第9話 教会の動き
ーー 王城 side
「キグナス王様。王都内の被災者の治療や住宅事情はこの一月でほぼ解決いたしました。」
宰相のダイレクト侯爵が報告すると、
「何、早すぎないか?王城は未だ復旧作業が行われていると言うのに。」
との王の声に。
「はい、ローカル辺境伯とシルバー伯爵の尽力によるところが大きいかと。」
との答えに王は、
「シルバー伯爵か、それど今度はどう支援してきたのだ?」
と興味を感じつつ問うと。
「先ず治療魔法でほとんどの怪我人を無料で治療したそうで、そのご住居地の焼け跡を買い占めそこに不思議な住居を建て始め格安で前の住民に売り払ったようです。」
と答えると。
「何故王城に支援をせんのか?」
と疑問を口にすれば宰相は、
「どうも王の為のようです。先ず王都の住民を助けその後で王城が復興すれば民は自分達を大切にしていると畏敬の念と信頼を覚えるだろう。そうすれば復興のために少しばかりの制限や公役があっても文句はでまいと、ローカル辺境伯様が連絡してきました。」
と報告し、あえて王城の復興には手を貸さないと言われましたと追加の情報を上げた。
王はそれを聞くと、
「その通りであろう」
と言いながら修繕されたばかりのテラスから新しい住宅というものを観ながら。
「あの四角い建物だな、一度見に行きたいものだが。」
と呟いた。
ーー 王都内大聖堂の皇教 side
高位の司祭が集まって今回の災厄と思われる事態とその後の対応の話をしている。
「今回の赤竜の王都襲撃は過去にない大災禍だったが、その割には被害はそこまでなく何故か赤竜が忽然といなくなった。」
と1人の司祭が報告すれば別の司祭が。
「確かに、他の街に現れた災害級の魔物も何故かこと然と消えている。」
といえば。
「それよりもあの災害の後シルバー伯爵が魔道具のテントを焼け跡に建て、病人を無償で治療していたがその義務はこの大聖堂の司祭にこそあったのではないか。」
と別の司祭が言うと、
「確かにこのような時こその我らのはずが、あまりの災厄に出足が止まっていたのも事実。
出来ればシルバー伯爵に少しでも助力すればと遅れながらも反省しておる。」
とまた別の司祭が言う。
「皆のもの、そのシルバー伯爵というものは何者か。」
と話を聞いていた皇教が問うと。
「はい、ローカル辺境伯の保護のもと力をつけた新興貴族の若者と聞いております。何でも魔法が得意で数年前の王子2人の治療をしたのもその者のようです。」
と若い司祭が答えると高齢の司祭が皇教に、
「ここで特別に司祭の位をその者に与えて民衆の非難をかわしてはいかがでしょう。」
と進言すると、
「確かに何か対応せぬ訳には行くまい。ただ神の使徒などではないかとの疑念も感じる誰かそのものの近くに人を向けよ。」
と皇教の一声でシルバー伯爵への対応が決まった瞬間であった。
ーー 王都の大商会 サンクチャリー商会 ベルベット会頭 side
ベルベット会頭はそのテントを見ながら思案に暮れていた。
「多分あのテントは空間魔法が施され更には物理強化の付与がされている。
それほどの物を惜しげもなく被災した民に提供し、無料で高位の治療を施せる資源はどこから来るのだろう。」
というのが商人としての疑問だった。
自分も支援のためにと格安でポーションをかき集め持って行ったが。
「既に大方の怪我人は治療魔法で治療済みです。出来ればこの後復興作業で怪我人が出ることが予想されるので、その時に格安で提供していただければとシルバーが申しております。」
と対応した少女が答えた。
「それでは何か不足していないか見せてもらってよろしいでしょうか。」
といえば少女は、
「はいシルバーは、支援していただける方には好きにしてもらえと言っておりますのでどうぞ。」
と答え奥に案内してくれた。
そこは見た目こそ野戦病院のようであったが実情は、
「これほどの治療と支援があればもう何もいらない気がしますね。」
と思わず言葉にしてしまう状況で、
・怪我人は清潔なベッドに清潔な服を着せられ安静にしており、すぐ横のテントでは炊き出
しというよりもレストランの食事のような豪華で美味しそうな食事が所狭しと提供されて
おり、大きな湯船を用意した入浴施設まであった。
・怪我人や家を焼き出された市民は狭いが十分間隔が取られた個室が与えられ元気な子供た
ちの笑い声が聞こえていた。
これを見たベルベット会頭は、
「これほどの支援をするシルバーというものに会いたい。」
と切実に思い先に対応した少女を見かけると。
「すまないがシルバー殿にお会いしたいのだが。」
と申し向けると。
「シルバー兄様は今治療を終えられあそこのテント内で食事を提供していますよ。」
と教えられ、そのテントに向かうと1人の青年が忙しく動き回りながら食事を避難民に与えていた。
ベルベット会頭はその邪魔をしないように様子を見ていたがそれに気づいた青年が、
「そこの人、どうぞ食事を提供しています空いてる席で食べてください。」
と一人分の食事を手渡してくれた。
ベルベット会頭は素直に受け取ると近くのテーブルに腰を下ろした。
すると配り終えたのか青年がすぐ横に腰を下ろし息を一つ吐いた。
「お疲れ様です、あなたがシルバー殿ですか?」
と尋ねるベルベット会頭に青年が答える。
「大商会の会頭様がこんな場所に何の用事がおありで。」
と自分の身分を知って聞いてきたそこで、
「実はポーションを格安で持ち込み治療に役立ててもらおうときたのですが、既に主な怪我人は治療ずみで今後の復興時にそのポーションを役立ててくださいと向こうにいた少女に言われ。
それなら他に手伝うことはないかと様子を見にきたところでした。」
と素直に答えると青年が、
「それは流石と言えますね。私はローカル辺境伯の指示で支援に来ているシルバー伯爵です。今の所不足は感じませんが人手は欲しいですね。それと今後住宅地の焼け跡を更地にして一括買い上げしたいんですよ協力してくれませんか。」
と答えた。
それを聞いてベルベット会頭はしばらく耳を疑った。
伯爵が野戦病院のような場所に自ら来て民に治療と施しをしている、信じられなかったが目の前に本人がいる。
「あなたがシルバー伯爵ですか。初めてお会いしますサンクチャリー商会の会頭をしていますベルベットという者です。貴方の噂はよく耳にしますが信じられない話ばかりで・・・しかし今の姿を見るとあながち嘘でも大袈裟でもないと感じています。」
と答えるベルベットにシルバー伯爵は、
「そこまで言われるとくすぐったいですね。さっきのお願いを聞いてもらえれば王都民の復興がかなり早くできると考えています。ご協力願えますか?」
と再度頼むと、
「分かりました私が責任を持っていたしましょう。」
と答えてくれた、その後はいろいろな話をしながら過ごすと。
「遅くまで話をしていただきありがとうございました。」
と断りをいってベルベット会頭はその場を後にした。
「あの伯爵は本当に人物ができている。もっと大きくなることは間違いない。」
そう実感じながら会頭は今後のことを考えながら商会に戻って行った。
ーー 新しき仲間? シスター セレナ 17歳
この世界で宗教として確立しているのは人族信仰の一神教である。
他の亜人と呼ばれる人らはそれぞれに信じるものや神がいて、そして一神教の教える創造神も同じように信じている。
一神教のキグナス王国の大聖堂から密命を受けた司祭が、シルバー伯爵の元に向かわせたのが聖女候補の1人、シスターセレナ17歳である。
セレナは孤児院育ちながら高い教養と熱い信仰心それにより高位の治療魔法が使えるシスターである。
今回王都の災害から民を救ったシルバー伯爵に司祭の位を授け領地に一神教の境界を立てようと決まった。
そこでシスターには現地にいち早く向かい伯爵と良好な関係を結んでほしい。
そう依頼を受けたのだ、初めて王都を出て単独で一神教の布教を任されたのだ妙に力が入る。
司祭の命を受け必要な物を馬車に積み込み3人のシスターを連れてセレナはシルバー伯爵領に向かった。
しかしシルバー伯爵領といえば魔の森の外周部に造られた街という危険はないのか物資はあるのかという不安で、シスターたちは無言で馬車に揺られていたが1人がこんな話をし始めた。
「シスターセレナ、先ほど立ち寄った街でシルバー伯爵領について聞いたのですが信じられない話を聞きました。」
と前置きして、
「そこは高さ30メートルの城へきが何十キロにもわたり続く城塞都市でそこまでの道も王都以上に平で広いと言われました。確かにローカル辺境伯寮に入ってから道が平坦で広いと感じますし、行き交う商人や人々は明るく賑やかに見えますし魔物がほとんど出てきません。」
と言うと水を口にして更に、
「税金もほとんどなく商売したい放題と聞いており食事もとてもうまいと言っていました。
本当であれば信じられないことですが、もしそんな街があの魔の森のそばにあれば一神教の聖地ともなれるかもしれません。」
と興奮した口調で捲し立てた、
それを聞いた他のシスターが、
「私も聞きました、伯爵は歳若く2人の妹と3人で城のような屋敷に住んでいるそうで婚約者などもいないそうです。」
と言うと残りのシスターが、
「何でも伯爵は高位の治療魔法と創薬ができるそうで、グリーンアースと呼ばれる伯爵の街は病人や怪我人が非常に少ないと言われています。」
と聞き限った情報を言い切った。
それらを聞いたセレナは、
「そうですね、魔の森と聞いて恐ろしい場所と思っていましたが意外といいところかもしれませんね」
と話にケリをつけ目的の城壁が見える頃には違う興奮が4人を包んでいた。
見渡す限り高く丈夫な城壁が続く街。
大きな門から街に入るとそこは清潔で明るい街並みが広がっていた。
家はほとんど同じような形をしており大きな窓には貴重なガラスが嵌め込まれていた。
井戸には何かが載せてあり水が噴水のように出ているのを見た時は驚いた。
目的の伯爵の屋敷についた時にはその美しい建築美に息を呑み込んだ。
4人は思いを胸に門兵に目的を伝えると、
「はい確かに伺っております私が案内しますのでついてきてください。」
と客間まで案内してくれた。
しばらく屋敷のメイドなどからお茶などの接待を受けていたが、そこに20歳くらいの青年が現れた。
「お待たせして申し訳ありまっせん。私が当家の当主シルバーです。」
と青年は名乗りを挙げた。
それに慌てた4人は1人づつ、
「一神教のシスター マイヤです。」「カイヤです。」「サイヤです。」「聖女候補のセレナです。」
と挨拶しシルバー伯爵領地にきた目的を告げた。
「そうですかここにもやっと教会ができるのですね。出来るだけ応援しましょう予定地は既に決まっていて関係者が来られれば教会を建設する予定になっています。完成まで屋敷の空き部屋をお使いください。」
と言われ4人とも恐縮しながらもここに寝泊まりできることに感謝していた。
その後ひと月間セレナ達は屋敷に間借りしながら建設中の教会の様子を見ながら街中で布教と治療行為をしていた。
この街では王都ほど怪我や病人がいなく、なかなか教会の存在意義を見せることができなかった。
それと言うのもシルバー伯爵家が格安の各種ポーションを販売しているため、教会を必要とする人がいないのだ。
そして災害級の魔物が現れたとしてもシルバー伯爵自らが討伐に出るため、神頼みする必要性が非常に低いためだった。
「本当に伯爵は勇者か何かじゃないの。」
マイヤがボソッと呟くと。
「本当、教会のやる仕事を全部伯爵家がしているもんね。」
とサイヤが応じる。
確かに2人の言う通りここで布教は難しそうだが別に布教だけが今回の任務ではないことをセレナは知っているため。
「今まで教会がない状態でやってきた街だものしょうがないよ。少しづつ実績を積むしかないかな。」
と慰めの言葉を口にしていた。
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