第13話 歪んだ欲求
ワンピースのスカート部分を少し破り捨て、動き易くすると何処からとも無く剣を召喚する、圧死と言う事は重力系の能力と踏んでいるのだが……まずは出方を伺う。
「もしかして……お前、男か?」
今更気が付いたのか、我ながらに中々の完成度の様だった。
「まぁ、今日は誤差と言う事にしよう、その顔なら楽しめない事も無いしな」
その言葉と共に悪役そのままの舌舐めずりをする、発言から察するに快楽的殺人の様だった。
「しかし引っかかるな、何で女装までして俺を誘き出す様な真似をしたんだ」
「お前を始末する為に決まってるだろ」
「俺を始末か、正義の味方か何かのつもりか?」
言葉を交わしながら男は手を動かす、単純な疑問を投げかけているだけなのか、発動時間までの時間稼ぎなのか……だが向こうから喋ってくれる分には情報を引き出す手間が省けて良かった。
「そう言うお前は、転生して力を得て……強者のつもりか?」
その言葉に男の表情が少し曇った。
「お前……何者だ」
「ただの復讐者さ」
「お前は危険だ……手加減はしない」
そう告げると挙げていた手を振りかざす、その瞬間、カナデの周囲10mの地面がまるで高い重力の負荷が掛かったかの様に地面が砕けていた。
だが肝心のカナデは何の負荷を感じる事もなく、蒸れるウィッグの中を掻いて居た。
「効いて……無いのか?」
「ん?何かしてるのか?」
わざとらしく気が付かない振りをする、実際は地面が砕けている事で力を発動していると言うのが分かっているのだが、負荷を感じないのは事実、彼もあまり女神の恩恵が強く無い様だった。
「殺す前に少し聞きたい事があるんだ」
そう言い剣で肩を叩きながら男に近づく、所詮は女性を狙った快楽殺人犯、強者を前にして戦う程の根性は無い様だった。
「ま、まだ死ぬ訳には……」
男は背を向けて逃げようとする、だが前を見ると既にカナデが立っていた。
「何で?!」
先程まで後ろに居た筈、まるで瞬間移動したかの様なスピードだった。
「お前はエルフィリアって国に聞き覚えはあるか?」
「な、ない」
必死に首を横に振る、まぁ予想はしていた。
「なら転生者のコミュニティか何かに属しているか?」
「そ、それは……」
男は何か喋りにくそうに吃っていた。
「良いから話せ」
首元に剣を突きつけ脅す、彼にだらだらと時間を取っている暇は無かった。
「神従教……俺はそこに属している」
「神従教?」
また新しいコミュニティ、こんな奴が属していると言うことは、確実にろくなコミュニティ出ないのは分かりきっていた。
「二千原と言う転生者がリーダーの宗教みたいなコミュニティだ……普通の異世界人もいる、表向きにはリリアーナ教と名乗っている宗教だよ」
リリアーナ教……これはかなり大きな情報だった。
まさかこんな小物から聞き出せるとは思っても居なかった……思わぬ収穫、教祖の二千原には何としても会いたかった。
「どうすれば教祖に会える?」
「俺も会った事はない……用心深いのか、No.2にしか姿を見せないらしい」
「そいつの名は?」
「本名は知らない、ただ表向きの教祖と言う事でレブルナと名乗っているらしい」
「レブルナ……ね」
彼から聞き出せる事の大凡は聞き出した、これ以上は引き伸ばしても無駄、それにそろそろ女装が恥ずかしくなって来た。
「情報提供への感謝だけしとこうかな」
そう言い剣を構えるカナデに男は話と違う、そんな表情をしていた。
「誰も殺さないなんて言ってないぞ?」
その言葉に男の表情は絶望に染まった。
今日も女性を潰して……明日もその次も、そう思っていた。
全て女装の変態野郎に会ったから……俺はまだまだ死ぬ訳には行かないのに。
男の名前は平岡圧司、少し変わった大学生だった。
家庭環境は平凡、だが彼自身に少し問題があった。
よく道路などで轢かれている動物、それを見て潰れた姿に芸術を、興奮を感じていた。
わざと猫を道路に置いて潰させたりもした……そしてその欲求はいつしか人へと向き始めていた。
だが圧司にはそんな度胸も力も知恵も無かった、人を潰す……そんなのは大型のプレス機でも無ければ実行出来ない、そして猫でその欲求を鎮める日々が続いていた。
そんなある日、圧司は工事現場の鉄板に押し潰され、自分が潰れて死んだ。
何とも皮肉な話し、だが結果的に死んでよかった。
人を潰せば罪に問われる、それに方法も簡単では無いあの世界と違い、女神から力を貰い、異世界転生した圧司のそれからは毎日が楽しみに満ち溢れていた。
まだ男を狙うのは危険と判断し、女性に狙いを定め……そして実行に移した。
初めて潰したあの感覚は今でも忘れない……あの綺麗な顔が醜く潰れ、内臓がカエルの様に飛び出し……綺麗で、醜悪だった。
それからはタガが外れた様に人を圧殺しまくった……だが自分で狙った女性の名前や悲鳴、潰れた姿は今でも鮮明に覚えている、100人……それを目標にして来たのに、こんな所で死ぬ訳には行かなかった。
そして立ち向かう事を辞めていた圧司は両手をカナデに向けて振りかざした。
「潰れ死ねぇぇ!!!」
ありったけの力を……だが次の瞬間、圧司の視点は宙を舞っていた。
「地獄で懺悔しろ、今まで殺した全ての人に」
地面を転々と転がる圧司の頭を眺めながら剣をスカートの裾で拭き、鞘に収める、白いワンピースが返り血で塗れていた。
「まぁ……もう着ることも無いし良いか」
宿屋に足を向けようとしたその時、重要な事を聞き忘れていた。
「うわぁ、教団の場所聞くの忘れたなぁ」
一瞬後悔するが宗教名と教祖が分かっていれば充分な気もした。
頭の後ろで手を組みながら圧司の死体を残し、静寂に包まれた街へと戻って行った。
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