第9話 全てを奪われた青年は復讐を違う

転生者を皆殺しにする、そう誓って数分後……俺は変わり果てた街を2年越しに歩いていた。



「何度見ても慣れない光景ですね」



そう言い無数に転がる亡骸に手を合わせながら祈りを捧げ続けるメリナーデを他所に、カナデはとある死体を探していた。


父と母……生きている望みは薄い、だが死体を見ないといつまでも薄い希望が残ってしまう。


ふと、見知った顔の団員の死体を見つける……ダニーにマルコス、レブルト……年下の俺に皆んな良くしてくれた。


中にはコネ入隊を疎んでいる人も居たが、彼らの様な優しい団員も居た……そっと腰を下ろすと残っていたネームタグを外し、ポケットにしまった。


彼らの無念は俺が晴らす。



「カナデさん、此方に」



メリナーデの声に視線を向ける、そこには父と母の遺体が転がっていた。


手を繋ぎ、信頼し切った表情で亡くなっている……周りの遺体と比べて損傷も少ない……分かっては居た。


何処かで、この二人なら生きている、そう信じながらも……小さな希望に縋りながらも、何とか死を受け入れようと自分に言い聞かせていた。


だが、実際に目の前にすると……涙が止まらなかった。



「カナデさん……」



何と声を掛けて良いのか、メリナーデはただ後ろで見ている事しか出来なかった。


女神でありながら涙を流す青年一人助けられない自身の不甲斐無さに怒りまで感じていた。



「……今、世界の情勢はどうなっていますか?」



「せ、世界の情勢ですか?」



いきなりの質問に少し戸惑った様子だった。



「2年間も時が過ぎれば色々と変わりがあると思いまして」



「そ、そうですね……まずエルフィリアは見ての通り無くなり、今現在はナルハミア国の一強です」



「ナルハミアの一強……ですか」



「皮肉な事にエルフィリアが無くなってから中小国の小競り合いはあるものの、ナルハミアが管理と支配を行い、大陸を統治する事でここ数百年無かった平和が訪れています」



ここ数百年の平和がエルフィリアの消滅を機に訪れるとは皮肉な物だ。



「現在転生者達は大陸各所に散らばって居ると思います……彼らの狙いは私の殺害、ですので向こうから接近して来る事も可能性としては……」



「実はもう来てたりして」



突如聞こえた第三者の声に二人は振り返る、誰も居ない筈の王都跡……会話に入り込む様な言葉、どうやら早速現れた様だった。



「転生者か、目的はメリナーデ様か?」



「その女を殺せば願いが叶うらしいからな」



そう言い特に特徴も無い青年はポケットから手を出す、殺せば願いが叶う……多少なりとも情報を引き出せるかも知れなかった。



「なぜメリナーデ様を狙う」



「言ったろ、願いが何でも叶うんだよ……皆んな血眼になって探すだろうな」



何でも願いが叶う……とても惹かれる報酬だった。



「そうか、だが生憎……彼女を殺させる訳には行かない」



半ば強制とは言え、護衛を頼まれた身として彼女を守らなければならない……それに転生者、彼を無性に殺したい気分だった。



「なぁ、あんたは全てを奪われた経験はあるか?」



「はぁ?何だ急に」



突然カナデの雰囲気が変わった。


目に生気を感じない、そして剣をゆったりと抜いた。



「よくわかんねーけど、女神様から貰った力で俺は異世界無双すんだよ!!」



そう言い両手に炎を宿す、周囲の気温が一気に上昇する、凄まじい熱気……優に一級の魔法は超える威力を持っている。


下手すればドラゴンのブレスよりも高温……単純な能力だがその練度はとてつも無く高い、確かに無双出来るレベルの力だった。


だが、それは異世界人相手、俺には無理な話だった。


力が溢れてくるのを感じる、まるで元から備わって居たかの様に力の使い方が頭に流れ込んでくる……これが女神の力。


手を翳し、男の手に視線を向ける、すると炎を包む様に氷が男の手を凍らせた。



「急に何だ!?」



男の視線はカナデから外れて手を見る、彼の能力は分からないが恐らく女神の力なら人体の何処からでも発火できる筈……だが所詮は転生者、戦闘慣れして居ない。



「敵から視線を外すな、例え首を切られようともな」



そう言いカナデは剣を鞘に収める、男の身体と頭は別々に地面に転がる、初めて人を殺した。


だがびっくりするほど何も感じない、それよりも女神の力に驚いて居た。


詠唱もなく高級魔法を発動出来た、魔力消耗もない……この異世界でずっと生きてきたからこそ、より一層凄さが分かる……本当に神の力だった。



「彼はそれ程リリアーナの恩恵を受けて居ませんね……」



「恩恵……能力の事か?」



殺した男の死体に触れてそう告げる、確かに戦った感じ、それほど強いとは思わなかった。



「彼ら転生者も力に差があります、恩恵が強ければ強い程能力も強い、そして能力が強い転生者を倒せばリリアーナの弱体も大きくなります」



「という事は極論、雑魚能力は殺さなくても良いって事になるのか?」



「まぁ……理論上はそうなりますね、ただ弱い能力でも異世界に置いては脅威ですが」



そう言いメリナーデは遺体に手を合わせる、自分を殺しに来た相手に祈りを捧げるなんてお優しい事だった。


荒れ果てた街を眺め、鮮明に焼き付いたあの男の顔を思い出す……街を壊滅させる程の力、女神から受けた恩恵はかなり大きい筈だった。


何の特徴も無いただの日本人、年齢的には高校生くらいだろうか……情報が少な過ぎた。



「殺す前に聞けば良かったな」



特徴が無いとは言え、この異世界では逆にそれが目立つ可能性もある、海外に日本人が居れば多少なりとも目立つ……直ぐに見つけられる筈だった。


死体となった転生者を眺め、思う……彼も理不尽に殺されたと言う点では俺と同じだった。


異世界に来て、女神を殺せば願いを叶えると言われ……だが、誰かを殺そうとしている時点で殺されても文句はない筈だった。



「大丈夫ですか、カナデさん?」



死体を見つめるカナデに心配そうな表情を見せる、この現状を大丈夫と聞かれれば当然大丈夫では無い、だが俺にできる事はもう一つしか残って居なかった。



「女神様、少し退いて下さい」



「は、はい」



死体に祈りを捧げるメリナーデを下がらせると自分のネームタグを引き千切り、死体の上に投げ捨てた。


燃え盛るタグと死体を眺めながら決意を決める、例えどんな相手であろうと……仲間の、フィリアス達の為に復讐を果たすと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る