第15話 新たな情報

人でごった返すナルハミア領土の街、コロサス。


街の中央にはコロサスの象徴である大規模な闘技場があり、その周りを囲む様に住宅などの建物が並んでいた。



「凄い人だな」



王都の祭りでも見ないほどの人に囲まれながら街を歩く、明日に控えた武闘大会に向けて参加者や観客が大陸各地から集まって来ている様だった。



「お酒も飲んでないのにクラクラしてきました……」



なれない人混みに揉まれてメリナーデがダウン寸前になる、一方のカーニャは意外とケロッとしていた。



「少し早いですけど、宿屋取りに行きますか」



此処で倒れられても困る、出場登録をしてから宿屋へ向かおうと思っていたが、多少予定が変わっても問題は無かった。


登録期間は今日の夕方18時まで、今の時刻は10時……余裕だった。


適当に視界に入った宿屋に入ってみる、だが何処も第一声は『予約されてますか?』だった。


よく良く考えれば宿なんて取れるわけが無かった。


年に一度の大陸から強者を集めて行われるお祭り、当然宿屋も大繁盛する……見通しが甘かった。


何処もかしこも予約で一杯、20軒目を過ぎた辺りから3人の表情は死に始めていた。



「こりゃ……野宿、あるかもな」



「まだ望みはあります!」



そう言いメリナーデは一軒の宿屋を指差す、外観はかなりオンボロだった。


だが今更グレードなど気にして居られない、本格的に参加登録にも間に合わなくなりそうだった。



「予約無しですけど部屋空いてますか!?」



急ぎ足で宿屋に向かうと扉を開けると同時に確認を取る、だが既に受付の前には一人の少女が立って居た。



「すまんね兄ちゃん、このお嬢ちゃんで埋まっちゃったよ」



「悪いわね」



そう言い少女は此方を振り返る。


宿が取れなかったショックよりも、少女の姿にカナデは固まってしまった。


金髪のツインテールに少し生意気そうな見た目、まるでフィリアスと勘違いしそうな程に容姿が似て居た。



「すまないが……名前は何と言いますか?」



「名前?アルテリアだけど……もしかしてナンパ?」



アルテリア……そりゃそうだ、フィリアスは俺の目の前で死んだ、死体もしっかりと埋葬した、生きている筈が無い。



「いいや、すまん……君によく似た子が居たんだよ」



「へぇ、そうなんだ」



あまり興味無さそうにアルテリアは呟く、ふと時間を見ると17時を回って居た。


タイムリミットが迫っている、宿屋は空いて居ない……だが手段を選んでいる場合では無かった。



「アルテリア、無理を承知でお願いをしたい、こんな出会ったばかりで申し訳ないがこの二人を部屋に泊めてくれないか?」



「本当に急ね、まぁ……宿屋が無いのは分かるけど、あんた武闘大会の参加者?」



「そうだが、アルテリアもか?」



「えぇ、まぁ今のうちにライバルに恩を売るのも悪くわ無いわね、此処の部屋って広いのかしら?」



そう受付の男の方を向き尋ねた。



「はい、ダブルの部屋なので何とか寝れるとは思います」



「なら部屋、貸してあげても良いわよ、でもあんたはどうするの?」



「俺は俺でどうにかするさ、アルテリア、本当に感謝する」



そう深々と頭を下げるとカーニャ達を置いて急ぎで宿屋を出る、初対面の相手に頼む事では無かったのだが……彼女が承諾してくれてありがたかった。


だがふと、とある不安が脳裏を過ぎる、彼女が転生者だった場合……女神様を守る術が無い。


だが彼女から危険な感じはしなかった、メリナーデを見ても何の反応も示して居なかったし……一瞬戻る事も考えたがそれだと武闘大会のエントリーに間に合わなかった。



「まぁ……大丈夫だろ」



流石にたまたま入った宿屋で転生者にカーニャ達を預けるお願いをするなんて天文学的な確率、心配するだけ無駄の様な気がした。


時計の針は17時45分を指す、かなり急いで闘技場へと向かったが、人通りが多くて予想以上に時間が掛かった様だった。


だが何とか間に合った。



「大会参加の申し込みをしたいのですが」



受付の女性に話し掛けるともう人が来ないと思って居たのか、少し慌てて居た。



「え、えっと、参加申し込みの方ですね!ではこの水晶に手を当てて下さい!」



「この水晶は何ですか?」



差し出された水晶に首を傾げる。



「これは大まかに言えばその人の強さを測る水晶です、色によって段階があるのですが、赤以上で参加資格が得られます」



その言葉に頷きながら水晶に手を翳す、自分が女神の力のお陰で強いと分かっていてもこう言うのにはドキドキしてしまう。


まだまだ少年心は失って居なかった。


水晶に手を翳すと一瞬光を放つも、直ぐに消えると水晶は真っ二つに割れた。



「あっ、また……これで今日3人目ですよ、どうなってるんですか本当に……」



水晶が割れた事に少し驚くも、愚痴が溢れる、俺以外にも相当強い奴が二人参加している様だった。


恐らく転生者……この大会に狙いをつけて居て正解だった。



「カナデさん、参加登録が完了しましたので、明日の10時に……お忘れのない様」



案外あっさりと参加登録は終わった。


登録者名簿を少し覗き見したが参加人数は10人、規模に対して意外と少なかった。


だがその理由も頷ける、この大会は賞金が大きい代わりに生死の保証が無い、相手によっては死ぬ事も多いにある、国としてはそっちの方が盛り上がるから助かるのだろうが、出場する奴らは死も覚悟している筈だった。


少なくとも異世界の人々は。



「今大丈夫か?」



背後からのっそりと姿を現す長髪の男、確か情報の為に殺さなかった転生者、名前は……


忘れた。



「誰だっけ、お前」



「新城だよ、覚えてくれよ……まったく、今日は新しい情報を持って来たんだ」



「新しい情報?」



「あぁ、今回武闘大会に二人、英雄組合から出場している、参加理由は強い転生者のスカウトだ」



「転生者なんてスカウトしてどうすんだ?」



「一つは後々魔獣達が蔓延る大陸を探索する為、そしてもう一つが最近別の転生者コミュニティが頭角を現して来てな、それに対抗する為の人員を探しているんだ」



この世界に来てまで同じ転生者同士で対立し合うとは、何処まで行っても人間は人間だった。



「どんなグループなんだ?」



「そうだな……主に要人の暗殺や戦争に加担して、より大金を積んだ国を勝たせる傭兵業、兎に角黒い事ならなんでもするグループらしい、名はクリミナティ」



分かりやすく力を得て調子に乗った転生者の様だった。



「それで、情報はそれだけか?」



武闘大会に転生者が出る事は予想済み、クリミナティと言うグループの存在が知れたのは良かったが、大きな収穫とまでは行かない……そう思ったその時、新城の言葉にカナデの表情は一変した。



「少し噂で聞いたんだが、クリミナティには国を一人で滅ぼした奴が居るらしいんだ」



国を一人で滅ぼした……この世界で国が無くなる事は多々ある、だが一人に滅ぼされた国はただ一つ、故郷であるエルフィリアだけだった。



「どうすればクリミナティのメンバーに会える」



ようやく掴んだ、今まで何の手掛かりも得られなかった憎き相手の情報……今すぐにでも殺してやりたかった。



「構成人数もリーダーも不明だ、分かり次第連絡したいが……残念ながら情報は全部幹部で止まっている」



「幹部で?何故そんな事を?」



「単純にクリミナティとの戦争で戦力にならない者には情報が伝えられないんだよ……そこで提案なんだが、英雄組合に入ってみないか?」



「俺が?」



冗談じゃない、一瞬そう思ったが……よく考えてみれば悪い話ではないかも知れなかった。


だが不自然すぎる、英雄組合の一員である新城が何故転生者を殺している俺を仲間に引き込もうとして居るのか、企みがあるのは間違いなかった。



「何を企んでるんだ?」



嘘をつけば殺す、情報源を失うのは痛いが、また探せば良い……俺の前では少しの嘘も隠し通せない。


女神の力を得てから、人の嘘が淀みとなって見える様になった、便利だが……嘘をついていると分かるのも難儀な物だった。



「あんた、転生者に国を滅ぼされたんだろ?」



質問に質問で返す。



「そうだが、それが関係あるのか?」



「さぁな、ただ……知って欲しいんだ、転生者の中にもまともな奴が居る、正義を持った奴が居るって事を」



新城の言葉にカナデは何も返さなかった。


嘘は無い……ただ、どれだけの善人であろうと、リリアーナの強い恩恵を受けていれば殺さなければならない、それが女神を守るため、リリアーナを殺す為の条件なのだから。



「取り敢えず……武闘大会で俺の強さを示せばスカウトが来るのか?」



「あぁ、あんたなら充分すぎる程の戦力になる、恐らく一瞬で幹部だ」



あの男の情報が手に入り、転生者のグループにも侵入できる……またと無い好機、ツイている。



「なぁ、興味本位で一つ聞いて良いか?」



「なんだ?」



「あんた、人を殺して何とも思わないのか?」



「生憎人の心は捨てたからな」



そう言い捨て、その場を去った。


心は捨てて居ない、その証拠に明日始まる武闘大会へ向けて……心が昂って居た。



「楽しみだ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る