第6話 ドラゴン討伐
フィリアスからタグを貰ってから一週間が経ち、俺達第48師団は大きな任務を任せられていた。
「あぁ、せっかく楽な仕事で楽に生きてきたのによぉ……俺の運も尽きちまったか」
薄暗い洞窟を進みながらルークリードがいつも以上の悲壮感を漂わせながらボヤく、彼の態度もあるがいつも以上に団員のテンションは低かった。
「そりゃ無理もないっすよ、ドラゴン討伐……俺達に回す仕事じゃないっすよ」
テンションが低い理由はラルフの言葉通りだった。
ドラゴン討伐、普通なら第15師団以上に回される仕事だが今回は何故か俺達に回された、人手が足りないなんて事は確実にない、ナルハミアとはつい数日前に友好関係を結んだばかりなのだから。
末端の俺には政治的な事は分からないが噂ではナルハミアから急に持ち掛けたと言う、その影響で地方に配属されていた師団のメンバーや遠征も無くなり、俺達以外は王都に勢揃いして居た。
「俺達だけそんな役回りだな」
「まぁそう言うなラルフに団長、この討伐を成功させたら一気に師団の数字も上がるぞ」
テンション低めの二人を元気づけようとポジティブな言葉を掛ける、だが帰ってくるのはため息だけだった。
いつもは賑やかなメンバーが特に話す事もなく、水滴が落ちる音が響き渡る洞窟を奥へ進む、やがて涼しかった内部が汗が出るほどに暑くなって居た。
「そろそろだな」
ルークリードが剣に手を掛ける、耳を澄ませばドラゴンの鼻息が聞こえて来た。
「一度説明したが俺とカナデが前線を張る、後の奴らは補助魔法で俺達のサポート……頼むぞマジで」
「任せて下さいって」
そう言いラルフは他の仲間の肩を組み笑みで告げる、戦争の経験は無いが、大型の討伐は基本的に前衛と後衛に分かれる。
基本的な身体能力の高い人間が前衛を張り、他はサポートに回る、そして48師団は俺とルークリードがその役目だった。
大型は攻撃力も防御力も桁違い、小さい力で攻撃するよりも少ない人数に力を集中させた方がいい……先人達が失敗を繰り返し、確立された戦い方だった。
「見えて来たぞ」
薄暗かった洞窟が徐々に明るくなって行く、そして拓けた場所に出た。
大きく空いた穴から太陽の光が差す、そしてそれに照らされる様にドラゴンが中央に寝転がって居た。
凄まじい熱気、防熱の魔法を掛けて居なければ皮膚が溶け出しそうだった。
「よし、お前らはとにかく全力で支援魔法だ……腹括るぞカナデ」
「ルークリードさん一撃で死なないで下さいよ」
「……まぁ、善処する」
カナデの冗談に怖い間を空けて答える、だがその言葉に団員は笑い声を溢した。
場の雰囲気が和やかになる、うちの団長はこう言うのが得意だ……だから慕われる、俺も彼の事は大好きだった。
『我が住処に足を踏み入れるとは自殺願望でもあるのか、人間よ』
「驚いた、まさか喋るタイプのドラゴンとは」
ルークリードはそう言いながらも警戒心は解かない、一方のカナデは稀に喋れるドラゴンが居る事に驚きで口が空いて居た。
まさかエルフィリアの領土内に居るなんて思わなかった。
このドラゴンは所謂賢竜と言われるタイプ、だが賢竜は人から離れ、魔獣や未知の生き物で溢れている別大陸にいると聞いて居た。
『ドラゴンが喋って悪いか?それよりも我の住処に来たと言う事は……死ぬ覚悟は出来ているのだろうな』
そう言い巨体をゆっくりと起こす、大きな体育館位は余裕でありそうだった。
「元よりその覚悟よ」
そう言い身の丈程の大剣を何もない空間から二本取り出す、そしてカナデの方に一本を投げ渡した。
片手で受け取ると構える、支援魔法のお陰で全く重さを感じなかった。
『愚かな……死を持って後悔するといい』
ボス戦前の様な台詞を吐き、炎を口から漏らしながら羽を広げる、感じたことの無い威圧感……だが仲間のお陰で恐怖は無かった。
それに身体も驚く程に軽い、支援魔法の力は凄かった。
「別方向からやるぞ!!」
そう言いルークリードはドラゴンの右側へと先に走り出す、彼に遅れて左側へ走り出すとドラゴンは一瞬の迷いを見せた。
作戦通り、ドラゴンは図体がでかい故に小回りは効かない、それに加えて複数人居れば的を絞らせない事も出来る……全てルークリードの発案だった。
彼は恐らくやる気の無く、卑屈で面倒くさがりな性格が原因で48師団に居るが実力だけで言えばもっと上の筈、だからドラゴン討伐もこの師団に任された筈だった。
『如何にも人間が考え得る作戦だ』
そう言い大きな羽を動かし風圧を起こす、まるで台風の様な突風に身体が浮きかけて居た。
「重力支援!!」
ルークリードの言葉に身体が重くなる、動きも鈍くなるが突風で飛ばされる心配は無くなった。
『小賢しい』
ドラゴンはそう吐き捨てると地面にブレスを吐く、地面が溶けている……凄まじい高熱だった。
「防熱魔法に集中しろ!!」
支援魔法の割合を8割程度に変更する、一気に大剣が重く感じる……だが持てない訳では無かった。
ドラゴンがブレスを吐いている間は無防備、カナデは炎の方向に向かい走り出した。
「何やってる!?防熱魔法があっても焼け死ぬぞ!!」
ルークリードの言葉を無視して突っ込む、防熱魔法のお陰で死にはしないが物凄い暑さだった。
皮膚が焼ける、呼吸もしづらい……防熱魔法に支援を割いているせいで身体強化も少なく苦しかった。
だが第一師団の人達はこの程度は単独で倒す、フィリアスでも恐らく倒せるだろう、俺は強くなりたい。
この程度で負ける訳には行かなかった。
「俺は……異世界最強を目指してんだよ!!」
崇高な理由がある訳では無い、だが人を助ける為、それに異世界に来たなら無双して皆んなからチヤホヤされたい、動機は不純でも思いに変わりは無かった。
ドラゴンのブレスを突破して下まで潜り込む、するとルークリードの声が聞こえた。
「カナデに支援魔法をありったけ掛けてやれ!!」
身体に力が湧いてくる、大剣が小枝の様に軽い……これならドラゴンが飛ぶ所まで飛べる筈だった。
「ありがとうございます!!」
足に力を込める、そして地面を蹴るとドラゴンの喉元まで一瞬で到達した。
大剣を空中で振り上げる、異様に対空時間が長いのは恐らく重力支援があるからだろう。
『人間風情が!!』
ドラゴンの腕が迫る、だが俺の攻撃はそれよりも早く喉元を切り裂いた。
『ぐっ……この我が人間風情に……』
喉元を切り裂かれたドラゴンは力無く地面に落ちる、トドメを刺すなら今だった。
「首を切り取って戦果として持って帰るぞ」
そう言いルークリードは大剣を振り上げる、だが妙に引っかかる所があった。
「少し……待ってくれませんか」
「んぁ?早くしねーと復活するぞ?」
そう言い此方を睨み付けるドラゴンを指差す、ドラゴンならあと1分もあれば立ち上がれる筈だった。
だが妙に引っかかる、ここら辺でドラゴンの被害は聞かなかった、巣穴に人間の死体がある様子も無い……何故こんなドラゴンに討伐依頼が出ているのか不思議だった。
そもそも賢竜が居ること自体に違和感があった。
「攻撃した後で申し訳ないが少し聞きたい、何故あなた……で良いのか?に討伐依頼が出ているのかを」
『人間に情けをかけられるとは……我も堕ちた物だ、大賢竜グルファルード、それが我の名だ』
「グルファルード!?嘘だろ、伝説的なドラゴンじゃねーか!?」
グルファルードと名乗ったドラゴンの名前にルークリードを初めに皆んなが声を上げて驚く、グルファルードは最初の竜と呼ばれる程に伝説的な存在だった。
どれ程の年数を生きているか分からない、だがそれよりも伝説の竜がこの程度の強さだった事に驚きを隠せなかった。
『なんだその表情は、我が思ったよりも弱かったか?』
「いや、そんな事は」
表情で考えを読むあたり、本当に大賢竜の様だった。
『我は今一時的に弱体化している、そのタイミングをどう知ったかは知らぬが……我を倒すなら今しか無いぞ』
そう言い諦めた様な表情を見せる、ドラゴンの表情は分からないが声色からそんな気がした。
「人間を殺したりしたんじゃ無いのか?」
『我がそんな低俗な竜に見えるか?それに人間の肉は不味すぎて食えん、数千年前に喰うのは辞めた』
そう言い舌を出して不味いとジェスチャーをする、過去はどうにしろ、今のグルファルードは何もして居ないと言う事だった。
「知ってましたかルークリードさん」
「いいや、俺らは上に言われた事をするだけの手足だからな……まぁいい気分では無いな」
珍しくルークリードに怒りが見えた。
『どうした、殺さないのか?我はあと数秒もすれば動けるぞ』
今思えば冒頭に吐いた台詞も戦わずに帰そうとして居ただけの様だった、やろうと思えば素早くブレスを広範囲に吐くことも出来た筈だった。
「喉を掻っ捌いて置いて申し訳ないが、上の意思と俺らの意思は違う、何もして居ないなら殺すなんてとんでもない」
『人間にしては賢明な判断の出来る奴らだ……この傷のことは勘弁して置いてやる』
そう言い巨体を持ち上げるとまた定位置に戻って行く、何故……上はグルファルードを殺そうとしたのだろうか。
最初の竜と言うことが関係しているのか、だがあまり深入りしては行けない様な気がした。
だが……生憎にも病的な正義感が疼く、帰ったら上に話を聞かないと行けなかった。
『そうだ、人間……一つ忠告をしておく』
「なんだ?」
『近頃不穏な匂いを感じる……気をつける事だ』
不穏な匂い……何の事か分からないが大賢竜の言う事だから気には止めて置いた方が良さそうだった。
「ありがとうな、殺そうとした相手に忠告まで」
『我は小さな事は気にせぬ……去れ、睡眠の邪魔だ』
そう言いグルファルードは眠りにつく、予想よりも遥かに早く終わった様な気がした。
「なんか拍子抜けだったな」
「そうっすね」
あっさりと終わったドラゴン討伐にラルフと話をする、隊の後ろではルークリードが頭を抱えてなんと報告するか唸っていた。
「そういや、カナデは帰ったらフィリアスちゃんとデートなんだろ?しかも家族ぐるみ……羨ましいぜ」
「デートなんかじゃねーよ、久々に王都に家族が揃うからフィリアスの親も一緒に飯食うだけだよ」
「結婚前かよ、まぁ良いわ、俺たちは男だけで飲み会でもしますよー」
そう言いラルフは先を歩いて行く、結婚前……フィリアスには確かに好意はある。
だがその気持ちをずっと伝えられずに居る、彼女の気持ちがどうかは分からない、それに俺はこの関係が壊れるのが怖かった。
だが、王都にはイケメンが多い、高収入な奴も……俺もこの世界に来てそれなりにイケメンになったがそれでもまだ弱い、気持ちを伝えるのは早い方が良いかも知れなかった。
「ラルフに礼を言わないとな」
ようやく決心がついた、フィリアスに帰ったら告白する、それが上手く行かなくても一年位凹む程度、怖がる必要はない。
少し早くなる鼓動を感じながらカナデは帰路に着いた。
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