第17話 二人の転生者
アルテリア対マグネスの戦いが終わり、特に見応えのない第二試合も終わると、ようやく気になっていた奴の番が来た。
『妙月対フィナード、試合開始です!!』
実況の声と共に両者武器を取る、如月の方は細い剣、レイピアの様な物を使っていた。
対するフィナードは如月と真逆の大剣、身の丈程はあった。
「あんたには悪いが、腕の一、二本は覚悟して貰うぜ」
液晶からフィナードの声が鮮明に聞こえる、表情もはっきりと見える、観客席よりも此方の方が良く見えていた。
「凄い自信だね、それだけに……申し訳ない」
そう告げると、如月の姿が消えた。
モニターには何も無い場所が映される、そしてその直後、会場から凄まじい歓声が響き渡った。
『ま、まさかの決着!!』
実況の声と共に遅れて如月と倒れるフィナードが映し出される、予想していたが、やはり呆気ない物だった。
何の能力を使っているのか全く参考にならなかった……これならこの目で見たほうが良かった。
フィナードが担架で運ばれて行く様子が画面に映し出される、見たところ外傷は無かった。
だが今の戦いでは如月が英雄組合のスカウトなのかどうかは分からない……だが彼とは決勝で当たる、そこで話せば良い。
「あんたさっきの試合見た?」
試合を終え、捕食として出されたおにぎりを頬張りながらアルテリアが姿を現す、ほっぺたに米が付いていた。
「あぁ、見た」
「瞬殺だったわよ、フィナードも名の通った騎士なんだけど……あいつ、何者なのかしらね」
そう言いおにぎりをもぐもぐする、幾ら強かろうと、相手は転生者……彼らには悪いが分が悪すぎる。
その面ではアルテリアは運が良い、転生者と当たるのは決勝、まぁ俺が勝ち進み、優勝する故に彼女の優勝は無いのだが……それでもかなりの強運の持ち主だった。
「何者でも良いさ、重要なのは勝つか負けるかだろ?」
「そうね……勝つか負けるか、その通りね」
そう言い残りのおにぎりを水で流し込むと何処かへ去って行く、気が付けば第四試合も終わり、俺の番が来ていた。
『カナデ対レイジ、入場口へお進み下さい!!』
アナウンスにカナデは立ち上がると控え室を出る、レイジはもう先に行っている様だった。
長い廊下を太陽が差し込む方へと向かう、少しずつ歓声が大きくなって行く……そして大歓声の元、闘技場の舞台へと足を踏み入れた。
顔を上げると向かい側の入場口に片目が隠れた黒髪の男、レイジが立っている、流石の歓声に圧倒されている様だった。
『いよいよ1回戦の最終試合が始まります!!』
実況が声を荒げ、観客を煽る、超満員の観客席の中、カナデはメリナーデ達を探していた。
探す……とは言え、ある程度の位置と状況は常に分かる、それを頼りに視線を向けると案の定、メリナーデは移動販売している酒を飲んでいた。
「ったく、飲んだくれだな」
頭を掻きながら呆れる、だが今の所二人の身に危険はない……それが分かれば十分だった。
「カナデさん……名前的に転生者かな?」
大歓声の中、聞きづらい声量でレイジが話しかけて来る。
「まぁ、一応はそうだな」
彼らと違い、この世界で第二の人生を歩んでいた俺を彼らと一緒にするのは少し違う気もするが、転生者と言う意味では同じだった。
「カナデさんはどの派閥に属してるのかな」
「派閥?」
首を傾げるカナデにレイジは驚いた表情をしていた。
「まさかどの派閥にも属してない?」
「あぁ、派閥って何だ?」
大凡、英雄組合やクリミナティと言ったグループの事だろう……だが知らない振りをして居れば、何か新しい情報が手に入るかも知れなかった。
「転生者のグループだよ、英雄組合とクリミナティ、今の所はこの2グループがかなりの勢力を持っている」
これは新城からも聞いた情報だった。
「あとはリリアーナ教って言う異世界人もメンバーのグループがあるんだが……まぁ大きく分けてこの三勢力に転生者達は別れてるんだ」
「俺みたいに個人の奴も居るのか?」
「ごく少数だけどな、俺もさっきの如月も英雄組合のメンバーでな、良い個人の転生者が居たらスカウトしてるんだ」
その言葉に少し驚く、まさか二人とも英雄組合のスカウトだったとは思わなかった。
危うく、片方殺すところだった。
「まぁ……君をスカウトするかどうかは、この戦いで決めるよ」
そう言い剣を構える、構えは素人その物……鍛錬をして居ないのを見ると相当強い能力の筈だった。
だが……俺には関係ない。
『それでは第一回戦、最終試合を始めます!!!』
実況の掛け声と共に試合が始まる、カナデは武器も持たず、ただ相手の出方を伺った。
「武器は構えないのかな」
「良いから来い」
そう言い手で挑発する様に招く、此処で殺せない以上、彼には圧倒的な力の差を見せてあげる事にしよう。
「随分と余裕だね、相当強い能力なのかな……だけど、俺の前では無意味だよ」
そう言い何も無い場所で剣を振る、すると頬に小さな切り傷が出来た。
斬撃を飛ばした訳では無い、だが確かに頬を軽く斬られていた。
「驚いたか?俺の能力は必中攻撃……必ず当たる、どれだけ防御してもね」
驚いた。
まさか傷をつけられるとは思っても居なかった、傷自体は取るに足らないが……傷が付いたと言う事実が重要だった。
これから先、どれだけ理不尽な能力を持っている奴が居るか分からない……こんな奴で傷をつけられる様じゃまだまだだった。
「必中攻撃か……いい能力だな」
そう言い剣を構える、その瞬間、ほんの一瞬……大歓声に沸いていた会場が静寂に包まれた。
先程まで余裕をかましていたレイジがとてつも無い圧に息を呑む、カナデはゆっくりと距離を詰めて行った。
必ず攻撃が命中する……とんでもない能力だが……持っているのが彼で良かった。
身体を見て分かる、何の鍛錬もせずに生きてきたのを……そんな奴が必中攻撃を持った所で、俺には擦り傷しか出来ない。
「残念だ……その能力を活かせる人間に渡らなくて……だが同時に有り難い、弱くて」
「効いて……無いのか?」
もう一度その場で剣を振るが、先程よりも小さな擦り傷が出来る程度だった。
ゆっくりと近づいて来るカナデにレイジは恐怖を覚えていた。
必中攻撃、これはただ攻撃が当たるだけの能力では無い。
その攻撃力は使用者の筋力を50倍にした威力、それに加えて何処を斬るかも自在に選べる……つまり頸動脈を斬ろうと思えば切れる、心臓も狙える……なのに目の前の男、カナデにはそれが効かなかった。
心臓を狙っても、頸動脈を狙っても……全て別の場所に傷が現れる、こんな事は有り得なかった。
「な、なんなんだお前は!?」
「俺か?俺はただの復讐者さ」
そう言い剣を振り上げる、だが剣はレイジの頬を掠めると、鞘に収まった。
「勝負は俺の勝ちで良いな?」
「あ、あぁ……」
カナデの言葉に小さく頷く、はっきり言って勝てる気がしなかった。
正直、強さに自信がある訳では無いが、この能力のお陰で負けるなんて事は全く考えて居なかった、だが……彼には全く通用しなかった。
この理不尽を感じる強さ……彼は必ず仲間にしたかった。
「カナデ……だったね、是非英雄組合に入ってくれないか?」
立ち上がり、剣を収めるとレイジは真剣な表情でそう告げる、だがカナデは渋い表情を見せた。
「英雄組合に入らない、協力はするけどな」
「何故だ?そんなに一人が良いのか?」
「人付き合いが苦手だからな」
そう言いレイジに背を向ける、英雄組合で情報は欲しいが入るのは面倒臭い、恐らく彼らならこの条件でも俺と協力するはずだった。
「そうか……だが協力してくれるだけでも有り難い、この大会が終わったらまた会おう」
そう言い重そうに身体を起こすと入場口へと帰って行く。
「また会おう……か」
空を見上げて告げるとカナデも反対側の入場口から控え室へと戻って行った。
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