第8話 そして始まる
理不尽だ。
俺が何をしたのか、人を殺したことなんて無い、悪事を働いた事も……真っ当に生きて、異世界でも生き続けて……そして全てを奪われて死んだ。
神様は存在する、なのに何故こんなにも不平等なのか。
俺は死んでも良い、だが何故父や母、フィリアスまで死ななければならない。
許せない、俺を殺した片凪が……この世界の全てが許せない。
……デさん
何か聞こえる。
……ナ……デさん!!
どんどんと大きくなっていく。
「カナデさん!!!」
大きな声と頬に走る痛みと共に目を覚ます、視界には綺麗な、忘れもしない人が顔を此方に覗き込ませていた。
「女神……様ですか?」
俺をこの世界に転生させてくれたメリナーデ様だった。
彼女が居ると言う事は……俺はまたあの空間に戻ってきた様だった。
「せっかく第二の人生を頂いたのに……申し訳ありません」
この空間に来ると今までの事が夢かゲームだったのでは無いかと言う錯覚に陥る……だが確かに残る記憶でそれは現実だと、悲しみと怒りと共に思い出させた。
「カナデさん、よく聞いて下さい、此処はあの異世界です」
「異世界?俺は死んだのでは?」
一度意識は失った、それに足の怪我は酷かった……あのままでは出血多量で死んでいた筈、それになぜ異世界にメリナーデが居るのか分からなかった。
「まず簡単に状況を説明します……カナデさんが生きているのは私が蘇生を施したからです」
「蘇生……と言う事は一度は死んだんですね」
「はい、重要なのは此処からです、私が地上に居る理由を話します」
メリナーデが地上にいる理由……確かにそれも気になる、だがふと気が付いた事があった。
死んだ直後に出会ったメリナーデは女神としての、神様としての風格、こうごうしさがあった……だが今の彼女にはそれが無い、あと胸が萎んで居た。
「今、私の力の大半はカナデさん、貴方の中にあります」
「俺の中?」
何を言っているのか意味が分からなかった。
俺の中に女神の力の大半がある、それを神様に言われたからと言って信じられる訳がなかった。
「カナデさんの中です、そして力を貴方に託した理由も今からお話しします」
死んだと思えば生きている、そして次は女神の力の大半が俺の中……理解不能の出来事ばかりに頭がパンクしそうになるが、必死に話を理解してついて行こうとした。
「まず……現在、カナデさんの死から2年の月日が流れています」
「2年!?そんなにも長い間死んでたのですか?」
「私の力をカナデさんに短期間で移すと力に肉体が耐えきれずに爆散しかねないので時間を掛けた結果です……」
身体が爆散……確かにそれは困る。
死んだ後とは言え、遺体はできるだけ綺麗な方が良いのだから。
「カナデさんに力を与えた理由は色々とあるのですが……簡単に言いますと、私は神としての立場を奪われ、地上へ堕とされました」
「地上へ堕とされた?」
簡単に言うととか言ってサラッととんでもない事実を突き付けられる、正直神様の世界、その重要度は俺なんかには計り知れないが、それと生き返らせた事の繋がりが分からなかった。
「ですが何故俺を蘇生されたのですか?」
「地上へ堕ちても神の力は無くならない、ですがそれを使ってしまえば私は消えてしまう……勝手な願いで申し訳ないと思っています……ですがカナデさんには私の代わりに戦って欲しいのです」
「女神様の代わりに戦う……」
正直、ちんぷんかんぷんだった。
何故力を使えば消えるのか……転生前に言われた異世界のバランスを崩す事と関係しているのか、だが俺が女神の力を使って消えないのは何故なのか……分からない事だらけだった。
「色々と聞きたい事はあるのですが……この世界に何が起きているんですか?」
理解出来ない、現実味の無い話を聞きながらも思い出す、俺を……フィリアスを殺したあいつの強さはどう考えてもこの世界の物では無かった。
「この世界には今、カナデさんと同じ転生者がどれ程の規模かは不明ですが存在します」
なんとなく予想はしていた、それに俺が居るのだから他に居ても不思議では無い……だが問題はあの力だった。
「彼らはいわゆる能力と言うのを持って居るのですか?」
「はい、彼らはこの世界では人智を超えた力を有して居ます……そしてそれを与え、私を殺そうと企んでいるのが姉であるリリアーナです」
「女神様を殺す……?」
「はい、姉妹喧嘩に巻き込む様な形で申し訳ありません、ですがリリアーナは私の持つ他世界への干渉能力を欲して居ます」
「それを女神様だけの力なのですか?」
「はい、恐らくリリアーナはその力を使って暫く暇潰しを考えていると思います」
そう言い申し訳なさそな表情をする、暇潰しのために妹を殺す……争いの本質的な部分は神様から譲り受けた物なのかも知れない。
「ですが何故転生者をこの世界に?」
「私を殺す為です、姉が地上で直接手を下す事は出来ない、だから転生者に自身の力を分け与え、私を殺す、普通の力では殺せませんから」
「俺は何をすれば良いのですか?」
正直全体の1割も理解していない、だがこの世界に生き返ってしまった以上、やるべき事は一つだった。
復讐、俺の全てを奪ったあいつを殺す……それだけだった。
「……正直こんな事を言いたくはありませんが、カナデさんには転生者の方々を殺して頂きたいのです」
「えぇ、良いですよ」
即答にメリナーデは驚いた表情をしていた。
「殆ど拒否権が無いとはいえ……同じ転生者を殺さなければならないのですよ?」
拒否権が無いのに聞く意味が分からないが……今の俺にはそんな事どうでも良かった。
長い間眠っていたからなのか、それともあまりにも大き過ぎる感情のせいなのかは分からないが今の俺は落ち着いていた。
感情が一周してどうでも良くなったのだろう、全てを失った……今の俺には復讐しかない。
他の転生者を殺すことに罪悪感や抵抗は無いかと聞かれれば無いと即答できる、人とは簡単に変わってしまうものだった。
それに彼らは元々この世界に居ない人間……なら死んでも問題は無い。
「一つお聞きしたいのですが……女神様は何故俺をこの世界に転生させたのですか?」
「それは貴方の崇高なる正義感、その行いがそれに値したからです」
崇高なる正義感……思わず鼻で笑ってしまった。
俺はそのせいで国を滅ぼした、仲間を家族を……愛する人を。
よく出来た世界だ。
正しい行いを、正義感を持った人間が馬鹿を見る、そしてずる賢い、狡猾な奴が得をする……ようやく理解した、第二の人生で死を経験に。
ならば俺も正義感は捨てよう。
全てを捨て復讐者となる。
「転生者は……皆殺しだ」
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