてガルガットの第二王女は
「この城壁は一辺境伯がここ数年で作り上げた城壁と言うのは真か?」
と側近の男に聞く
「はい、ほんの10年前までここは大深林の外角地でそれを開拓したのが今の辺境伯と聞いております」
と答える男に
「これほどの物を・・・信じられぬ、まさか勇者の類ではなかろうな。もしそうなら我らは全滅することも考えねばならんが」
と言う第二王女の言葉に
「そんな大袈裟な、あやつはただ幸運に恵まれた平民にございます。この軍勢ならば数日と持ちますまい。」
と答える男は反シルバー辺境伯派の先鋒的な貴族の配下の男爵だった。
不安を感じながらも第二王女は兵を進めるべく指揮をする。
セラーヌ王国軍責任者のドウゲーンは宰相の次男で今回の手柄次第ではグリーンアースの街を摂取しようと考えていた。
6万もの軍勢ガルガット軍と合わせれば10万を超える軍勢これで攻め落とせない城があるだろうかと考えていた。
ここまでも手引きするキルギス王国の貴族らが何かと援助しておりうまくことが運んできることもその思い上がる理由であった。
ーー 忍び寄る攻撃、無味無臭透明な悪魔それは・・・
シルバーの街グリーンアースを取り囲む10万の軍勢は、北門と東門の前で野営をしていた。この二つを押さえるとグリーンアースの街は大森林側しか出入りできないため、孤立無縁に見えた。
「今から俺があいつらを攻撃する、門を固く閉じて決して開けないように。開ければ命の報償はできないからな」
といつも以上に真剣なシルバーの声に家臣達は緊張していた。
「シルバー兄様我が辺境伯の住民に危害はないのでしょうか」
とスクナが聞く
「ああ大丈夫だ誰一人傷付けさせない、安心してここで待て」
とシルバーは答えると城から姿を消した。
勝利を確信してそれぞれの軍勢は野営というか宴に酔いしれていた。
その中でガルガットの第二王女だけは危機感を感じ少数の兵を従え軍の後ろの小高い丘に下りことの成り行きを見守っていた。
夜半過ぎにあれほど騒いでいた両軍の野営地から歓声や物音が聞こえなくなった、不審に思った第二王女は伝令を走らせた。
第一伝令がもどらぬまま第二第三と伝令を出すももどらぬ伝令に、異常事態が起こっていることに気づいた第二王女はさらに後方に移動し情報を待つことにした。
同じ頃セラーヌ王国軍は異常事態に何もすることが出来ずに殆どのものが命を刈り取られていた、
「おい、飲みすぎたか・・・力が入らぬ」
一人の兵士がションベンに行こうとして倒れた。それを見ながら笑っていた兵士たちも次々に倒れ始めた。あるものは体に力が入らず、あるものは眠るように倒れそのまま死んでいった。
そう、シルバーは敵軍を高さ2mほどの結界で囲みその中に二酸化炭素を流し込んでいったのだ。
匂いもせず音もしないそして見えないその悪魔のようなガスはゆっくりと兵士の自由を奪い命を刈り始めたのだ。
たまたま小高い丘に下がっていた一部の兵のみがその直接的な攻撃を避け得たがその者たちさえその後に命を落とした者も少なくなかった。
次の日の朝、10万人の死体の転がる様子を見たガルガットの第ニ王女は
「これはいかぬ、直ちに生き残りと共に退却する」
と叫んで撤退していった。
セラーヌ王国軍はたまたま偵察に出ていた20人ほどが生き残ったのみでほうほうの体で国に逃げ帰っていった。
こうしてイシルダー史に新たな歴史の1ページが書かれることになった。
「天の鉄槌」
と言う言葉が10万の兵士の死と共に。
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