第6話 スポーツ大好き後輩女子の灯ちゃん③
「あ、あぅ……え、えぇっと……そ、そのっ……あ、え、あ……!」
日笠はさっきとは比べ物にならない程の動揺を見せてきた。 そしてそんな日笠の慌てる様子を見てるとなんだか楽しくなってきてしまい、俺は調子に乗って“わからないフリ”をしてみる事にした。
「んー? どうしたんだ日笠? そんなに慌ててさ?」
そんなわけで俺は日笠に向けてきょとんとした顔をしながらそう言ってみると、日笠はさらに慌てる素振りを見してきた。
「え!? あ、そ、その全然慌ててないですよ! あ、え、えぇっと、その……」
「ふーん、まぁいいけど? それで結局これは欲しいのか?」
俺はそう言いながら手に持っていたコーラ味のキャンディを日笠に見せた。
「あっ! え、えぇっと、そ、その……! え、で、でもだってそのキャンディ……せ、先輩……そ、それ舐めましたよね?」
「うん、まぁ一回舐めたけど……あっ!? もしかして俺が舐めちゃったから嫌なのか……?」
「い、いや、えっと、そ、その!」
「あ、あぁそっか……そうだよな。 ごめんごめん……気が付かなくてさ……」
「え? え?」
俺はそう言ってしょぼんとした表情をしながら日笠に向けて喋り続けた。もちろん俺の内心はめっちゃ笑ってるけどな。
「ごめんな、俺の舐めかけたキャンディなんて日笠は気持ち悪くて舐めたくないよな……」
「え、ち、ちがっ! 全然嫌じゃないです! むしろ逆というか――」
「は? むしろ逆って?」
「え!? ……あ! い、いや! ち、違うんです先輩! そ、そんな私変態なんかじゃ……! あ……う、うぅ……」
「……あっ……」
し、しまった、調子に乗るべきじゃなかった。 当初の目的は日笠を立派な思春期エロ女子になれるようにアシストをする事だったのに……
なのに俺が調子に乗ってしまったせいで、日笠は一瞬で自爆ムーブをかましてしまい、どんどんと顔を真っ赤にさせていった。 そして……
「……ぐ、ぐす……う……うぅ……」
「お、おいおい日笠、な、泣かないでもいいだろ……」
そしてその結果、日笠は泣き出してしまった。 どうやら日笠は自分のエッチな部分を人に見せたくないタイプだったようだ。(通称:ムッツリスケベタイプ)
俺はまさか泣き出すとは思ってなかったので、内心滅茶苦茶焦っていた。 だって高校一年の女子を泣かすって最低すぎるだろ、罪悪感が半端ない事になっているんだけど……!
「ぐ、ぐす……だ、だって……だって私……変態じゃないもん……うぅ……」
「日笠……」
どうやら日笠は俺に変態女だと思われた……と思ったようで泣いてるらしい。
でも今俺が日笠に向かって「いや全然そんな事思ってないよ! 日笠がエッチな子なんて思ってないから泣き止んでくれ!」と言っても嘘くさいしな……いやそもそも嘘だしさ。 俺は日笠からは鹿島さんのような思春期全開エロ女子になれる素質を十二分に感じてるんだから。
(……うーん、でもこの状況をどうやって打破すればいいんだ……?)
俺の頭の中で“概念を逆転させながら”色々な謝り方を考えたけど……でも、俺はとある作戦を思いついたのでそれを実行する事にした。
「……なぁ、日笠。 大丈夫だからさ、ちょっとだけ口を開けてくれないか?」
「ぐす……ひっぐ……え……? は、はい……むぐっ!?」
俺は日笠に口を開けてもらって、その中に俺が手に持っていたコーラ味のキャンディを放り込んであげた。
「!? ふぁ、ふぁにふるんですか!?」
「どうだ? 美味しいか?」
「え? ……あ」
日笠は自分の口に放り込まれたキャンディが何味がわかったようでビックリしだした。 そんな日笠の表情を確認してから、俺はバッグから違う味のキャンディを取り出して自分の口に入れた。
「……なぁ、日笠」
「は、はい先輩……」
「俺はエロい女子の方が好きだぞ?」
「は、はい……え……? えぇっ!?」
「だから俺は日笠が実はエッチな女子だって知れて嬉しいよ」
「っ!? な、なっ!? 何言ってるんですか先輩は!?」
「あはは、本当の事を言っただけなんだけどなぁ。 だから大丈夫だよ日笠。 俺は日笠の事を嫌いになんて絶対に無らないから安心してくれよ」
「えっ!? あ……え……そ、その……」
ということで俺は色々と考えた結果、日笠がエッチな女の子だという事を否定せずに、俺はエッチな子が好きだと日笠に同調する方向で動く事にした。
いや、だって俺が同じ立場だったらさ、「だ、大丈夫、君はエッチな子じゃないよ、あ、あはは」と苦笑しながら生暖かい目で見てくる先輩(体験談)よりも、「へぇ、君はエッチな子なんだね……でも私はエッチな子の方が大好きだよ、ふふ」と自分の事を肯定してくれてかつ、自分の事を好きだと言ってくれる“えちえちな先輩”の方が絶対に嬉しいからさ。 いやそもそも前者の対応をされると心が死ぬからな。
「それに……実は俺もエロ話は大好きなんだ」
「え? え? えぇ!?」
だから俺は大切な後輩のために、全てを肯定してくれるえちえち先輩を全力で演じてあげる事にしてあげた。 良かったな日笠、俺だってこんな異性の先輩が欲しかったんだぞ!
「せ、先輩がそんな事言うなんて……ど、どうしたんですか!?」
「うん? どういうことだ?」
「え、えぇっと、だ、だって先輩は部活中も優しくて凄い真面目な人なのに……そ、そんな事を冗談でも言う人じゃなかったですもん!」
「あー、そういやそういう設定だったっけ」
「え? せ、設定?」
「あぁすまん、独り言だから気にしないでくれ」
そういえばこの世界の俺は“真面目な男子”設定があったんだっけ。 すっかり忘れてたわ。
「うーん、まぁ俺だってさ……こんな話を誰にでもするような男じゃないって事だよ」
「え? そ、それって、つまりどういう事ですか?」
「はは、つまり……日笠は特別って事さ」
「え……? あ、え!? あ……え、そ、それって……!?」
「んーそれとも……日笠は俺みたいなエロい先輩は嫌いか?」
「えっ!? い、いや、ちがっ……! そ、その……あ……え、と……」
俺はニヤっと意地悪そうに笑いながら日笠の方を見た。 日笠は今まで以上に真っ赤になっていたけど……でもその顔からは涙なんてもう既に止まっていた。
「あ、え……と、その……す、好き……です……」
「ん、それなら良かった」
日笠は顔を真っ赤にしながらもそう言ってくれたので、俺は日笠に向けてニコっと優しく笑ってあげた。 とりあえず日笠はもうこれで大丈夫そうなので、俺も安心してキャンディを舐め始めた。
「よし、遅くなるのも嫌だし、さっさと買い物に戻ろうか」
「あ、は、はい! ……あ、あと、そ、その……キャンディありがとうございました」
「ん、どういたしまして。……美味しいか?」
日笠は改めてキャンディのお礼を言ってきてくれたので、俺は美味しいかを尋ねてみた。 すると満面の笑みを浮かべながら日笠はこう答えてくれた。
「あ、は、はい……! そ、その、とても美味しいです……えへ、えへへ……」
「あはは、なんだか凄い嬉しそうな顔してるな日笠は」
「え!? い、いや? ぜ、全然いつも通りですけど!? 普通普通! 普通ですから! ……えへへっ」
日笠はコーラ味のキャンディをころころと口に咥えながら、とても幸せそうな顔を浮かべていた。 そして俺にはそんな日笠の顔がとても可愛らしく見えて、なんだかとてもホッコリとした気持ちになっていた。
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