第16話 愛嬌のある後輩をじっと観察してみる④
―― キーンコーンカーンコーン……
そんな話をしていたら、授業の開始前を知らせるチャイムが鳴った。
「あ、やばい……もうすぐ授業始まっちゃうじゃん。 ごめんな、体育の後なのに時間取っちゃってさ」
「い、いえ、大丈夫です! こちらこそこんな長く話しちゃってすいません」
この逆転世界で“都合の良い男”になると決めたからには、色々な情報を集めていかないといけないのだけど、この日笠との会話にはそれを叶えるために、とても参考になる情報だった。
それに今日は日笠の健康的でエチな足にも救われたわけだし……何だか日笠には感謝する事ばかりだな。
(うん、日笠には色々とお礼をしなきゃいけない……って、あっ忘れてた!)
俺は日笠との話に夢中になりすぎて、当初の目的をすっかりと忘れてしまっていた。
「……すまん、日笠。 飲み物奢るって言ったのにもう時間ないよな……」
「えっ? あ、いえ全然大丈夫です! そんなの気にしないで大丈夫ですから!」
日笠に飲み物奢ってあげるって言ったのに、俺が日笠に聞きたい事を色々と聞いてしまったせいで、日笠に奢る時間が無くなってしまった。 これは先輩としてだいぶ情けないよな。
「んー、でもなぁ……あっ」
「え?」
俺は申し訳ない気持ちになっていると……そういえば昨日のとある出来事を思い出した。
(日笠って俺の事を多少は意識してくれてるんだよな? んで昨日キャンディあげた時って……)
そう、日笠は割とわかりやすく俺の事を意識してくれてる。 流石の童貞な俺でもわかりやすいくらいに意識している(大事な事なので二回言いました)
「……じゃあ、これあげよっか?」
「え……って、え!? 先輩でもそれって!」
という事で俺は飲みかけの紙パックのコーヒー牛乳を日笠に差し出してみた。 日笠との話に夢中になってたおかげで、中身は半分以上も残っている。
「えっ、ちょ、せ、先輩!」
「飲みかけで悪いけどそれでも良ければ……あ、日笠はコーヒーは苦手か?」
「い、いえ! そ、そんなの全然もうコーヒ世界で一番大好きでしゅけど!」
日笠は顔を真っ赤にしながら色々とテンパりだした。 あと最後に噛んでしまって語尾が可愛くなってるのが普通に可愛かった。
「ん、それなら良かった。 じゃあ、はいこれ」
「えっ!? あっ、え、えっと……あっ」
時間も押してるから俺は紙パックのコーヒー牛乳を日笠の手の前に近づけた。 もしかしたら受け取るの躊躇うかな……? って思ったんだけど、日笠はテンパりながらもしっかりと受け取った。
これは昨日の件があったおかげで、俺からのエチな餌付けを素直に受け取るようになってくれてるのかな? もしそうなら、ちゃんと(エチ方面に)成長してくれてるようで嬉しい限りだ。
(これなら日笠の“都合の良い男子先輩”になってあげられる日も近いんじゃないかな?)
「あ、え、っと、そ、その、あ、ありがとうございま……」
「いや、でもこんな飲みかけで悪いけどな。 口も付けちゃってるしさ」
「い、いやいや全然ですよ! と、というかもう逆にありがとうございますって感じで、」
「ん、逆にって何が?」
「えっ!? あ、いや何でもナイデス!」
墓穴を掘るんじゃないよ! まぁでもそういう所も日笠の良い所なのかもしれないな。 ついつい甘やかしたくなるタイプって感じだよな。
「あ、もし飲みたくなかったら、それテキトーに捨てちゃっていいからな」
「え!? い、いや、そんな! 先輩がくれた物をテキトーに捨てるわけないじゃないですか! 絶対に大切にします!」
「い、いやそんな大切にしないでさっさと飲んでほしいんだけど、まぁいいや。 じゃあもう授業始まるから先に行くわ」
「はい、わかりました! えっと、そ、その、ありがとうございました! お疲れさまです!」
そう言って俺達は自販機の前で解散した。 本当なら日笠に何か奢ってあげるはずだったんだけど、まぁでも喜んでくれてるようだったから今回はそれで良しとしとこう。
それに何となくだけど日笠とは今後もこういう機会は訪れると思うし、その時が来たら今度はちゃんと奢ってあげよう。
「……ふぁあ、さっさと教室に戻るかなー」
俺はそんな事を思いながら自教室へと戻って行った。 今日の授業はあと2コマだけだし、そっちもあと少しだけ頑張っていきますか。
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