第4話 最初の街で③
「あなた、人の話聞いてた? 私は誰ともパーティを組む気は――」
「そうですけど、一緒に戦うわけじゃないんだし問題はないと思いません? コヨリさんが誰かの力を借りるのを嫌がってるのは何となく分かりましたが、初心者の俺じゃ力を貸すどころか逆に足手まといですよ」
そりゃそうだ、と笑う男たち。
そんな彼らに冷ややかな視線を向けたコヨリが、品定めをするようにこちらを見る。
「あなた……ん、ごめんなさい。あなた名前は?」
「名前? ……あっ、そうか。えっと、レイ――そ、そう! レイって呼んでください」
「レイね。今レベルはいくつ? 見方は……確かメニューからステータス画面を開いて、左上の方」
「4です」
明らかに怪しい――というか、怪しいを通り越してもはや敵と認識されてもおかしくない俺に対し、律儀に操作方法を教えてくれるコヨリ。
とっつきにくい印象はあくまで印象だけで、実はそんなに悪い人じゃないのかもしれない。
「町の周辺で攻撃してこないモンスターで何日か狩りの練習して……って感じね。当たり前だけど戦力にはならないか」
「え? いや、俺は……」
森でゴブリンを何匹か倒して……と言いかけて止めた。
コヨリがここまでソロに固執していることを考えると、他のVRゲーを経験済みで多少動けることを知られればパーティを断られるかもしれない。
「何か言った?」
「ああ、いやいや。概ねそんな感じです」
「……分かった、見学したいなら勝手にすればいいわ。ただ、レイに見せるために配慮はしないし、ついてこられないようならその場に置いていくから、そのつもりで」
「よかった、ありがとうございます」
素直にお礼を告げるとコヨリは鼻を鳴らしてそっぽを向く。
いやいや、そこは普通恨み節なり皮肉なりを言って俺を睨みつけるところだろう。
やっぱりこの人、もしかして相当――
「よし、決まりだな。俺はネロ。お前が入ることになるギルド【カイザーズユニオン】のギルドマスターだ」
「よろしくお願いします。でも、俺が入るかどうかはまだ分かりませんよ?」
「あ? お前さっき前向きに考えとくって言ってなかったか?」
「言いましたけど……ほら、それはコヨリさんがギルドに入った後でって話でしたよね?」
ネロは一瞬きょとんとした表情を浮かべ、直後に吹き出し手を叩いて大笑いした。
「ははははっ! バカお前、言葉通りに取るやつがあるか! こいつが負けんのは最初から決まってんだから、お前も入れるギルドが見つかったって今から喜んどきゃいいんだよ」
「ああ、そうですね。じゃあその時は改めてよろしくお願いします」
おう、と気をよくしたようなネロがコヨリに向き直る。
「それじゃコヨリ、対戦は明日の19時でどうだ? せめてもの情けでPvPモードのルールはお前に選ばせてやる」
「……ルールはリーダーエリミネート、フィールドは自然、時間は無制限」
「ま、順当だな。お前は圧倒的に数で不利だから、リーダーを倒せば勝ちのルールにせざるを得ない。時間も無制限にしないと残り人数で判定負けしちまうからな」
「……」
「そう睨むなよ。何が起きてるか分かった方が初心者くんも楽しめていいだろ?」
説明されなくても単語からの連想でそれくらいは分かる。
そして、そんなルールにする意図も相手側には筒抜けというわけだ。
数的有利を活かす作戦できて、なおかつリーダーとなるだろうこの男は最後の最後まで出てこないと思った方がいい。
なんだかんだお互い知らない仲でもないようだし、仮に数人倒されたとしてもスキルのクールタイムを見計らって後詰で取る、なんて正攻法で来られるだけで実質詰みだ。
後は、果たしてコヨリがどこまでやれるかだが――
「おーい、レイくーん? 生きてるー?」
「え、あ、はい? すみません、ぼーっとしちゃって」
ネロが目の前でひらひらと手を振っていた。
考えに集中しすぎて全く見えていなかったようだ。
「まあ、ゲームがこんなことになって不安になるのは分かるよ。だからこそこれからは協力しあっていかねえとって話だ」
「そうですね。死んだら終わり、なんてシャレにもなってませんから」
「だな。それじゃ、また明日会おうぜ。バトルが終わったら、お前は晴れて【カイザーズユニオン】の一員だ」
探りを入れるように言った、死んだら終わり、という言葉に肯定があった。
やはりこの世界での死は本当の意味の死でもあるらしい。
そして、現実世界の人間にAIからのメッセージがあったように、彼らもまた何らかの方法でそれを聞かされているようだ。
とりあえず、そっちは追々聞き出していくとして。
「あの、コヨリさん」
解散していく【カイザーズユニオン】の面々とは逆方向に歩き出していたコヨリに声をかける。
聞こえなかったのか、あるいは面倒に思って無視をしているのか。コヨリはすたすたと足早に歩き去ろうとしていた。
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