第44話 盲目の聖女②

「ターゲット機能を使ってないって……それじゃあ今までの戦闘も全部?」

「もちろん。手元が勝手に動くと感覚狂うだろ?」

「理屈ではそうだけど……」


 コヨリの困惑ももっともだ。

 理屈ではそう、全てはその一言に尽きる。


「まあ、これに関しては昔……俺がRainなんて呼ばれ始める前に死ぬほどやってたゲームの影響が大きいな」

「Rain様が生まれる前の話……私、聞きたいです」


 ずい、と顔を近づけてきたシアを押し返す。

 生まれる前の話ってなんだ。

 ……いや、言いたいことは何となく分かるが。


「『Survivor's Destruction』ってVRシューティングアクションゲームがあってな。ロボットに乗り込んで、自分で実際に操縦して戦う3on3の対人ゲーだったんだが――」


 自分がロボットになるのではなく、VRの肉体を動かしてロボットを操縦するというが発生するかなり強気の設定のゲームだ。

 今にして思えば、廃れて久しい物理コントローラーで操作するタイプのゲームなので、VRネイティブ世代とそれ以前の人々とで格差が発生しない、ある意味全員が公平なゲームだった。

 そのおかげかプレイ世代も幅広く、今も公式で世界大会が開かれるくらいの盛況ぶりで、優勝賞金もかなりの額が出ていた気がする。


「武器や機体の性能も、それを操るプレイヤーの操作技術もインフレが進んだ結果、だんだんとロックオン機能が邪魔になったんだ。自分も敵も高速で動いてるわけだから、ロックした敵に向けて弾を撃っても絶対に当たらないだろ?」


 ミサイルだけでなくビームや実弾にも誘導があったが、高機動戦闘中に当たるほどの性能じゃない。


「そこでトッププレイヤーたちはこぞってロックオン機能をオフにしたんだ。それでどうなるかというと、武器を持つ腕の可動域に収まるよう機体の向きを調整する必要はあるが、飛び回る敵機の進行方向に弾をことができるようになった。いわゆる偏差撃ちってやつだな」


 偏差撃ち自体は地に足ついたFPSの隆盛時代からあったものだが、三次元的に高速で動き回る相手を捉えるのは至難の業だ。


「結果、誘導兵器で動かしてノーロック偏差で撃ち取る――それを躱すために変態機動をキャラコンだけで強引に実現する――そんな変態機動に弾を躱しながら追従して格闘で落とす――みたいな環境になって、人類には早すぎるゲームとか言われてた」

「……めちゃくちゃね」

「ってなゲームに慣れちゃったもんだから、それ以降やったゲームではターゲット機能を外してるんだ。なんか違和感すごくて」

「なるほど……そんな過酷な環境にいたからこそ、今のレイさんの強さがあるんですね」

「そうかもな。……まあ、別に俺あのゲーム強かったわけじゃないんだけど」


 きょとん、とした表情を浮かべるシア。


「確かに反射速度とか思考力とかは鍛えられたかもしれない……でも、それだけで勝てるほど甘いゲームじゃなかったんだよ。勝率だってせいぜい7割が限界だった。そんなんじゃ、世界大会どころか国内大会すら抜けられない」

「……シアと合流する前、他のゲームで一番になりたいけど無理だって思い知った、って話してくれたわよね。それって……」

「ああ、『SD』のことだな。ずっとサイス系の武器を使ってたんだが、大会にも勝てなきゃその武器でのトッププレイヤーにもなれなかった」


 そんなことがあり、ゲームが変わってもなお鎌なり大鎌なりを使い続けているんだから、我ながら未練がましいとは思う。

 いろんな武器を使いつつも、最後はやっぱり大鎌で、なんて考えてしまうのは俺の悪いクセだ。


「……話がだいぶ脱線しちまったが、俺がターゲット機能を使わない理由はそんな感じ。だから、使えなくなったところで問題はない」


 はぁ……と呆れたように嘆息しながらコヨリが髪先をいじる。


「……後悔しない?」

「ああ、しない。もしここでやらないで、後からやっぱりユニーククエストに繋がってました、って知ったらそっちの方が後悔するから」

「ええ、レイさんはそうですよね」

「……まったく、分かった。分かったわよ、もう……」


 私は知ってましたよ、という顔で微笑みかけてくるシアと、呆れてそっぽを向くコヨリ。

 別に二人の許可が必要なことでも……ああ、いや――


「……そっか。俺ギルドマスターだから、こういうのちゃんと許可取らないとなのか」

「え? そんなの当たり前でしょう、何言ってるのよ」

「うん、そうだよな……悪い。こうしてちゃんとギルドやるの初めてだから、ソロの感覚が抜けてなくて……」

「……そうね。そこは私も気をつける」


 今までは気楽に自分の好きなことだけやっていればよかったが、今はそうもいかない。

 アルケーを始めた当初はそういう状況を避けなければ……と思っていたものの、なってしまったからにはルールに従おう。

 というか、きちんと説明すれば大抵のことは分かってくれるからだろうから、この二人なら大丈夫だ。


「私はレイさんの判断に従いますので、どうぞお心のままに」


 ……まあ、その1人のシアはこの調子だし。


「それじゃあ明日は狼……じゃなかった、聖女を探しましょうか。念のため、クエストを起こすならパーティを外した状態で」

「了解。手分けして探して、見つけたら連絡してくれ」

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