第56話 呪いの起源②
「エリス、来たぞ」
戻ってきたエリセを撫でていたエリスが顔を上げる。
相変わらず目を隠しているが、音でだいたいの方向は分かるのだろう。
「おかえりなさい。どうでした? <<排絶の黒百合>>は」
「とりあえずたくさんあった方がいいと思って、10本くらい持って帰ってきたぞ」
「え……そ、それは……」
その数だけ<<レムナントウルフ>>を殺したのか、という困惑だろう。
エリスの顔が少しだけこわばる。
「心配すんな。シロ……じゃなかった、野生の<<レムナントウルフ>>と仲良くなってな、<<排絶の黒百合>>がたくさん生えてる場所に案内してもらったんだ」
「そ、そうなのですか……? あれはどこにでも自生する花ではないので、わたしはてっきり……」
「もしそんなことしてたら、さっきエリセに殺されてるよ」
「……エリセ?」
何かを尋ねるようにエリスが名前を呼ぶ。
エリセはエリセで差し出された手のひらに鼻を擦りつけ、それから俺の顔にしたように軽くひと舐めする。
あれにどんな意味があるのかは分からないが、もしかしたら二人なりのコミュニケーションの取り方なのかもしれない。
「……そうですか。ありがとう」
「エリセの言葉が分かるのか?」
「いいえ。ですが、エリセが今どんな気持ちなのか……くらいはだいたい分かるつもりです」
エリスはエリセの頭を優しく撫でてから手袋をはめ直す。
すると、エリセが彼女の足元で伏せの体勢を取った。
「で、エリセはなんだって?」
「ふふっ、どうやらレイさんのことを認めたようですよ。今まで会ってきた誰とも違う、そんな人だと」
「今日は武器を装備したまま近づいてるのに怒らないのはそういうこと?」
「そうでしょうね。あなたは大丈夫だと、そう感じているのでしょう」
まあ、今日に関してはあいつの方から近づいてきたわけだからな。
体当たりくらって押し倒されはしたが、別に本気の攻撃じゃなかったし。
「って……HP減ってんじゃねぇか」
敵意が無かったので油断していたが、ふと左上を見てみれば4割くらい飛ばされていた。
絶対そんな威力じゃなかっただろ……あれ。
念のためポーションを飲んで回復しながら、ついでにインベントリから<<排絶の黒百合>>を取り出してエリスに渡す。
「ありがとうございます。こんなにたくさん……これならまた薬を作ることができそうです」
「必要になったらいつでも言ってくれ。あいつらにとっても必要な花っぽいから、採りすぎない程度ならまた持ってくるよ」
「そうですか、それは助かります。あ、今お礼をお渡ししますね」
<<クエストクリア>>
「盲目の聖女、盲目の烙印」
<<アイテム獲得>>
聖礼のコイン
<<聖礼のコイン>>
カサディス教会に寄与したものに与えられるコイン。
等級は低いがこれ自体が聖遺物であり、
身に着けるだけで所有者を弱い毒や呪いから守ってくれる。
そう言ってエリスから手渡されたのは一枚のコイン。
なるほど、状態異常避けの装飾品がもらえるわけか。
と言っても、フレーバーテキストにもある通り“弱い”ものに限定されるくらいだ。
きっとそんなに有用なものではないのだろう。
ユニークアイテムというわけでもないし、ターゲット機能を失う呪いを背負った対価がこれでは割に合わない。
「……ちなみにそれ、カサディス教会絡みのほとんどのクエストでもらえるやつよ」
「わーお……」
コヨリの耳打ちに思わず心の内の外国人が出てきてしまう。
いやまあ、「カサディス教会に寄与したものに与えられるコイン」って書いてあるしな。
これが欲しけりゃ別のクエストをやればいいんだから、そりゃあ誰もやりたがらないわけだ。
だが、今回の俺はここで終わりじゃない。
「エリス、悪いが手を出してもらっていいか? ちょっと触ってみてもらいたいものがあるんだ」
「ええ、構いませんよ。なんでしょう」
手袋を外し両手を差し出してくるエリスに、ちょっと古いものだから気をつけて、と告げてから<<朽ち果てた宝石箱>>をその手に乗せる。
それを受け取ったエリスは、その形を確かめるように箱の表面に指を滑らせ、やがてはっと息を飲んだ。
「あの……これをどちらで?」
「レスティナ大森林の奥地、<<レムナントウルフ>>の住処の洞窟で見つけたんだ」
「……いったい、なぜ」
この反応は何かを知っている。
さて、どう尋ねたものか。
「ちなみに、その箱に入ってたものもあるんだが……」
「え?」
エリスからいったん<<朽ち果てた宝石箱>>を預かり、続けて<<懺悔の霊雫>>をその手に乗せる。
「これが……中に?」
「ああ」
「……なぜこれが箱の中に入れられていたのかは分かりませんが、レイさんのご想像通り、どちらもカサディス教会由縁のものです」
やっぱりか。
「“エリセ”と同じ<<レムナントウルフ>>の住処に、教会のものと思われるアイテムがある……無関係じゃないと思って持ってきたんだが……」
「ええ、わたしも……そう思います」
「じゃあ、これはやっぱり……」
「そうですね。きっと――」
沈んでいく声のトーン。
俯くエリスが目隠しをされた瞳で見つめていたのは、透き通るほどに白くか細い、自らの両手だった。
「きっと、“呪い”に関係するものなのでしょうね」
<<クエスト開始>>
「盲目と、排絶と、呪いと」
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