第14話 カーニャの過去

通り魔の転生者を殺して一夜明け、宿屋の天井を眺めながらカナデは物思いに耽っていた。


最初の転生者を殺した時もそうだったが……何も感じなかった。


あの後、酔い潰れてカーニャにダル絡みしていたメリナーデを部屋へ連れて行き、シャワーを浴びて普通に寝た……自分でも怖いほどに普通だった。


だが、これから先も大勢を殺す……何も感じないに越した事は無かった。



「飯食いに行くか……」



少し硬めのベットから跳ね起きると扉に手を掛ける、それと同時にノックをする音が聞こえた。



「カーニャか?」



まだ朝の5時くらい、メリナーデはどうせ酔い潰れて寝ている時間だった。


扉を開けると寝起きなのか、髪の毛が跳ねまくっているカーニャが無言で立っていた。



「どうしたんだ?」



「メリナーデが邪魔だった」



そう言い部屋に連れて行かれると二つあるベットをくっ付けてメリナーデが大の字で寝ていた。



「この人本当に女神かよ」



彼女とこの世界で出会ってから堕落した部分しか見ていない気がした。



「まだ寝たかったら俺の部屋で寝てて良いぞ?」



「大丈夫」



そう言い首を振る、ならば何をしに来たのだろうか。



「散歩に行くけど付いてくるか?」



そう尋ねるとカーニャは頷く、散歩について来るなんてよく分からない奴だった。


街は早朝にも関わらず、少し騒がしかった。


主に鎧姿の騎士か兵士か分からない奴が街を走り回っている、大凡昨日殺した転生者を発見したのだろう。


静かな朝の街を散歩出来ると思ったのだが、今日は厳しそうだった。



「カーニャのその髪色は生まれつきか?」



「うん」



「と言う事は母親も白かったのか?」



「……覚えてない」



表情も変えずにそう答える、色々と過去の話しを聞きたいのだが……そう言う系は自分から話すのを待つのが良さそうだった。



「そうか、俺は母の遺伝だ、めちゃくちゃ美人だったんだ」



「そうなんだ……私は奴隷だった時の記憶しか無い、物心ついた時には汚い馬車に乗せられて他の人達と買い手を探して各国に移動する日々だった」



かなり重めの話を語り出す、そう考えるとあの日まで俺はかなり恵まれた環境に居た様だった。



「故郷を失ったって商人が言ってたけど、故郷は何処なんだ?」



「ミルザエフって言う小さな村……そこで私を拾ったみたい」



「あの奴隷商人が?」



「違う、知らないおじいちゃんが拾ってくれた……でも私が森で迷子になって、奴隷商人に連れてかれた」



カーニャの言葉に首を傾げる、あの奴隷商人の話し方だと、故郷が滅んで孤児となったカーニャを売り物にした様な言い方だったが……これだと誘拐に近い様な気がした。


そうなると彼女には帰る場所がある、居場所があるのなら、そこに帰してあげたかった。



「その人は何処に居るか覚えてるか?カーニャも戻りたいだろ?」



「うん、会いたい……でも場所は覚えてない」



場所を覚えていない……厄介だった。


だがあの奴隷商人なら知っている筈、幸いにもあの街は転移魔法で行ける様に登録してある……メリナーデが目を覚ましたら彼女にカーニャを預けて、聞きに行くとしよう。



「任せとけ、お前を育ててくれた人は俺が探してやるから」



そう言い跳ねた髪の毛を直すついでに撫でる、一先ず、この危険な旅で連れ回す必要が無くなったのは安心した。


街を一通り歩くと宿屋に戻る、そして部屋を覗くが、まだメリナーデは腹を出して寝ていた。



「カーニャ、女神さん起こしといてくれるか?俺は少し出掛けるから」



「分かった」



そう言い手をパーにして腹をペチンと殴る音が聞こえる、二人を残してカナデは部屋に戻ると転移魔法を発動した。


足元に魔法陣が浮かび上がる、そして光が体を包むと瞬きをした頃には最初に訪れた街へと転移していた。



「さてと、あいつは何処かな」



それなりに人の多い通りを歩きながら奴隷商人を探す、意外にも胡散臭いあの男はあっさりと見つかった。



「お、少し前に奴隷を買って下さったお客さんじゃないですか、どうですか、あんな小さい子に奉仕させるなんて物好きですね」



「そんな事しねーよ、それより今日はあの子を拾った場所に着いて聞きたいんだ」



彼の冗談を流しながら早速本題に入る、すると少し静かな路地へと連れて行かれた。



「あそこじゃ少しうるさいと思いまして、それで……あの娘の拾った場所でしたっけ?」



「あぁ、カーニャの話を聞くに、親とは違う育て主が居たようだからな」



「そうでしたか、私はただ拾っただけなので知りませんが、拾った場所はレグルド領土の森ですね、何故か一人で居たので孤児と思い連れて来ましたが、まさか育て主が居たとは思いませんでしたよ」



そう説明するが彼の顔が胡散臭過ぎて嘘に聞こえる、だがレグルドとは……また遠い所だった。



「そうか、あともう一つ、何故あの子が故郷を失ったと言ったんだ?」



「それは売り文句ですよ、少しでも同情を買えば買ってくれる人が居るかも知れないでしょう?」



その言葉に呆れる、変に詮索をして損した。



「そうか、情報提供感謝する」



「あ、そう言えば一つ、奇妙なお客さんがあの後来たんですよ」



帰ろうとするカナデを引き止めてそう話す商人、あまり世間話に付き合ってる暇は無いのだが……情報提供の礼もある、少しだけ聞いてあげる事にした。



「奇妙な客とは?」



「お客さんが買ったあのカーニャって言う子を探していたらしいんですよ、理由は知りませんが、前に私を見かけた時に買おうと思ってたらしくて、執拗に誰が買ったのか聞いて来たので一応お客さんの耳に入れといた方がと思いまして」



「カーニャを買おうとしていた客か……見た目は?」



「かなり筋肉質で大きな方でしたよ、何というか……熱血と言う言葉がよく似合う方でした」



曖昧な情報なのだが、どんな人物なのか想像できる……だが何の為にカーニャを欲しがっているのか、ロリコンなのだろうか。


確かにカーニャの顔立ちはいい、何故今まで売れて居なかったのか不思議な位だった。



「まぁ情報提供感謝する」



「またご贔屓に」



奴隷商人に別れを告げると転移魔法で宿屋へと戻る、一先ず彼女の育て主が居る場所は分かった……だが問題は距離が遠過ぎる事だった。


ここからレグルドまで行こうとすれば馬車でさえ10日は掛かる、徒歩なんて論外だった。


俺の転移魔法も言った場所までしか行けない、簡単に言えばル○ラ見たいなもの、そうなると金策が必要だった。


リリアーナ教も探さなければ行けない、やる事が山積みだった。



「カナデさん!!私これに出ます!!」



突然扉を開けてメリナーデが凄い勢いで入って来る、何事かと振り返ると興奮気味で一枚の紙を持っていた。



「えっと……大武闘大会?」



「はい!数日後にナルハミアの王都から少し離れたコロサスと言う街で行われる、なんと……賞金5000万レラ、この世の全てが此処にありますよ!!」



そう興奮気味に話す、金策が必要な今、グットタイミングな話だった。


場所も此処から遠くは無い……それに大武闘大会には少し興味があった。


ナルハミアで昔から続いている名物大会で、昔は同盟国と自国の中だけで行っていたが、エルフィリアが無くなり、ナルハミア一強となった今、その垣根を無くして全ての国から集めるようになった様だった。


賞金も桁違い……今の力が有れば無双は確定している、それにそんな面白そうな大会があれば転生者も来る筈だった。


初めてメリナーデが役に立った。



「その大会良いですね、ただ……なぜ女神様が?」



「いえ、カナデさんに頼り切りはダメかなと思いまして」



そう申し訳無さそうに答える、とは言え、彼女が出ると何をやらかすか分からない、それにカーニャが一人になってしまう。



「俺が出ますから女神様は大人しくしていて下さい」



「そう、ですか……」



少し残念そうな表情を見せる、力が使えない今、何処に勝てる自信があったのだろうか。


意外と武闘はと言う事も考えたが……ふにふにの二の腕を見る限り、違う筈だった。



「一先ず、次の目的地はコロサスか」

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