第38話 レベル上げ②
「いやいや、コヨリの腕ならそんなことは……って、あ……そうか」
「私のバフの効果時間は300秒、それが切れたらクールタイムが300秒。5分戦って5分休憩なんて、狩りの効率としては論外よ」
コヨリの職業【エンハンサー】は本来サポート職。
バフも無く味方の援護も無ければいくら腕があってもいずれ限界が来るだろう。
かといって適正レベルを落とした狩り場にいっても、既にある程度高レベルのコヨリでは数時間狩って経験値ゲージの増加が1パーセント程度なんてこともあるかもしれない。
そう考えると、よく87まで上げたなと感心する。
「今までは多少危険を冒してでも狩りができたけど、さすがにこの状況じゃやる気は起きないわね」
「ああ、その方がいい。俺が一緒に狩れるようになるまで待っててくれ」
「ん。そうする」
ふわりと微笑んだコヨリが立ち上がってジャケットの裾についた土を払う。
「そういえば今日でレベルが30を超えてたわよね。職業はどうするか考えた?」
アルケーオンラインではレベル30以上で一次職、70以上で二次職が解放される。
一次職はレベルアップによって上昇するステータスの補正や、取得できるスキル、スキルの成長の方向性を決める重要な要素。
途中でジョブチェンジすることもできるが、上昇したステータスは元に戻せないため、物理職からいきなり魔法職にジョブチェンジすると実質キャラクターが使い物にならなくなる点に注意だ。
「まあ、魔法職は確定で選ばないとして、プレイスタイル的にシアと同じ【ヴァリアブル】が現状では第一候補かな」
「……アルケーオンラインの【ヴァリアブル】の評価、聞いておく?」
「あー……いや、いい。だいたい予想できる」
【ヴァリアブル】――装備可能な武器が全職業中最多(というか装備不可が存在しない)というのが大きな特徴。
全てのステータスが幅広く伸び、武器の装備条件や最大性能を発揮するための要求ステータスを満たしやすい。
……それだけ聞くと汎用性が高く強そうに感じるが、こういったMMORPGにおける汎用性とはつまり器用貧乏を意味する。
俺がRainだった頃もそんな感じの職業を使っていたが、プレイヤーの職業分布では断トツの最下位。
幾人ものガチ勢たちが長い時間とゲーム内資産をつぎ込み検証に検証を重ねたが、その結果は『一般的な職業の期待値を超えるには、理論値を出し続けるしかない。人類には早すぎる』という何とも無慈悲な結末だった。
パーティ募集に応募してくるやつがそんな職業だと、苦い顔をされやんわりお断りされるのが常らしい。
「レイにとって、装備できる武器が多いっていうのはそんなに重要なの?」
「んー、まあそうだな」
「……こう言っちゃなんだけど、あなたの腕なら普通に特化ビルドにした方が絶対に強いと思う」
特化ビルド。
要は一つの武器のポテンシャルを最大限発揮できるように、ステータス、スキル、装備等の構成を整える一芸に尖らせた型だ。
長刀と短刀の二刀流を主軸に戦うコヨリがそう……というか、ほとんどのプレイヤーは何かしらの特化ビルドにしているだろう。
何本も武器や装備を持ち歩いて、戦闘中にガチャガチャ忙しなく持ち変えて……なんてやってる俺とシアが異端も異端。
やってることや見た目だけはかっこいいが、正直なところMMOでは歓迎されないビルドである。
「そうなんだけど……俺は多分、これっていう分野の一番にはなれないから、今のままでいいんだ」
「一番?」
「この武器を使わせたらあいつが一番、って言われたいじゃん。ゲーマーとして当然だろ? でも、俺には無理なんだって……昔別のゲームで思い知ったから」
本当に悔しいし、その事実を認めたくもないが、上には上がいる。
だけど、いろんな武器を複数使いこなして戦うなら話は別だ。
要所要所で正しい選択をし続け、その一瞬一瞬で対面に有利を取り続ければ、決して特定の分野のトッププレイヤーにはなれない俺でも頂に手が届く。
こういう言い方は自惚れかもしれないが、それが俺の才能だ。
「そ。そういえば、根っからのゲーマーだったわね、あなた」
「やるからには自分が一番だってことを証明したいからな。一番になろうとする方法はそりゃ他人とは違うかもしれないけど、それが一番に続いてるなら俺はその邪道を選び続けるよ」
「……ふふ」
くすりと笑ったコヨリがこちらに手を伸ばす。
辺りは暗くなり始め、もうじき夜が来る。
コヨリがいるとはいえ俺にとってここは油断すれば一撃で死にかねないフィールド。
さっさと街に戻るに限る。
伸ばされた手を握って立ち上がり、大きく体を伸ばした。
「さて、それじゃあ帰るとしますかね」
「ご飯、何にする?」
「うーん、とりあえずシアに戻ってくるか聞いて、それから店選びだな」
「分かったわ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます