第21話 戦う勇気をありがとう

「ねぇ、明日は何処に行く?」



カフェの外に取り付けられた席でフィリアスが机に肘をつき、此方を見ながら笑顔で告げる、その言葉にカナデは街行く人を見る程を装い、視線を外した。



「そうだな、俺はフィリアスと居れれば何処でも良いよ」



「そっか……じゃあ、私と一緒に死んでくれる?」



突如、平和だった街が火の海に包まれる、そしてフィリアスが片凪に殺される光景が視界に流れる……そしてカナデは目を覚ました。



「またか……」



ふかふかで寝心地の良さそうなベットから起き上がる、寝覚めは最悪、久し振りに睡眠を取ったが、やはり間違えだった。


あの日から眠ると必ず悪夢を見る、まるで呪いかの様に……眠らずとも問題は無い、寝なければ良いだけの話なのだが、一人で過ごす夜は酷く寂しかった。


だが……俺はまだ恵まれている、故郷を滅ぼされたが、一人では無かった。


目覚めてメリナーデと出会い、復讐する力を与えて貰った、そしてカーニャとも出会った……だからこそ、一人になる夜が嫌いだった。



「カナデさーん、外の人が凄いことになってますよ!!」



ノックもせずに扉を勢いよく開け、メリナーデがやって来る、寝起きなのか、髪の毛が爆発していた。



「多分昨日の大会で優勝したからでしょう、それよりも今日からまた、忙しくなりそうですよ」



「何かあるんですか?」



カナデの言葉に不思議そうに首を傾げる。



「アルテリアの故郷を牛耳っている転生者が居るらしいので、そいつを始末するんですよ」



「そう……ですか」



カナデの言葉にメリナーデは悲しげな表情を浮かべた。


転生者を殺さなければリリアーナは弱体化しない、だが……リリアーナの身勝手な考えでこの世界に転生させられた彼らを殺したくは無い……そんな葛藤を抱えていた。


だが当然、カナデはそんな事を知る由も無かった。



「その爆発頭が整ったら宿を出ますよ、これ以上居たら人集りが増える一方です」



「そうですね、整えて貰います!」



そう言い小走りで部屋を後にする、そしてメリナーデの入れ替わる様にアルテリアが部屋に入って来た。


顔色は優れない、そして部屋の扉を閉めると何も言わずに椅子へ腰掛けた。



「どうしたんだよ」



重い空気が流れていた。


特に何かを話す様子も無い、ただ椅子に座り、壁を眺める……外の様子を見ようと、カーテンに手を掛けたその時、アルテリアは口を開いた。



「昨日……もう一度良く考えたの、やっぱり……出会ったばかりのカナデに助けを求めるのは間違ってる」



「どういう事だ?」



ここに来て急に心変わり……意味が分からなかった。



「私の故郷は私で守らないと行けない……そもそもお金を渡して取り戻そうってのが間違ってた、カナデには礼を言わないと行けない」



「礼も何も……」



「私に戦う勇気をくれてありがとう」



その言葉と共にアルテリアは部屋から飛び出す、追い掛けようとカナデも部屋を出るが、髪の毛を直すのに苦戦しているメリナーデとカーニャを見て足を止めた。



「無謀すぎだ……」



アルテリアが走って行った廊下を眺め呟く、どの転生者でどんな能力かは分からないが、間違いなく……彼女は死ぬ。


転生者と異世界人の間には越えられない壁がある……例え彼女が精霊と契約して居てもそれは揺るがない。



「はぁ……」



カナデはため息を吐く、そして呆れながら部屋へと戻って行った。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



何度も悪夢であいつの顔を思い出す。


突然私の故郷ガルデナに現れ、理不尽にも全てを奪い去って行った……私の両親はガルデナでも有数の権力を持つ貴族……あの女はそれに目をつけ、全てを奪い去った。


街の外に出ると息を切らしながら走るスピードを弱める、カナデには申し訳ない事をした……だけど、自分の故郷は自分で守らなければならない、それに……私はアルテリア家最後の生き残り、他者に縋って生きながらえては、その名が泣いてしまう。



「必ず私が倒す」



全ての感情を押し殺し、顔を上げて走り出す、だが一時の感情に任せて逃げ出したのは愚策だった。


ここからガルデナまでは馬車でも1日は掛かる、それが徒歩となるとどれだけ掛かるのか……考えたくも無かった。


とは言え、馬車を借りるお金もない……貴族として贅沢して居た日々が懐かしい。


いつ雨なんて降ったのか、ぬかるんだ地面の泥を跳ねさせない様に慎重に歩きながら草原の慣らされた道を歩く、ふと耳を澄ますと後ろから馬車の音が聞こえた。



「ここじゃ邪魔になるわね」



通行の妨げにならない様に傍へ逸れる、すると馬車はアルテリアの隣に来ると、ゆっくりスピードを落とした。



「こんな所で会うなんて奇遇だねアルテリアさん」



馬車の窓からカナデが顔を出す、追い掛けて来ていた様だった。



「何の用よ」



助けは要らないと逃げる様に出て来てしまった手前、恥ずかしくて顔なんて見れなかった。



「乗れよ、どうせ目的は一緒だ」



「だから助けは要らないって……」



「勿論助けはしないさ、俺は俺の目的の為に神従を倒さないと行けない……どうせ目的地は一緒なんだろ?なら乗ってけよ」



結局のところ、あまり変わって居ない様な気もするが……だが、歩いて行くよりはマシだった。



「しょうがないわね……それじゃ、お言葉に甘えるわ」



そう言い馬車の扉を開ける、するとアルテリア目掛けてメリナーデが飛びついた。



「アルテリアさーん!!」



「ちょっと、離れなさいよ!」



無駄にでかい胸を顔面に押し付けて来るメリナーデを引き剥がそうとする、一度晩酌に付き合っただけで妙に懐かれてしまって居た。



「良かったですよ、アルテリアさんが一人で行ったと聞いた時は心配したんですよ?」



その言葉に引き剥がそうとするアルテリアの力を弱まった。


人から心配されるなどいつ振りか、そもそもこんなに賑やかだったのは久しぶりだった。


長らくあじわっていなかっ味わって居なかったこの感覚……やはり悪く無かった。


やがて馬車が動き出すとメリナーデも落ち着き、腰掛ける、窓の外を眺めながらアルテリアは小さく呟いた。



「ありがとう」



それが伝わったのかは分からない、誰も反応を示さず、ただ馬車に揺られるだけだった。

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