第2話 最初の街で①
「ギギッ!!」
横薙ぎに振るわれたこん棒を直剣で受ける。
しかし、踏ん張りが効かずガードごと吹き飛ばされてしまった。
「っと……なるほど。ダメージは無いがガードブレイクされた状態か。今は1対1だから問題無いけど、複数体を相手にしてる時は追撃に気をつけないとな」
言いながらアイテムインベントリを開き、装備を直剣から先ほど拾ったこん棒に切り替える。
「今度はこっちの番だ!」
こん棒を両手で握り、バットを振る要領でゴブリンめがけてスイングする。
「ギッ!」
「っ」
まるで壁にでも阻まれたかのようにこん棒がぴたりと止まる。
吹き飛ばされた俺とは違い、ゴブリンはこちらの攻撃を余裕の表情で受け止めていた。
それどころか、そのままこん棒を振り払われ体勢を崩されかける。
すぐに武器から手を離した俺は後方へ飛びのき、敵の攻撃範囲から離れた。
「ガード成功、からの崩し……そういうスキルかSTR値参照の判定負け、ってところか? ゲーム特有のステータス勝負に現実っぽい物理演算の適用……この辺はよくあるVRMMOだな」
再びインベントリを開き直剣を装備。
さっき投げ捨てたからか、こん棒は既にそこから消えていた。
「さて、最後にどこまで本人の技術が反映されるかだが……」
「ギギギーッ!!!」
めちゃくちゃにこん棒を振り回しながらゴブリンが迫ってくる。
さっきと同様に受けの構えを取りながら機を窺う。
「ギャギャッ!」
初撃、体を翻し回避成功。
もちろんそれを補助するスキルはあるだろうが、回避すること自体にスキルを使う必要はないことが判明。
まあ、今時はそんな不便なゲームの方が少ないか。
「ギャッギャッ!!!」
二撃目、直剣で受ける。
しかし今度は力で押さず、受けた箇所を軸にして攻撃を受け流す。
「ギッ!?」
成功。
先ほどと違いガードは崩されず、逆に攻撃側のゴブリンがこん棒の勢いに振り回される形で足をもつれさせた。
受け止めるか、受け流すか――そこはステータスや自身の技術次第で、全てプレイヤーの裁量に委ねられているというわけだ。
「おもしれえじゃねえか、アルケーオンライン!」
久しぶりの戦闘、久しぶりの感覚にゲーマーの血が騒ぐ。
気づけば上がっていた口角を慌てて元に戻そうと不自然な真顔を浮かべながら、よろめくゴブリンの首元に直剣を振り下ろした。
<<レベルアップ>>
3→4
<<スキル習得>>
クロススイッチ
「ん? スキル習得?」
メニュー画面からスキル一覧を開いて確認する。
・クロススイッチ
スキルのモーション中以外に発動可能。
現在装備している武器と設定した武器とを瞬時に入れ替える。
もう一度発動すると最初に装備していた武器に戻る。
連続発動はできない。
「武器の入れ替えスキル……って、最初に覚えるのがこれ?」
スキル画面を隅から隅まで見てみるが、よくあるスキルポイントを使って習得したりスキルレベルを上げたりというシステムではないようだ。
となると、プレイスタイルに応じて自動で習得するタイプか?
「そういえば仕様を確認するために武器の持ち変え多用したな……」
確かに、いちいちインベントリを開いて装備を変える手間が無くなる便利なスキルではあるが、どうせなら使いやすい攻撃スキルが欲しかったところだ。
まあ、この先直剣を使い続けるとも限らないのに直剣スキルを覚えても仕方なかったから、汎用的に使えるスキルでよかったと思っておこう。
さっそく新しく拾ったこん棒を入れ替え先に設定し、試しに発動してみる。
「っとと」
スキルを発動した瞬間直剣が消え、すぐにこん棒が手の中に現れる。
持ち変え自体はスムーズに行えたが、そもそも武器の重さが違うせいか体勢を崩してしまった。
「重い武器に持ち変える時はしっかり慣れておかないとな。本番でよろけたらシャレにならねえ……」
後は、連続発動はできないらしいからそのクールタイムがどのくらいなのかとか、武器を手に持っていなくても発動できるのかとか、仮に発動可能ならどの程度離れて大丈夫なのかとか、検証したいことは山ほどあるが――
「……うん、やめておこう。そんなことしてたらあっという間に一日経っちまう」
騒ぐゲーマーの血を抑えつつ、この辺で狩りを切り上げて近くの町に向かうのだった。
◆ ◆ ◆
というわけでやってきたセントタウン。
ファンタジー世界といえば、という感じの、石畳とレンガ造りの家が基本のそこそこ大きな街だ。
初期スポーン位置から近いということで、恐らくはほとんどのプレイヤーが最初に立ち寄ると想定さているはず。
チュートリアル的なものがあるなら片っ端から覗いていきたいところだ。
「さて」
きょろきょろと辺りを見回してみると、マップを片手に歩いている初心者っぽいプレイヤーをちらほら見かける。
そして、一般的なMMOであれば、こういう最初の街には初心者支援ギルドなんかが常駐しているはずなんだが――
「……」
メニュー内の暗転したログアウトボタンを睨みながら溜め息を吐く。
こんな非現実的な状況で、果たしてゲームとしての当たり前が機能しているかどうか。
自分たちのことで精一杯で、初心者を助けている余裕は無いと言われても何ら不思議はない。
「だから、そのつもりは無いって言ってるでしょ……!」
俺が何かで揉める声を聞いたのは、そんな時だった。
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