第6話 初めてのPvP①
突然の閃光に思わず目を閉じる。
全身を包むようなほのかな暖かみに気づき、そしてそれが日の光であることに気づくのにさほど時間はかからなかった。
「バトルフィールドは昼なのか……」
「夜にすることもできたけど、向こうには探知スキル持ちがいるから」
「ああ、はい。それは知ってます。昨日もいた緑髪の女性プレイヤーですね」
ようやく目が開くようになってきたが、今度は陽光のせいで目の奥が痛む。
ただ、体に染みついた習慣のおかげか、一日の徹夜くらいならまだまだ問題無く活動できそうだ。
それこそ何度か食事に戻る以外、三日ほどぶっ続けでVRMMOに潜っていた時もあった。
その時に比べれば多少目が乾く程度だ。なんてことはない。
「……あなたもしかして、あれからずっと【カイザーズユニオン】のGvGのリプレイでも見てたの?」
「ふぁあ……ん、まあそれなら見ましたよ。特別強くはない中堅ギルドで、格下には無難に勝って、格上には成す術なく負ける。そんな――」
と、そこまで言ってしばらく思案。
今ここで手の内を晒すことは本当に正しいだろうか。
警戒されて変に距離を取られたら元も子もない。
一応、今の時点では勝とうが負けようが情報を得たいという俺の目的は果たせるだろう。
しかし、ギルドに縛られるのは正直言えば避けたい。
もちろんギルドという集団に身を置いていれば、一人でいるより段違いに情報が入ってくる。
ギルド単位での交流だけでなく、リーダー同士、あるいはメンバー同士で横の繋がりがあったりで、たとえ中堅ギルドであってもその情報網はそれなりのものだ。
ただ、どこまで個人の事情を優先してくれるかはそのギルド次第。
普通なら入って一ヶ月や二ヶ月程度じゃ「妹を探しに行きたい」、なんて勝手は許されないと思った方がいいだろう。
……それに、できればコヨリに勝たせてやりたいところでもあるしな。
「って、俺のことはいいじゃないですか。コヨリさんの方はどうなんです? 何かいい作戦でも?」
「決まってるわ。分断して各個撃破、それ以外無い」
「向こうもそれは分かってると思いますよ。だからこそ、そうされないために――」
策を講じている、という言葉の前にコヨリが飛び出した。
そりゃあそうだ。コヨリにとって俺は空気も同然。
そもそもが極端に他人の力を借りようとしない性格なんだから、何を言ったところで素直に聞き入れるとも思えない。
「っ、あのじゃじゃ馬め……!」
いや、この場合じゃじゃ狼か? などと益体もないことを考えながら、風上に向けて飛び出していったコヨリの背中を追いかける。
風上――ということはもしかして、匂いで敵を察知した?
獣人種ならではの探知スキルといったところだろうか。
「あるいはスキル外の固有能力とか……? 結構便利そうだな……」
とにかく急いでキャラメイクをしたせいで、ほとんどの項目を初期設定のままにしてしまったことを今さらながら後悔した。
「って、もう戦闘始まるじゃねえか!?」
ちょっとした丘を越えると、その先で斥候に来ていたのだろう3人とたった今から交戦しようというコヨリの姿があった。
……なるほど。探知スキル持ちが俺たちのいる方角を示して、稜線を活かせる丘の上を取ろうと足の速い三人を前に出してきたってところか。
戦術的には悪くない。基本的にどんなゲームにおいても高所を取るのは定石だ。
そして、敵の接近を嗅ぎ取ったコヨリはその先の地形を見て即座に反応した……と。
「思ったより心配ないかもな」
と、余裕の表情を浮かべた矢先、事態は目まぐるしいスピードで進展していく。
三人に真正面から突っ込んでいくコヨリは、当然三人に取り囲まれる形で迎え撃たれる。
まずは背後から直剣で斬りかかる軽量戦士の男。
コヨリの肩口から袈裟斬りで真っ二つ……になったように見えたのも一瞬のこと。
斬られたはずのコヨリは黒い影となってかき消え、数秒後にはまるで最初からそこにいたかのように男の背後に立っていた。
「はや――」
と言い終わる前に、男は振り向く間もなく左手の長刀による居合で斬り伏せられる。
それでも多少反応していたのはもちろん前情報をもらっていたからだろうが、正直あれは分かっていても反応するのは難しい。
「【影狼】……回避と攻撃を兼ねるいいスキルだ。初見殺し性能も高い」
なんて感心しているのは俺だけで、戦闘は未だ終わっていない。
残った二人は焦ったような表情を浮かべながらもすぐさま距離を縮め、互いの得意分野を活かせるフォーメーションを取る。
前衛は男、片手剣とラウンドシールドを装備した
後衛は女、腰の短剣と背中のボウガンで状態異常を狙う近中距離対応の
決して楽な相手でないことだけは確かだ。
さて、この布陣はどう崩す?
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