第34話 VSゲオルグ②
刻一刻と余裕を無くしていくゲオルグ。
対する俺は戦闘が長引くほど体が軽くなり、思い通りに手足が動き武器を自在に操れるようになっていく。
今がどのくらいステータス上昇した状態なのかは分からないが、少なくともプレイスキルを合わせてゲオルグ程度の相手なら圧倒できるだけの力はある。
パッシブスキル【加速する戦意】――対人戦限定であることと、視界が遮られるというデメリットはあるものの、ユニークアイテムの恩恵に相応しい性能だ。
そして、昔はずっとこの状態で戦っていたのだから、俺にとっては視界不良というのも関係ない。
「俺はてっきり、あんたは最後までロールプレイを貫くやつだと思ってたんだがな」
「なっ、なんだと……!?」
「別に貶してはいねぇよ。安心してんだ、あんたも人並みに命が惜しいようで」
ギリ、とゲオルグの奥歯が鳴る。
こんなはずじゃなかったのに、そんな感情が苦悶の表情から見て取れた。
「……っ」
そして、その震える手がそっと背中に伸びていくのを見て――
「ギャッ!」
つかつかと歩いていき、取り出したものを大鎌で払い落とす。
パリン、という甲高い音がしてポーションのような瓶が砕け、中身の液体がレンガ道に広がっていく。
「あぁ、あああっ……!」
「PvPモードじゃねぇんだからそりゃ使えるよな。ま、使わせねぇけど」
追い詰められたプレイヤーが隙を見てHPポーションに手を伸ばす瞬間なんて、これまでに飽きるほど見てきた。
急いで取り出してグイっといきゃ飲めるかもしれないのに、なんで全員が全員こそこそバレないようにやろうとするかね。
これでポーションは使ったが飲むことには失敗した、という判定になり、クールタイムが発生する。
しばらく自前での回復はできなくなったわけだ。
「さて、向こうの方は……って、そりゃ心配いらねぇわな」
背後に目を向けると、【ジ・オネストオーダー】のメンバーが5人ならんで、武器を置き両手を上げて降伏している。
コヨリとシアは無傷で、物足りなさそうな様子でこちらの戦闘を観戦していた。
「っと」
背後からの刺突を短く持った大鎌の柄で弾いて流す。
そのままくるくると回転をかけ、遠心力を乗せたスイングでゲオルグの肩口を一薙ぎ。
首のようにDOTは発生しないがクリティカル部位への有効打だ。
もうそろそろいいだろう。
ステータスに補正がかかり続けている今、これ以上の攻撃は本当に殺してしまう。
「終わりだよ、ゲオルグ。あんたの負けだ」
「そ、そんなはずはない……! 正義は……秩序は私にあるはずだっ! 貴様らのような一般プレイヤーはな! 私の前に
「……あのさぁ」
大鎌を回しながら頭上に放り投げ、それに釣られ上を向くゲオルグの鳩尾に後ろ回し蹴りを叩き込む。
上昇したSTR値ならそこそこの衝撃があっただろう。
ダメージは無いが、ゲオルグは体をくの字に追って地面に膝をついた。
「あんたもその一般プレイヤーの一人だろ。どんなギルドに所属してようが関係ねぇよ」
「違う! 我が【ジ・オネストオーダー】は……この新たな世界の秩序となるギルドだ! 私はその五番隊の隊長で、貴様らとは格が――」
その眼前に力いっぱい大鎌を振り下ろす。
轟音と共にレンガ道が抉れ、そこにちょっとした大穴が開いた。
「だったら続けよう。もう俺たちに手出しする気が起きなくなるまで、何度でも、何度でも」
「ひっ……!」
「この仮面と蒼炎を目に焼きつけておけ。二度と見たくなくなるように、恐怖を刻んでやる」
突き刺さった大鎌を引き抜き肩に担ぐ。
ゲオルグの方はもう完全に恐怖に飲まれているようで、ガチガチと奥歯を鳴らしながらレイピアの先端を彷徨わせている。
俺に突きつけるべきか、それともやめるべきか、考えているのだろう。
これは……もうひと脅し必要かな?
「――そこまでだ、双方武器を収めろ!」
突然響いた通りのいい声に、首だけでそちらを向く。
ゲオルグのものとよく似た濃紺の軍服に、毛先を切り揃えた黒髪のボブカット。
すらりと背筋の伸びた長身の女性が、意志の強そうな赤い瞳で真っ直ぐに俺を見ていた。
「カ、カンナ……様……!」
「ゲオルグか。町中で【ジ・オネストオーダー】のメンバーが他のプレイヤーと争っていると聞いて来てみれば……いったいなんの騒ぎだ、これは」
「わ、私はただ……アルケーオンラインの秩序を乱す者に、正当な法の裁きを与えようと……!」
カンナと呼ばれた少女が膝をつくゲオルグを一瞥してから、だそうだが、と俺に視線を戻す。
状況を見て一方的に決めつけず、とりあえずこちらにも確認を取る――同類かと思えば、こちらは普通に話が通じそうだ。
「……秩序を乱すって意味じゃそうかもしれませんね。現にそこにいるシアは、アルケーがこんなことになる前はPKやってたそうですし」
「ふむ、Rainとかいうプレイヤーではないかと噂されていた人物か。それは私も聞き及んでいる」
「で、それの贖いだとか、裁きだとか言っていきなり襲い掛かってきたんで、俺たちは応戦したまでです」
「……君がゲオルグの相手を?」
「ええ」
それからカンナは訝しげに俺の装備と、そして顔の仮面に目を向ける。
「全身初期装備に、店売りの大鎌に、見たこともない仮面……想定されるレベル差を勘案すると、君は無傷のままゲオルグを下したということか? それも、その狭められた視界の中で」
「まあ、そうなりますね」
判断しかねているのか、カンナは顎に手を当て何かを思案している。
ゲオルグが様をつけて呼んでいたことだし、このまま場を治めてくれると嬉しいが――
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