第5話 シンカーの街と辺境伯

ーー シンカーの街のギルマス ゴードン side




 ゴードンは元A級冒険者として活躍していた男だ。


それが10代半ばほどの新人冒険者に全く歯が立たず、それどころか手加減してもらっていたようだ。


ということが信じられなかった。


しかしギルドの魔道具は正確その数値が


 レベル 70 HP3万越え   MP5 万越え  


と表示されたのだ。自分の数値は全盛で


 レベル 48 HP5000 MP500


と比べてみればその違いは歴然。


過去賢者と言われた者がMP2万越えと言われて、信じられなかったが5万越えとは人間と思えない。


 ゴードンは今領主であるローカル辺境伯の屋敷に向かっているのだった。


その理由は、


 ワイバーンの魔石と素材 それ以外にも高レベルの魔物素材をあの男が持っていると判明したからだ。


辺境伯は妻と子供の病気治療のため貴重な魔物素材を集めているのだ。



城を思わせるような辺境伯の館。


元々この辺りを治めるために砦を作り、それが今のような城の形になったことがその理由であるが。


それも二百年ほど昔のこと。


今代の辺境伯は非常にできた人物で、だからこそゴードンも今回の情報をすぐに辺境伯に報告しにきていたのだ。





ーー 辺境伯の執務室にて


 

 「その男の機嫌を損ねたのは失敗だったな。」


と紳士然とした壮年の男がゴードンに話しかける。


「はい、オ・・私としたことが相手を外見で判断しすぎました。」


と答えるゴードンはさらに


「カレン嬢を専属につけました。


 うまくいけば他の素材も手に入れそうですその際はすぐに連絡します。」


と言うと辺境伯は


「もしこの街に腰を下ろすようなら私が直接会って依頼しよう。」


と言う辺境伯にゴードンは慌てて


「辺境伯様危険です、1人でワイバーンを倒してもってくるような化け物です。


 ここの騎士団も盾にすらならないと思いますが。」


と言うゴードンの言葉を遮り


「いや、だからこそ直接会う意味があるんだ。


少しばかり会ってみようかな・・・、。」


最後の方はゴードンは聞き取れていなかった。






ーー 街一番の宿泊所 ワイバーンの宿の最上階



 シルバーは今後のことについて考えていた。


「レベルを100台まで上げたいがこの辺にそう言うレベルの魔物が居るのかな。


 錬金や創薬も面白そうだし図書館でも探してみるか。」


独り言を言いながらスクナに


「スクナ達も何かしたいことがあるなら言ってくれ。」


と声をかけると


「できれば侍女やメイドの作法を覚えたいと思っています。」


と言うので「考えておくよ」と答えていた。




この街1番の宿ということであったがその設備は、オレのテントの設備以下だったので。


リビングにテントを出して設置している状況で、今までと何ら変わらぬ生活だった。



 しばらくはギルドで教えてもらった図書館と不動産業者に顔を出し。


この世界の確認と条件の合う家の購入を検討しているが、どうも家を買う場合


 ・領主の許可


 ・ギルドの推薦


のどちらかがいるようで、どちらの許可をもらうか考え中。


しかし宿や周囲の商店の話からすると、ここの領主である辺境伯様はなかなかの人物のようでバカなギルマスよりはいいのかと考えていた。





ーー とある衣料品店



 スクナとカクナを連れて街中の衣料品店に来ている。


2人が俺が与えた服以外を着ようとしないため無理に連れてきたのだ。


「この2人に仕事着となる服を選んでくれそれぞれ3着でよろしく。」


と店員に伝えると金貨の入った袋を店主に渡して


「少し他所を回るので早めに終わったらここで待たせていてくれ。」


と言いつけて店を出た。


図書館通いで創薬の知識が出来上がったので、創薬する道具を買いに店を巡っていると気になる店を見つけた。


 看板に日本語で「薬」と書かれているのだ。この世界の者なら何かの記号かと思うかもしれないが・・・。


その店は、魔道具と創薬の店であった。


落ち着いた店内は綺麗に整頓陳列された商品が、優良店であることを物語っており。無駄話しもなく丁寧な店員の対応は、経営者の優秀さを感じさせる者だった。



客もそれなりの裕福な者が多いようで・・・1人特別に・・。


その時俺は静かに暴漢者の意識を刈りながら、目標の人物の側まで近づいて。何らかの魔道具を操作させた男の周囲を結界で覆った。


その目標である人物は、危険を感じ。すぐ近くにいた親子連れの少女を身を挺して守るような格好で伏せていた。


結界の中の男が爆発したがその声や音は外には響かなかった、ただ結界の内側が真っ赤に染まっただけ。


俺は結界のまま収納し残りの暴漢3人を一つにまとめロープで縛ると。


従業員と思われる男性に然るべきところに連絡をするようにと指示した。


店員は我に帰ると落ち着いた態度で、客の安全と身元を確認すると店外に送り出した。


 残されたのは俺と目標となった男性それとその警護と思われる男3人。


話を聞いた店主と思われる女性が、奥から出てくると。


「あら、あなたが来ていたのね。すると・・・ターゲットは貴方だったかもね・・・え!」


目標にされた男性を見ながら30歳くらいの妖艶な店主は、そう言って店の中を見回して俺に視線があったところで「え!」と悲鳴ににた声を上げた。


「・・貴方は・・・どなた?・・ですか?」


と言う店主に俺は


「俺は客ですよ。シルバーという冒険者です。


不穏な男達が店で何かしようとしていたので、捕まえただけの赤の他人です。」


と答えると


「シルバー」と男性が口ずさむのが聞こえた。


「・・・それは有難うございます。


迷惑料が代わりに何か必要な物があればご用意しましょう。」


と言いながら男性と俺の間に体を寄せてきた、男性を守るような位置に?


そこで


「俺は怪しい者ではありませんが、迷惑そうなので帰りますね。


必要があればワイバーンの宿に泊っていますので・・・それでは失礼します。」


と言いつつ店を後にした。


ちょうどその頃連絡を受けた兵士が駆けつけるところだった。


すると先頭の兵士が店から出てきた俺に


「お前、話があるそこを動くな!いいな。」


と言いつつ部下に見張りを命じ店内に走り込んでいった。



仕事熱心でいい感じだけど関係者を足止めするには少し時間が遅いよね。ほとんどの客は帰っているからね。


と思いつつも黙って立っていたら先程の兵士が慌てて飛び出してきて。


「知らぬとはいえ失礼した。どうぞお帰りください。」


と土下座せぬばかりの姿勢で謝ると解放してくれたので、そのままその場を後にして洋装店に行くと。ちょうど買い物が終了していたところだった。


スクナ達を伴い宿に帰ると宿の者から伝言を渡された。内容は


 ・不動産のシャナです、いい物件が見つかりました連絡を待つ


 ・冒険者ギルドのカレンです、素材の持ち込みをお願いします


の二つの伝言だった。



スクナに

「物件を見にいって来る、遅くなったら先に食事をするように。」


と言いつけて宿を出る。


不動産屋に向かうと、丁度担当者のシャナさんに出会ったのでそのまま物件を見にいった。


そこは領主の屋敷からほど近い場所にある豪邸で、中を見るとなかなかいい感じだったので是非購入したいと伝えると。


「ありがとうございます。


 ただ場所的に領主様の許可が必要な地区になるので、一度私と共に領主様に面会する必要があると思います。大丈夫ですか?」


と申し訳ないような顔で尋ねるシャナさんに


「大丈夫です、ダメな時は諦めますから。」


と答えて別れた。


その後その足でギルドに向かう。


受付に向かうとカレン嬢がめざとくみつけ、対応のためカウンターから出て挨拶をする。それを見ていた冒険者の多くが剣呑な目で俺を見る。



「お待ちしてましたシルバー様。


 解体の者が余裕ができたので素材の買い取りをしたいと申しておりました。


 そこで何を出してもらえるかわかると助かるという話があって、・・・こっちの勝手な話なのですがよろしいですか?」


と遠慮がちに言うのを制して


「そうですね。こちらはいつでもいいしここで無くてもいいのですが、もし必要とする素材が有れば優先的に卸すことも構いません。


 どこで話をすればいいですか?」


と言うとパッと明るい顔になったカレン嬢が、


「しばらくお待ちください。部屋を準備します。」と言いながら離れていった。



手持ちぶたさの俺は周りを見ながら食堂方向に歩いて行きメニューを見ていた。


当然と言うべきか3人ほどで飲んでいた冒険者の横を通過する際、1人の男が俺の前に足を投げ出し。


「ここはタダじゃ通れねえぜ。」


と絡み出した。他の2人もニヤニヤとしながら俺の持ち物装備を品定めするような視線を送る。


「ん?この足を蹴ればいいのか?」


と言いながら突き出した足を蹴り上げると、回転しながら天井まで上がり頭から落ちてきた。


それを見た残りの2人が怒鳴りながら席を立ち、手にした剣で切りつけてきた。


「きゃー」


食堂店員の声


「なんだ」


その他大勢の声、そして当事者の男らの声


「なんで切れねんだ。」


「わかんねよ。」


俺は声を大にして


「冒険者ギルドと言うところは突然剣で斬りかかっていいとこなのか?


それなら今から俺がこいつらを殺しても大丈夫なのかな?」


と言いつつアホみたいな顔で固まる2人の頬を平手で払うと、テーブルなどを巻き込んで飛んでいった。



その騒ぎを聞きつけたギルド職員と他の冒険者が


「あいつやべーぞ。」


「今のCランクの戦場の手だろ?」


「ギルド内は喧嘩ご法度です。」


と騒ぎ出した。





そこにカレン嬢の声が


「シルバー様申し訳ありません。


 冒険者の中には見た目で相手を舐める者が少なからずいますので、どうか私の顔に免じて許してください。」


と頭を下げた。大したことはないので


「ええいいですよ。こちらもハエを払ったようなものですから。」


と答え準備された部屋に向かった。



「これがこちらの緊急に必要としている素材です。


 もしこれらをお持ちであれば割増で買い取らせてもらいます。


 また可能なら討伐依頼を出しますがどうですか?」


と一枚の紙を俺に見せた。紙を手に取り書かれている魔物を確認すると、ほとんど持っているものばかりだった。


そこで


「一応ほとんどの素材を持っているが、量や緊急性は?


そして誰が必要としているのか聞いていいかな。」


と言うと


「はい。普通は依頼者の情報は誰にでも公開しておりませんが。


 シルバー様が提供されると言うことであれば、情報を公開しますどの素材をお持ちですか?」


とカレン嬢は色のついたペンを持ち真剣に聞く姿勢を見せた。


「いいですか。これとこれとこれそれぞれ1体以上ありますね。」


と指差しながら教えると


「これも」「え!本当ですか」「そんなに」

と感嘆の声が続く。


そして俺が


「それでどなたの依頼ですか?全て同じとも思えませんが。」


と言うと俺の目を見ながら


「ここだけのお話です。辺境伯様の家族の方が原因不明の病気で、その特効薬を作るのに今までやっていない魔物素材で薬を作ろうとしているそうなので。」


と内訳を話してくれたそこで


「そうですかところでその薬を作っていると言うのは・・・?」


この前暴漢が暴れた薬師の店の話をすると


「そこです、カリン様の店です。この前辺境伯様が襲われたと聞いています。」


の情報に。あの時の男性は辺境伯様かそれなら、家の件と合わせてちょうど良いかもしれないな。


と思いつつ


「カレンさん直接取引きしてもいいですかね?」


と尋ねると


「ええ紹介者でもいれば大丈夫ですが、どなたかいますか?」


と当然の疑問


「多分大丈夫だと思います。ダメな時はまた相談しますね。」


と答えてギルドを後にした。




ーー 少し時間を遡って カリンの魔道具・薬師の店 にて




「ふーっ。」


思わず息が止まっていた、こんな思いは何年ぶりだろう。


カリンはそう思いながら辺境伯であるスイフト=G=ローカル辺境伯に。


「大丈だった?こいつら隣国の暗殺隊のはずよ。」


と言いながら縛られた3人の男らを見て言った。


「多分そうだろ、今回は危なかった。


 あの男がいなければこの店ごと吹き飛んでいたかもしれない。」


という辺境伯にカリンが


「え!こいつらは武器以外何も持っていないけど?」


と3人を見ながら言うと辺境伯は


「もう1人いてな、そいつが強力な魔道具で自爆を図ったんだよ。


 それをあの男がなんらかの魔法で、男だけが吹き飛んで済むようにして。


 さらにその遺体も回収していったから、何もここには残っていないのさ。」


と答えるのを聞いてカリンは。


「貴方あの男を知っているの?かなりの化け物よ彼。」


と言う問いに


「初めて会ったが名前を聞いて思い出したんだ。


 ギルマスのゴードンが今度冒険者登録した16歳の男にボコボコにされたと。


 そしてレベルが70あるバケモンだって。」


そう言う辺境伯の話にカリンは


「レベル70!それは・・・勇者なの?」


その呟きに応えるものはここには居なかった。



 そして思い出したように辺境伯がカリンに


「その続きがあってワイバーンを沢山狩って持ってきたそうだ、他にも貴重な素材を持っているらしい。


 なんでもあの魔の森を横切ってきたそうだから。」


と言う話にカリンも言葉がなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る