第5話 平和な日常
入隊式から3ヶ月経ち、俺は魔獣を主に討伐する討伐隊に配属されて居た。
騎士団には主に二種類の仕事があり、片方が冒険者などと少し似た盗賊団や魔獣を討伐すると言った内容、そしてもう片方が同盟国などの戦争に援軍として行ったり、紛争地へ赴く人間を相手とした仕事内容だった。
人気の度合いとしては討伐隊が人気になると思いきや、そうでは無い。
基本的に騎士団で処理しきれなかった依頼が冒険者へと行く、つまり難易度的には騎士団の方が高い、つまり危険な任務が多いと言うわけだった。
どちらかと言えば人間を相手にする方が楽な筈だった。
配属先はライケルや上の人間が決める、そして選考の結果、俺は第48師団の討伐隊へと配属された。
「今日の任務は……えーと、ゴブリンの群れを壊滅させる事だな」
やる気の無い、覇気の「は」の字すら感じない声で5人程度の団員を前に無精髭を生やしたあまり清潔感のない男が話す、彼が第48師団の団長、ルークリードだった。
「まーたゴブリンっすか、これで今月4回目っすよ?カナデも違う任務行きたいって言ってるっすよ?」
「俺に振るなよ」
金髪の少しチャラついた青年が文句を垂れる、彼は俺と一緒に入隊した同期のラルフ、正直言って第48師団は落ちこぼれの寄せ集めだった。
俺達の下に49と50師団があるのだが、彼らは戦闘を得意としない医療や情報収集専門の部隊、故に戦闘部隊としては俺達の48が一番下という事だった。
何故俺が此処に配属されたのかは分からない、初日に暴漢を捕らえたし、その後の警備でも人助けをかなりの数こなして来た……正直不服だった。
「馬鹿、ゴブリンを舐めるなよ?あいつら集団にボコられたら普通に死ぬぞ」
「この前ルークさん気絶させられてたっすよね」
「ありゃ、お前ら新人が慣れてきたか試すためだよ」
そう言いラルフの言葉を適当にはぐらかす、彼らは仕事を真面目にする訳では無いが、実力はしっかりとある、それに此処は居心地が良かった。
「カナデ居るかしら」
48師団の部屋をノックする音と共にフィリアスが姿を現す、彼女の出現に辺りは急に静かになった。
「どうしたフィリアス?」
「お昼だしご飯行かない?」
その言葉に団長達の方を見る、彼らと約束して居たのだが……親指を立てているのを見る限り行けと言う事らしい。
「お前友達居ないのかよ」
「うるさいわね、ほっといてよ」
そう言い部屋を出て行く二人を眺めながらラルフは信じられない程に悔しそうな表情をして居た。
「あれで……付き合ってないんすよねあの二人」
「まぁ、そうだな」
こう言う場面、二人の思考は一致して居た。
「「あいつら付き合えよ」」
二人が声を揃えてそう告げる一方、カナデとフィリアスは食堂へ向かって居た。
「そう言えば討伐隊はどう?」
「どうって、毎日ゴブリン退治とか、至って平和だよ」
「良いわね、こっちは2日後にまた大規模遠征……最近戦争が多くて困るわよほんと」
そう言い嫌そうな表情でフィリアスはボヤく、彼女は入隊3ヶ月で第5師団と言う典型的なエリートコースだった。
だが師団のレベルが上がれば必然的に忙しさも変わってくる、末端の俺とは違いフィリアスは3ヶ月の間で既に3度も戦場を経験して居た。
恐らく人も殺している、だがそれを聞くことは無かった。
「それじゃこの後暇か?久々に街にでも行こうぜ」
「それ良いわね!」
フィリアスの機嫌が急に良くなる、せめて仕事が無い時くらいは笑って居てほしかった。
そして食事を終え、街へと繰り出す二人、こうして二人で遊ぶのはかなり久し振りだった。
「どこ行くよ、一応21時位までは暇だけど」
「そうね、取り敢えず道なりに歩きながら適当に食べ歩きでもして考えましょ」
そう言い少し前を歩くフィリアスの言葉に驚きを隠せない、先程食堂でそれなりに量のあるご飯を食べたにも関わらずまだ食べる気とは……彼女の強さの秘密が少しわかった様な気がした。
どうでも良い、他愛も無い話しをしながら街をぶらぶらと歩く、途中でカフェによったり、露店で何かを買ったり……至って普通のデートだった。
ふと、彼女の髪留めが視界に入る、もう塗装も剥がれ掛けてボロボロだった。
いつか覚えて居ないが俺がプレゼントした奴だった。
「まだその髪留め使ってたんだな」
「ん?まぁ自分で髪留めなんて買わないし、勿体ないからね」
そう言い露店で買った食べ物を頬張る、ずっと使ってくれて居たとは思わなかった。
「そう言えば髪留めで思い出したけど、これプレゼント」
そう言い雑にポケットからネームタグを取り出した。
金色に光るネームタグにカナデは首を傾げる、何故それを俺に渡すのか……彼女のプレゼントと称して取り出したネームタグは第5師団以上の物にしか与えられない精鋭の証だった。
「うちの師団長がネームタグを自分以外の人に持って貰ったら互いに長生き出来るって言ってたのよ、私の知り合いはカナデしか居ないし、それに売れば高いらしいわよ」
そう言い此方に目線は向けずにそう告げた。
「売らねーよ、まぁそう言うなら持っててやるよ」
そう言いネームタグを受け取る、タグには当たり前だがフィリアスと彫られて居た。
「こうして1年後も、10年後も……居られると良いわね」
「何だよ急に」
日は落ち、街に灯りが付き始める時間帯で急にフィリアスはしんみりとした事を言い始めた。
「別に、ふと思っただけよ……私の父は戦争で命を落とした、病弱な母に変わって私が働こうとしてた時にカナデ達家族にずっと助けられて来た……あんたが思っている以上に感謝してるのよ」
「別に俺は何もしてねーよ」
「ふっ、カナデらしい」
そう言い笑うフィリアスの笑みの理由がイマイチ分からなかった。
「それよりもうすぐ21時よ、討伐に遅れるわよ」
フィリアスの言葉で初めて時間に気がつく、まだ19時辺りだと思っていただけに焦りが半端じゃ無かった。
「マジかよ!?団長遅刻だけにはうるさいんだよ……悪いフィリアス、また今度な!!」
「ゴブリンだからって舐めないことよ」
「わかってるよ!」
そう言い手を振るフィリアスに背を向け、第48師団へと向かう、気の所為かも知れないが今日のフィリアスは少し弱きと言うか……少し元気が無さそうだった。
やはり大規模遠征の事なのだろうか。
今回の遠征は同盟国への援軍として行く、だが今までの遠征と比べて戦争の規模はかなりデカくなる、大国までは行かないが、それなりに力を持つ国同士の戦争、しかも相手はナルハミアの同盟国……此処で負ければ大戦争に発展しかねない大事な遠征だった。
フィリアスが気負うのも無理はない、だが俺がどうにか出来る話では無かった。
ふと鐘が21時を告げる音を鳴らす、それと同時に48師団の部屋を開けると眼前にルークリードが立っていた。
「何が言いたいか分かるな?」
「はい……」
その後、ルークリードから30分に及ぶ説教を喰らい、予定よりも大幅に任務時間が遅れた事で上からまた叱られるのは別の話し。
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