第10話 少女との出会い

「このびーると言う飲み物は美味しいですね!!」



カッコよくタグを燃やして決意を決めてから数時間、俺とメリナーデは近くの街に来て居た。


元エルフィリア、現ナルハミア領の街、だが元々来たことの無い街故にあまりエルフィリア領土だった時との違いが分からなかった。



「なんだか頭がぽやぽやして来ました〜」



そう言いビールのジョッキを両手で持ち、ちびちびと飲み進める、彼女とは死んだ時に一度出会っただけでどんな人……と言うか、神様なのか分からなかったが、マイペースで調子が狂わされる、そんな神様だった。



「メリナーデさん、今の状況分かってます?」



「この世界の料理は味付けが濃くて美味しいですね!!マスター、ビールお代わり!!」



遺体に慈愛の表情で祈りを捧げて居た女神は何処へ行ったのか、カナデは頭を抱えた。



「だめだこりゃ」



転生者に狙われて居ると言う実感はあるのだろうか、それともそれ程に俺を信頼して居るのか……だとすれば荷が重い。


力を授かった以上、女神様は優先して守る……だが仇を目の前にした時はきっと俺は復讐を優先する、申し訳ないがそれ程に俺の中では復讐が全てだった。



「取り敢えず……情報収集するか」



周囲の気配を探ってみるが女神の力を持つ者の気配は無い、一先ず襲撃の心配は無さそうだった。


人で賑わう商店の方へと足を向けると歩き出す、女神から授かった力はとんでもない物だった。


やはり神様と言うだけあって、ありとあらゆる魔法の叡智が身について居る、失われたと言われて居る魔法から禁忌の魔法まで、純粋な身体能力も上がって居る……簡単に言えばチートじみた力を俺は得て居た。


だがこの力は転生者を殺す為だけの、復讐の為の力……浮かれたり、喜ぶ事は無かった。


フィリアスのネームタグを眺めながら歩いて居ると、服を引っ張られて居る事に気が付いた。



「なんだ?」



視線を向けるとメリナーデと同じ白い髪色をした少女が立っていた。


違う点と言えば女神様より髪が短い位、この世界では白髪はそれ程珍しく無いのだろうか。



「どうしたんだ?」



迷子なのだろうか、年齢は12〜3歳程度、だが迷子にしては服装が貧相だった。


ふと足に視線を向けると足枷をはめられて居るのが見えた。


彼女は奴隷だ。



「お兄さんどうです?奴隷は要りませんか?」



少女の対応に困って居ると少し離れた所から胡散臭い男が寄って来る、よく見ると通路の端にはそこそこの数、奴隷が座っていた。


奴隷が売られて居るのはこうして見るのは初めてだって。


王都ではそう言う部分も取り締まっていたが、この世界では奴隷は一般的、身寄りの無い子供や亜人種が主に売られて居る。


だが俺にはどうする事も出来ない、それに女神様一人守るのに手こずりそうな今、守る人数が増える様な悪手は取れなかった。



「悪いけど間に合ってるよ」



男にそう伝え、その場を去ろうとするが、奴隷の少女は手を服から離してくれなかった。



「お兄さん気に入られてますね、この子の知り合いですか?」



「いや、知らないですけど……」



「まぁ何かの縁と思って買いませんか?今なら500レラで良いですよ」



「500?!」



向こうの通貨で大体500円、安過ぎて逆に不気味になるレベルだった。


奴隷の相場がどれくらいなのかは分からないが、確実にこれは安過ぎる……とは言え、これからの旅を考えると確実に足手纏いだった。


買って解放するという手もある、だがそれは様々な選択肢の中で一番残酷かも知れなかった。


彼女達奴隷は一人で生きる能力が無い、だから奴隷商人に捕まり、こうして奴隷として生きている、それを買うだけ買って、解放すればまた奴隷に戻るか、野垂れ死ぬか……手を差し伸べるなら最後まで面倒を見る覚悟が無ければ行けなかった。



「悪いな……」



少女の手をそっと服から離すとその場から立ち去ろうとする、だが同情を買うためか奴隷商が言い放った言葉に足が止まった。



「この子、見ての通り孤児なんですよね、故郷を滅ぼされ、たった1人生き残った」



その言葉に気持ちが少し揺らぐ、その境遇は俺と同じだった。


故郷を破壊され、たった一人生き残った……どうしても自分と重ねてしまった。



そして……



「毎度あり!!」



野菜でも売ってるかの様な掛け声でカナデを送り出す奴隷商人、自分でも何故引き取ったのか分からない。



「そう言えば名前、何て言うんだ?」



「カーニャ」



はぐれない様になのか、服を掴んだままそう答える、カーニャ……この年齢で一人は辛い筈だった。


彼女を哀れんでなのか、自分と重ねたのかは分からない……ただ、引き取った以上はしっかりと守って上げなければならなかった。



「カーニャは俺で良かったのか?」



その言葉に小さく頷く、薄々気付いては居たが、彼女はかなり口数が少ない様だった。



「そうか、もう一人仲間が居るから紹介するよ、メリナーデって人なんだ」



そう酒場に向かいながらメリナーデの事を話す、だが正直俺も女神様の事はよく分からない、故にとても綺麗な人と言う事だけ伝えておいた。


そして酒場に入ると迷惑そうな表情をする店主を前にカウンターで寝ている白髪の女性がいた。


カーニャの方を見るとそれなりに持ち上げて話したせいか何か言いたげな表情をしていた。



「ちょっと、このお姉さんのお連れさん、この人危なっかしいから連れ帰ってくれないかな?」



そう言い伝票を渡しながら迷惑そうに告げる、彼女が此処で何をしたのかは知らないが女神とはこう言う物なのだろうか。


神様達の事情はよく分からないが、彼女達もお酒に逃げる時がある様だ。



「女神様、酔ってないで帰りますよ」



「あと一杯だけ……」



寝ぼけながらそう告げる、伝票によると12杯もビールを飲んでいる様だった。



「お釣りは良いです……」



「毎度あり!!」



さっきも聞いた言葉を流しながらメリナーデを背中に背負う、結局何も情報は聞けなかった。



「この先が不安でしか無い」



酒飲み女神と何故か懐いて来た奴隷の少女……復讐心が少し薄まりそうな程のメンツに囲まれ、この先が不安を感じながら宿屋へと向かった。

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