第23話 あの方の為

「けほっ……至近距離の自爆は反則だってー」



爆煙の中から煙たそうに四季崎は姿を現す、服が多少破れては居るが、その身体に傷は無かった。


死にきれず、微かに残る意識の中でアルテリアは笑って居た。


体には激痛が走る、だがこの状況……笑わずには居られなかった。


私の全て、命を捨てての攻撃で傷一つ付かない、此処まで力に差があるとは思わなかった。



「残念だったね、でも少しは焦ったんだよ」



そう言い瀕死のアルテリアを前に四季崎はしゃがみ込む。



「服が汚れちゃうかも知れないからね」



そう言い四季崎は笑みを浮かべる、アルテリアはただ唇を噛み締めた。



「まぁ……これ以上話しててもお金にならないし、死のっか」



そう言い四季崎は左手を顔に近づけようとする、だが手はピタリと止まり、動かなかった。



「あんまり、ヒーローみたいな登場の仕方は好きじゃ無いんだが……しょうがないよな」



視界に映る赤い髪、助かった……そう安堵する気持ちよりも、アルテリアは何も出来ずに助けられる事しか出来なかった自分の不甲斐無さに涙を流した。


そして……



「カナデ……おね、がい……た」



「最後まで言うな、そのつもりだ」



アルテリアの言葉を遮ると一時的な治療魔法を掛ける、彼女の容体は正直最悪だった。


腹部を大きく損傷して居る、右腕も無い……死ぬのは時間の問題だった。



「……誰かな、あんた」



カナデに掴まれた腕を気にしながら四季崎は顔を顰め、尋ねる……何の気配も感じなかった。



「俺はただの復讐者だよ」



「復讐者?恨みなら買いすぎて覚えてないよ」



そう言い四季崎は指折り数える、戦いの一部始終を見て居たが、何となく能力の想像はついて居た。


消えた爆発……恐らく彼女の能力は吸収系、そうなると自ずと放出もある筈……アルテリアを殺すのに左手を出して居た事から考えるに……右で吸収、左で放出の筈だった。



「大層な能力をもらったな」



「大した観察眼ね、けど……分かった所で意味は無いけどね」



そう言い左手をかざす、するとアルテリアから吸収した先程の大規模爆発魔法がカナデの足元で発動し、飲み込んだ。



「因みに、吸収した攻撃の威力は2倍になるから」



そう笑みを浮かべながらピースをする、爆炎に包まれるカナデを眺め、勝ちを確信する……だが中の人影は頭の後ろで手を組んでいた。



「一つ、聞きたいんだが……片凪って名を知ってるか?」



「ダメージ一つ喰らってない?!」



「無視かよ」



爆炎の中からゆっくりと姿を現す、威力はアルテリアの状況を見れば一目瞭然、発動直後に吸収したにも関わらず瀕死の状態……それを2倍の威力にして放出したにも関わらず無傷なんて有り得なかった。



「あんた……何者なの」



もう四季崎の顔に余裕なんて無かった。



「言ったろ、復讐者だって」



あまり長々と喋って居る余裕も無かった。


アルテリアの容体は一刻を争う、少しでも長引けば命を落とす。


別に人助けをしたい訳では無いが……目の前で命を落とされると寝覚が悪かった。



「さっきも聞いたが、片凪の名前に聞き覚えは無いか?」



「片凪?誰よそれ、私はあの方以外に興味は無いから」



あの方、少し気になる答え方だった。



「あの方って誰だ?」



「リリアーナ教、教祖様よ」



「って事は……リリアーナ教の関係者か」



優先度的にはクリミナティより低いが、情報があるに越した事はない、それにリリアーナ教はかなり謎が多かった。



「教祖の名は」



「……言うと思う?」



「だろうな」



間を空けて答えた四季崎の言葉は予想通り、そう簡単に情報は吐かない様だった。


だが正直、彼女から情報を得なくても英雄組合から情報は得られる筈……それにこれ以上話して居たら、いよいよアルテリアの容体がやばかった。



「さっきの自爆娘の攻撃はイマイチだったけど……私にはまだとっておきがある、今度は仕留めるわ」



そう言い左手をかざそうとする、だが次の瞬間には四季崎の左手は宙を舞って居た。


痛みを感じるよりも先に疑問が訪れる、何故手が宙を舞って居るのか、そして何故攻撃は発動しないのかと……そして少しして痛みが四季崎を襲った。


彼女の悲痛な声が響き渡った。



「痛がってる暇は無いぞ」



そう言い右手も斬り落とす、あまりにも無慈悲に、そして冷酷に振り下ろされる剣に四季崎は痛みよりも強い恐怖に支配されて居た。



「も、もう辞めて、降参、降参するから!」



出血の止まらない切り落とされた両腕をカナデに向けて命を乞う、だがカナデにはそんなのは関係無かった。


命乞いをする人間を目の前に、躊躇なく剣を振り上げた。



「もう戦えないって言ってんの!それでも殺すの!?」



もう戦意なんて無い、両手を斬り落とされたのだ、戦う術も無い……それにも関わらず彼は私を殺そうとして居た。


イカれている。



「人間じゃ無い……」



「恨むならリリアーナを恨むんだな」



その言葉と共にカナデは剣を振り下ろそうとする、だが一つ聞き忘れて居た事があった。



「随分と金に執着して居た様だが、何の為に金が必要だったんだ?」



こんな些細な疑問でも何かしらに繋がるかも知れなかった。


それに先程はリリアーナ教について話さなかったが、今は死の瀬戸際……先ほどよりは喋りやすい筈だった。



「私は……ただ教祖様の元で働きたかった」



「教祖ってリリアーナ教のか?」



カナデの言葉に頷く。



「教祖様は……皆の理想郷を作る為にお金が必要なんだ……だから、集めたお金をあの方の為に渡し、そして私はあの方の元で働く……なのに」



「なのにお前が現れた所為で!!」



そう言い地面に落ちて居た剣を口で咥え、カナデに襲い掛かる。


先程まで命乞いをして居た人物とは思えない程の気迫、だが無駄な抵抗に変わりは無かった。



「恨むなら……この世界に転生させたリリアーナを恨むんだな」



その言葉と共に剣を振り下ろす、最後に何かポロッと喋る可能性を考え、即死はさせなかった。


地面に倒れ込み、四季崎は朦朧とする意識でカナデを睨み付ける。



「お前……は、人間じゃ……ない」



その言葉を残し、彼女は生き絶えた。


別に彼女自身に恨みは無い、アルテリアをコテンパンにした事には少しだけ怒りはあるが、それでも殺す程ではない。


ただ……メリナーデとの契約を守っただけ。


俺には殺す理由なんてその程度で良い。



「おい、生きてるか?」



「……うぅ……」



アルテリアは呻き声をあげる、何とか辛うじてと言う所だった。


正直通常の治癒魔法なら彼女を治すのは不可能、魔法だってそんな便利な物じゃない……だが俺の場合、女神の力を受け継いでいる。


女神の力は伊達じゃない。



「この程度なら……まぁ訳ないか」



アルテリアの傷を負った部分に手を当てる、光が傷を包むと、ジワジワと組織を再生させて行った。


抉られた腹部は綺麗に治る、木っ端微塵に吹き飛んだ右腕に治癒魔法を掛けると無くなった筈の腕が綺麗に再生した。



「まぁ……こんな物か」



治癒を終えると汗を拭う、戦闘では汗一つかかないが、流石にこの力は体力を消耗した。



「私……生きてるの?」



「まぁ、喋ってんだからな」



「そう……なんか、喜ぶ気も起きないわ」



そう言い身体を起こすと天を見上げる、四季崎の支配は終わった……それは嬉しい、だが彼女との力量差が歴然過ぎて嬉しさよりも悔しさの方が勝って居た。


あんな奴がまだ世界に何十人と居る……訳が分からない、神様は何を考えてあんな奴らをこの世界に送り込んだのか。



「神様って……本当に居るのかしらね」



「まぁ、どうだろうな」



再び空を見上げる。


今日は……天気が良かった。

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