第16話 亜空間

スクナは亜空間の街を観ながら驚いていた、

 ・ 真っ直ぐで平らな道

 ・ 石のようで区切りのない四角い壁

 ・ まるで無いような透明度の高い窓

 ・ 何処もかしこも明るく過ごしやすい室温

 ・ 見るからに柔らかく暖かそうな寝具やソファー

 ・ 白く四角い箱を開けると氷の山や冷たい風が噴き出る何か

 ・ なめらかな手触りの湯船に捻るだけで水やお湯が出てくる不思議な空間

など住宅内だけでも観たことも触ったこともない物に溢れている。

それから見るからにそびえ立つ塔に向かうと透明な扉をくぐり正面に進むと鉄の扉があったその扉の横に三角のボタンがある。


「これかな」

そのボタンを押すと扉が開いた中に入るとそこは四角い狭い空間すると扉が音声と共に閉まる。


[扉が閉まります、御用の階のボタンを押してください。]

それを聞いたスクナは一番大きな数のボタンを押してみる、暫く不思議な感覚に襲われながら待つと

[20階です。]

と再度メッセージと共に扉が開く。

外に出るとそこは360°が見渡せる高い場所だった。端っこに歩いてみると街が一望できるだけでなく遠くの山や海まで見えた、更に崖っぷちに近づくと「ドン」

と頭が何かにぶつかった。

「ここにもあの透明な板が置かれている」

ガラス張りの展望台に興奮し周りを見ながら風景を楽しんでいると、見たこともない鳥がすぐ横を飛んでいった。

「生き物がいるんだ」

不思議な感じだった。ゴーストタウンと思っていた街に生き物がいるここはこれから人が住む街なのだと思える一瞬だった。


 服屋に訪れたカクナは驚きと嬉しさの連続だった

「何なのここ!可愛い洋服がこんなに沢山ある、これも可愛いわ。」

見るもの手に取るもの全てがうれしく楽しかった。

「次はお菓子屋さんだね」

と言いながら次の店に入るとそこは透明な箱に美味しそうなスイーツが並ぶ店だった

「これは味見できるのかな」

と言いつつ透明な箱の開け方に苦戦していたが裏側にスライドする部分を見つけ店の小皿に取り分けてテーブルに持って行って試食タイムだ。

「んー!これものすごく美味しい。」

と一口ごとに感想を言いながら次々に完食していった。



シルバーは二人を亜空間に連れてくるに際し幾つかの仕掛けをしていた、

 ・店は二人に合う商品を事前に作成し展示

 ・住宅は最低限宿泊できるように機能を稼働

 ・展望塔や遊技場はその素晴らしが分かる様に整備稼働

などすぐにでも人が生活できる様な仕様にしていた。


スクナとカクナは数時間後に合流し少し小高い場所にあるお城の様な屋敷に向かった、

「ここがシルバーお兄様の家になるのね、とても素敵」

スクナが声を漏らす、カクナも

「ここで兄妹3人で・・・」

妄想が膨れる様だ。


「どうだったかい?僕の創造した街は?」

と出迎えたシルバーが二人に尋ねると

「「素晴らしいわ」」

二人同時に返事する姿にシルバーは満足した。

 


その頃グリーンアースの街の教会ではシスターセレナが神託をうけていた


〈セレナよ新たな邪神がこのイシルダーの世界に災悪をもたらそうとしています。場所は北西の端スーデル王国と南西端のアフル国です教会を通じて各国に警戒を発令しなさい〉


と言うものであった。


 セレナはこの情報をすぐに王都の教皇に緊急連絡として報告してから自分に神託が降りた意味を考えた。

『この街にいる私に神託が来たのは私に使命があるからだと思う。ここはシルバー辺境伯の街ということは私に彼の方を動かすべく働きかけることが神の意志だと思う』

そう考えに至ったセレナはシルバー辺境伯の屋敷に向かった。


 屋敷についたセレナは対応の文官に「神の神託について報告があります」と訪問の理由を告げシルバー辺境伯本人への面会を求めた。

「どうぞこちらでお待ちくださいまもなく辺境伯様が来られます」

と案内を受け待合専用の部屋でセレナがお茶をいただいていた頃シルバーは連絡用の魔道具で来訪者の事実を聞きスクナ達に断りをして亜空間から屋敷の一室に戻ってきた。



「お待ちしました、シスターセレナ何かありましたか?」

とシルバーは声かけするとセレナは

「はい、イシルダー神様から神託を受けました。何でもまた新たな邪神がこの世界を狙い災悪をもたらそうとしているそうです。しかもキグナス王国から一番遠いスーデル王国とアフル国に。」

と神託を伝えたあと

「私の元に神託があったことは何か理由があると思うのです。シルバー辺境伯様には心当たりがあるのでは無いですか?」

とシルバーにその理由を知っているのではと聞いてきたのだ。

「私がそれを知っていると思われるのですね」

と答えるシルバーにセレナは

「はい私が思うに今回の邪神が既に何か起こしていてそれを辺境伯様が防いだか妨害したためここから遠い国で災悪が起こそうとしていると思うのです。いかがですか?」

セレナとしてはこれは一種の賭けのようなものだった。キグナス王国と国交もない遥か遠くの国で邪神が災悪をもたらすこれだけではシルバーを動かす理由にはならない。

とすれば既にシルバーがこの邪神と関係していると考えると自分に神託が来た理由がつくと思ったのだ。

「………」

沈黙するシルバーに

「如何ですか?もし何か知っておられるならこの世界のために教えてほしいのですが。」

と問い詰めるセレナにシルバーは思い口を開いた

「確かに先日魔族では無い獣の姿を持つ異形の者がこの街で暴れる事案がありました。幸いなことに直ぐに対処できたのでほとんどの住民が知りませんが、その者がその新たなる邪神の手先であればそういう可能性もあるでしょうがいかんせん既に死んでおりますし単独の行動でしたので仲間の存在も把握できていません。報告する情報がありませんでした」

という答えだった、それを聞いたセレナは

「私の私見ですが、イシルダー神様はこの事実をシルバー辺境伯様にお知らせするのが今回の使命では無いかと思います。ただ辺境伯様ではなく私に神託されたことは耳に入れたいそれだけの理由だと思います。」

と答えあえてその後のことは聞かずに屋敷を後にした。


シルバーはその後亜空間に戻るとスクナに今回のことを話して聞かせたするとスクナは

「シルバー兄様イシルダー神様は自由に生きる事を命じられたのですよね。ということは今回のことについてもお兄様が動こうが見捨てようが構わないということでしょう。ただ情報のみを与えたということにしたいのでしょう。」

と神託の真意を語ってくれた。

「そうだな、全てを俺が守るなどということは不遜な事だよなこの世界の人々の力を信じる事も必要かな」

と自分を納得させるような事を言いつつ

「一応使い魔を飛ばしとくよ」

と答えて現代日本の夕食を3人で食べることにした。



ーー スーデル王国 side


スーデル王国の教皇に邪神の情報が伝わったのは神託から3日後のことだった。この世界おける情報伝達としては非常に早いものだった。

「教会からの情報ということで国王に直ちに警戒を促しなさい」

との皇教の下命を受けた司祭が国王の元に飛んでいった、国王は直ちに周辺の警戒と不審者や不審なものの情報収集に力を入れた。


 スーデル王国に来たのはヌーディクである。蛇顔のヌーディクは見た目が目立つためフードを深く被り冒険者ギルドに顔を出していた。すると何故か視線が強い?

『この国では人族でなければ注目を浴びるのか?』と思いながらも周りを見ると少ないが獣人の姿も見える。不審に思い一旦ギルドを後にして宿泊先を探すが町中が自分を監視している感じがする。

『今回は難しいか、ガーリックと一緒に行動した方が良かったかな』と思いながらも宿を取り部屋に入ってこれからのことを考え出した。


冒険者ギルドでは既に邪神の情報が流れていてヌーディクの登場は直ぐに王国に知れることになった。ヌーディクの泊まった宿からも連絡が来て周辺は住民が避難させられ騎士や冒険者が取り囲み始めた。


ヌーディクは蛇族の特徴として気配を感じるスキルがあり自分を取り囲む気配を早くから感じ取っていた。

「俺も甘く見られたものだ。ここらで暴れてガーリックに合流してみてもいいかもな」

と独り言を言いながら身支度をして宿の屋根に音もなく上がった。


ヌーディクは固有スキルである眷属召喚を発動し蛇を100匹ほど召喚し取り囲んでいる冒険者のそばに配置した。


「隊長、総員配置につきました。」

小声で兵士が隊長である兵士に報告した。続いて冒険者ギルドの副ギルマスが

「冒険者も配置完了した」

と報告し後は合図を待つだけになったところで異変が起き始めた。

「うあー」「なんだなんだ、こんなところに毒蛇が」「こっちにも居るぞ」「助けてくれ」

などと宿の周りで悲鳴や叫び声が響き出した。


隊長が副ギルマスに指示する

「相手は面妖な魔法を使うようだ。毒消を配布しながら包囲網が崩れないように頼む」

と言うと兵士に突撃命令を発すると直ぐに見張の兵士が

「屋根に誰かいます」

と叫んだ、なるほど屋根に人影が見える隊長は魔道具の笛を吹き鳴らす。

 すると上空に竜騎士隊が現れる。


「屋根の上に敵発見、魔法攻撃を開始する」

と言いながら連続攻撃を仕掛ける竜騎士隊。流石にヌーディクも空からの攻撃にはたまらず宿の部屋に戻ろうとしてその足を止める、いつの間にか屋根に一人の男が立っていた。


「俺のへはい察知を掻い潜ってここにいると言うことはかなりの手練れだな、丁度いいかかってきな」

とヌーディクは交戦的な言葉を発して男に対峙する。


ヌーディクと対峙している男はこの国唯一のSランクの冒険者で二つ名がサイレントと言う男。全身黒っぽい服に目立たない顔立ち気配がとても薄い男である。

「・・・・」

無言の男にヌーディクが音もなく近づき鋭い細剣を突き出すと共に召喚魔法で蛇を20匹ほど周辺に配置する。

細剣が心臓を射抜いたと思った瞬間男の姿が消えてなくなった。周辺の蛇が次々に切り裂かれて死ぬ、それを見ていたヌーディクは男の位置を予想して攻撃を叩き込む。

屋根がくだけ何か大きな塊が屋根から落ちる。

「俺に気配を悟らせずに叩ける奴はいやしないぜ」

ヌーディクは確かな手応えに満足し穴から宿に姿を隠そうとした瞬間背筋を這う危機感に身構えた、

「何!・・・気のせいか。」

と呟き歩こうとして動けないことに気づく何らかの魔法で体の自由が効かないのだ。すると待っていたかのように竜騎士たちが上空から攻撃魔法を撃ってきた。逃げることのできないヌーディクは身を焼かれながらガーリックに思念を飛ばすそして崩れ落ちる。


サイレントは地面に落ちたヌーディクの死亡を確認するとその場を離れた。



ーー アルフ国  side


 その時ガーリックは思念を受けていた、

「ヌーディクがやられたか、この世界にもなかなか強い奴がいるようだ。」

と独り言っを言うと店を回って魔石を買い漁っていた。


「何、魔石を買い漁る獅子型の獣人がいると」

この国は王族がいない商人の国で4年に1回選挙で代表が決まるのだ、現在の代表である

 メリーナ商会の会長 メジル 60歳が報告を受けていた、直ぐに補佐の男に

「冒険者ギルドに確認と対処の依頼を出しなさい」

と言いつけると教会に連絡をしに向かった。


教会はこの世界の流通及び情報の最も優れた組織で商人の国としては疎かにできない相手である。

教皇に面会すると、

「先程不審な獣人を見つけたとの情報がありました。冒険者に依頼しましたが教会からも応援をいただきたく参上しました。」

と言うと教皇は

「もともと神託からの情報、私どもも協力は惜しみません。」

と言うと側の聖騎士に何やら言いつけていた。


ガーリックはユニークスキルとして魔石を利用して身体強化を図り古竜並みの力を出すことができる。しかもここで手に入れた魔石は流石商人の国だけはあり最高級の魔石がかなり手に入った。


ガーリックは今回命をかけて邪神の力を見せつけることにした。

故に逃げる道はない王都の中心の広場に陣取り魔石を体内に取り込み始めた、するとどこからか情報を聞きつけた冒険者らが通り囲み始めた。

「おいお前、俺はこの国のAランクパーティー「殲滅の雷神」のリーダーライディンだ。」

「素直に手をあげてこちらに来い」

と声を上げたが直ぐに警戒を強めた。

ガーリックの体が一回り二周り三回りと次第に大きくなって聞くのをみて周りに指示し始めた

「誰か聖騎士に連絡しろ、いいかこいつはただモンじゃね」

と言いながら雷魔法を唱えながら皆を下げさせた、詠唱が終わり魔法を発動する

「ズドドドドーン」

激しい雷鳴が響き地面が揺れた。土煙が視界を塞ぎ静寂が支配したがまだ魔力の塊と思える気配は消えていない。

「!!!」

視界が広がるとそこには小山のような獅子が佇んでいた。

「全く効いていないか」

そう言うとライディンは時間稼ぎをすることにした、とにかく魔法を打ち込むことにしかし姿を見たのはそこまでだった。詠唱をしようとした途端意識が命と共に消えていたのだそれだけでなく周辺にいた冒険者30人が全て倒れていた。


聖騎士たちがそこに着いた時にはすでに冒険者の死体と雷撃の跡しかなかった。

「どこに行った」

聖騎士の一人が呟くすると国主の居る城から爆発音が響いてきた

「しまった、ここで二手に別れるぞ国主邸に半分教会に半分だ行け!」

と号令をかけると風のようにその場を後にした。


ガーリックは極度の興奮状態にあった、

「これはいい、この国を更地にしてやろう」

と言いつつ口から炎を吐き出しながら目の前の全てのものを焼き尽くし始めた。すると国主の護衛と思われる男3人が行手を遮ってきた。

「ここから先は行かせん」

一人の大盾を持った男がそう言うと不可思議な魔法の盾を展開した、ガーリックの炎がその盾に塞がれた。

「なかなかやるな」

ガーリックが呟きながらその大きな前足で盾を切り裂こうとすると大きな音と共に不可思議な盾が割れるのがわかった。それと共に盾を張っていた男が後方に吹き飛ぶ、すると直ぐに別の男二人がガーリックに切り掛かるがその剣をガーリックの皮膚は全く意に返さずそのまま二人とも詰め攻撃に沈む。


ガーリックはそのまま国主邸を壊滅的に破壊すると今度はこの世界の神に挑戦するように教会に向かう。

 教会の前には聖騎士たちがガーリックの到着を待っていた。それを見ながらガーリックは炎を吐きながら突進する。

「迎え撃て」

聖騎士の一人が聖なる盾を取り出し前に出る、すると後ろに聖なる槍を構えた者と弓を構えた者が攻撃体制に入る。

「弓打て」

の号令で光の矢が放たれる。ガーリックの炎は盾に防がれそこに光の矢が襲ってくる。先程まで無敵の強さを誇っていたガーリックの身体もh仮の矢を防ぐことはできず数本の矢が深く突き刺さるが、それを物ともせずガーリックは聖騎士たちに襲い掛かる。

鋭い爪や牙の攻撃が聖騎士を吹き飛ばし、聖騎士の矢がその腕を貫く。血みどろの攻撃をし合いながらガーリックが推してゆく、聖剣を持った聖騎士がその突進を止める。

「ここから先には行かせん」

聖騎士が叫ぶと、ガーリックも叫ぶ

「神に我が牙を!」

激しい攻防、次第にガーリックの体が小さくなっていく、魔石の効力がなくなり始めたのだ。


聖剣がガーリックの左肩に深く食い込む、直ぐに光の矢が右目に突き刺さる。声にならない声を出しながらガーリックがよろつくといく本もの槍がその腹を突き抜く。

「ここまでか・・・無念」

地面に倒れ込むガーリック、トドメとばかりに聖剣が首を切り裂く。



邪神の召喚した3人の異形の男たちが倒されたことが教会を通じて世界の広まる。


「今回はこれで手を引くが次もうまくいくと思うなよ、イシルダー」

邪神は捨て台詞を残しこの世界から消える。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る