第5話 最初の街で④
「ちょ、ちょっと待ってくださいって!」
「……なに」
回り込んで進路を塞ぐとようやく反応してくれる。
それからコヨリは煩わしそうに腕を組んで溜息を吐いた。
「こういうPvPって、どこかでリプレイを見られたりしませんか? 他にもいろいろ見てみたくて」
「……あなた、そんなに対人戦に興味があるの? こんな状況で?」
「こんな状況だからですよ。生きていくために、
そう言って笑うと、コヨリは無言で手を伸ばし何かを指さした。
その先に見えるのは街の景観と比べて少し異質な、いわゆるファンタジー世界のゲーム的な建物。
あえて目立つように造られてるのがいかにもゲームって感じだ。
「あそこがギルド関連の施設よ。
なるほど、それは好都合だ。
それだけ言って再びこちらの脇をすり抜けていくコヨリ。
「あ、すみませんもう一つ」
「……まだあるの?」
急いでるんだけど、とでも言いたげな冷めた視線が突き刺さる。
「明日の対戦前に5分だけ時間をもらえませんか? できれば街の外で会えると嬉しいんですけど」
数秒訝しげにこちらを見ていたコヨリだったが、やがて考えることに疲れたのか溜息を吐き、何やら虚空に指を走らせる。
恐らくメニュー画面を操作しているのだろう。
なるほど、他人からは見えないようになっている仕様か。
なんて考えていると、視界の右下に『コヨリさんからフレンド申請が届きました』というポップアップが表示された。
「許可の仕方は分かる?」
「えっと……はい、多分」
ポップアップに触れるとすぐにフレンド画面が表示される。
そのまま許可を押すと、フレンド欄にコヨリという名前が追加された。
この辺の操作が直感的に分かるのは非常にありがたい。
「あ……」
と声を漏らした俺に、コヨリが不思議そうに首を傾げる。
思えばフレンド登録したのなんていつぶりだろうか。
『Rain』をやっていた頃はフレンドなんて必要としていなかったし、ボス討伐の協力依頼を受けて一時的にパーティに入ることはあっても、基本はその場限りの関係で終わらせる。
たった一行の名前ではあるが、そこに誰かがいてくれるのが少しだけ嬉しく、少しだけ誇らしかった。
「アルケーでの初めての友達だ」
だから、思わずそんな言葉が口をついてしまい直後に慌てて口を塞いだ。
また溜息を吐かれるか、冷ややかな目で見られるかを覚悟していたのだが――しかし、コヨリの反応は少しだけ違った。
「……っ」
睨んではいる。
いるのだが、意味合いで言えば羞恥が一番近いだろう。
そのほんのり赤く染まった頬に一瞬鼓動が高鳴った。
「す、すみません! そういうつもりじゃなくて……!」
「……いいわ、別に。始めたばかりなんだから、フレンド登録も初めてに決まってるもの。というか――」
コヨリはそこまで言って言葉を切ると、互いの横顔も見えなくなるところまで歩いて足を止めた。
「これはただの“機能”よ。本当の意味であなたと友達になったつもりはない。そこは勘違いしないで」
そして念を押すようにそう言った。
「分かってますよ。変に連絡して迷惑かけないようにしますから、安心してください」
「それならいい。……明日はこっちから連絡するわ。場所もこっちで選ぶから」
「お願いします。それじゃあまた明日」
そう言ってコヨリと別れた俺は、ひとまず知りたい情報をいろいろと保留にし、まずはギルドの施設を目指し歩みを進めるのだった。
◆ ◆ ◆
翌日、現在19時直前。
どうやら現実世界の時間とゲーム内の時間は同期しているようで、周囲は夜の闇に満たされていた。
そんな中、青白い月明りに照らされ白銀に輝く髪を軽くかき分け、コヨリが静かに息を吐く。
「昨日のフレンド申請と同じように右下にボタンが出るから、それでPvPエリアに入場して」
「分かりました」
眠気で乾燥する目を擦りながら返事をする。
ただ眠いだけじゃなく、ここまで現実の感覚を再現しているなんて。
AIが変態なのか、そのAIを開発した技術者たちが変態なのか――
「どうかした? もしかして寝不足?」
「ああ……いや、ちょっと野暮用で……」
目を開けると、獣じみた青い瞳がこちらの顔を覗き込んでいた。
相変わらずよくできたアバターだ。
プロが調整したと言われても驚かないほど整った顔がすぐ目の前にある。
ふわふわの耳の質感もとんでもない。
「そう、興味ないからいいけど」
コヨリはクールにそう言って一歩離れた。
「私は私の戦いをするだけ。あなたも勝手にするといいわ」
「そうさせてもらいます」
「とは言っても、私の邪魔だけはしないで。念のため
「その方がいいですね。向こうは複数、こっちは一人――乱戦になって同士討ちするリスクがあるのは向こうだけですから」
「……」
おっと、喋りすぎたか。
なんて考えているうちに、視界の右下にPvPに招待されている旨のポップアップが表示される。
「行くわよ、レイ」
短く言ったコヨリに頷き、バトルエリア入場ボタンに触れるのだった。
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