第4話 入隊式
王都に初めて行った日から2ヶ月後、俺とフィリアスは再び王都を訪れていた。
理由は騎士団に入隊する為、この日の為に頼んで置いた鎧がピカピカに光っていた。
「あー、緊張するわね……私達はレグルドさんの推薦で入隊試験はパスしてるけど、その分周りの目が痛いわね」
「だな、かなり疎まれてるぜ」
そう言い王都の演習場に入隊式で集まった兵士達が二人に視線を送る、レグルドは俺の父……つまりはコネで入った様な物だった。
だが俺とフィリアスは知っている、父は一人の騎士として俺達を推薦した事を……あれからフィリアスに勝てた試しは無いが、それでも自信を持って俺は強いと言える程に成長した筈だった。
「あー、今回の入隊者はざっと120名って所かな?まぁ例年より少ないのは戦争が近いって噂のせいでもあるけど……裏を返せばここに居る君達は勇敢な騎士になれると言う事だね」
演習場の壇上に上がり何かを喋り始める金髪の男、先程までざわざわしていた辺りは静かになり、視線は全て彼に向いていた。
「おっと、自己紹介がまだだったね、僕はライケル、第四師団の団長をやれせてもらってるよ」
その言葉に周りからはライケルに対する尊敬や驚きの声が上がり始めた。
俺も無知では無い、ある程度勉強はしてきた……エルフィリアには50を超える師団がある、そしてその数字は小さくなればなるほど実力者が揃う……その中でも団長クラスは格が違う、第50師団の団長ですらかなりの実力者、それが第4ともなればこの反応は至極当然だった。
「突然で申し訳ないけど、君達には今から演習をして貰おうと思うんだ」
ライケルの言葉に再び辺りは騒つく、入隊初日から演習など聞いた事無かった。
隣のフィリアスと顔を見合わせる、だが二人とも口角が自然上がっていた。
「実力を見せる時が来たわね」
「だな」
此処はサクッと周りに強さを誇示して、異世界最強無双と洒落込む……そして30分ほどの対戦相手を決める時間経て、俺はフィリアスと対峙をしていた。
「まさかあんたと最初から戦うとわね」
「予想外にも程があるよ」
効率重視の為に他にも試合が行われているにも関わらずかなりのギャラリーが俺達の周りを取り囲む、流石父親からの推薦は注目度が違った。
正直鍛錬はかなりして来た、生前何もして来なかったのが後悔になっていたのか、自分でも驚く程に頑張れた……だがそれでもフィリアスに勝てるビジョンは見えなかった。
とは言え俺は別に負けず嫌いでは無い。
「449戦、449勝……今日で数字のキリが良くなるわね」
そう言いフィリアスはツインテールを靡かせながら剣を軽々しく構える、その所作には美しさもある……彼女の剣は俺のより少し軽い、力では勝るが技術とスピードでは圧倒的に劣っていた。
先手を取っても後手に回っても敗北している……どうすれば勝てるのか、思考をフル回転させる、そうしている内にフィリアスはゆっくりと距離を詰めて来た。
「今日は私から行かせて貰うわ」
そう言い一気に加速して距離を詰める、今回は後手に回った……だが彼女の動きを見極め、此処に来るであろう場所を予測する、そしてそれは的中した。
449回の敗北がようやく実を結んだ……パワーだけなら彼女を一撃で気絶させれる、そう思い渾身の一撃をフィリアスにぶち込む、だが彼女はそれを予想していたかの様に半身になり最低限の動きで攻撃をかわした。
「449回もやっていれば……流石に私も予想されてるのは気付くわよ」
そう言い、気が付けば剣が喉元に突きつけられていた。
「つまり……わざと予測される様な動きをしたと言う事か?」
「過去にも何度かしてたけど、気付かなかった」
そう言い剣を鞘に収める、思い返せばそんな節もあったような気もするが……分からなかった。
「流石の強さだねフィリアス」
「ら、ライケルさん!勿体ないお言葉をありがとうございます!!」
二人の戦いを見ていたライケルがフィリアスに賞賛を送る、一瞬奏の方に視線を向けるも、何も言葉をかけずにフィリアスに視線を戻した。
周りから彼女の実力を称える言葉が聞こえる、それに対して俺は……結局コネなのかと言われていた。
苦痛だった。
「ライケルさん、今日はこれで終わりですか?」
「ん?そうだよ」
「ありがとうございます」
その言葉を残し、俺は演習場を後にした。
一人で早く宿舎に戻ると鎧を脱ぎ、ベットに腰掛ける、これから先はかなり厳しくなる。
主に周りの目、俺は今日の敗北でレグルドのコネで入った奴と蔑まれる……入隊初日から気が滅入る。
外はまだ日も落ちていない、やる事は特に無いが……寝るにしては早すぎる時間帯だった。
「街でもフラつくか」
相変わらず都会の王都、人の賑わいも凄まじい物だった。
明日から俺は此処を守る存在になる……こうして街を歩くと少し気が引き締まる様な気がした。
とは言え大通りは比較的に治安が良い、それに比べて少し入り組んだ裏路地に入れば一気に治安は悪くなる。
正直この国は広い、裏路地まで警備していては人手も足らない、だから裏路地は殆ど放置されていた。
ふと建物と建物の間に出来たあまり陽の差し込まない薄暗い路地に目線を向ける、すると一人の少女が襲われているが見えた。
「や、やめて……」
必死に逃げようとする、だが周りの人は誰も裏路地に足を踏み入れようとはしなかった。
目撃者は多数いる、だが助けない理由は少女にあった。
「うるせぇ!エルフがこんな街に来てるって事は何されても文句言えねぇよな!?」
そう言い男は服を雑に破り捨てようとする、異種族を下に見ている、差別していると言うのは本当の様だった。
どの世界も人間は人間という事だった。
「誰か……助けて下さい!」
エルフの声も大通りに届いてはいるが人の心には届かない、だが異種族だろうが俺には関係無かった。
「なぁあんたら、そんな事して恥ずかしく無いのか?」
「何だぁ……てめぇ?」
チンピラの様な言葉遣いで急に現れた奏を威嚇する、人数は3人、異世界に来る前ならボコられたが、今は負ける気がしなかった。
それに俺には秘策がある。
「ほら、エルフィリア騎士団だ」
そう言いエルフィリアの紋章が付いたネックレスを首元から出して見せる、騎士団の兵士は皆んなこれを持っている、言わば警察手帳の様な物だった。
「くそっ……騎士団はやべーぞオルド」
「早く逃げようぜ!!」
チンピラの様な二人は紋章にびびって逃げようとする、だが一人スキンヘッドの中々ガタイの良い男は逃げる様とする二人を突き飛ばし、奏の前に挑発する様に立ちはだかった。
「エルフィリア騎士団にお前の様なガキが入れるなんておかしいよなぁ、どうせコネだろ?」
そう言い顔をグッと近づける、違うと言い張りたいが俺はフィリアスに手も足も出ず負けた、それに父の推薦なのは間違い無い。
だがそれは今、人を助けるには関係無かった。
「あんた、騎士団でも目指してたか?なら入隊試験と行こうじゃ無いか、コネの俺を倒してみな」
男を挑発する、すると分かりやすく頭に血を上らせていた。
周りの取り巻きは男を置いて逃げたそうにしているが逃げないのを見ると立場上彼の方が上なのだろう。
「殺す」
そう言いエルフの少女を雑に突き飛ばすと此方へ近づいて来る、重たそうな動き、そして丸太の様な腕を振り上げると思い切り振りかぶった。
隙だらけの体、だが目的は殺す事ではなく彼を無力化する事、騎士団は制約が多い……だが人を守る立場になる以上、この程度の敵で手こずって居ては先は無かった。
男の大振りの一撃を、距離を縮めながら交わすと懐へ潜り込む、かなりの巨体を支えている足に狙いを定めると膝を横から思い切り蹴り飛ばした。
まるで大木でも蹴るかの様に硬い、横からの衝撃なら比較的簡単に折れるのだが……流石に簡単には行かなそうだった。
だが男は苦痛で一瞬顔を顰める、効いてはいる。
幸いにも彼の攻撃は単調で大振り、当たる事は無かった。
「ちょこまかと……卑怯な奴め!!」
攻撃が当たらないことに苛立ち、更に攻撃は単調になる、何度も躱しては膝に蹴りを入れる、やがてダメージが溜まった彼の膝は耐えきれなくなり、あり得ない方向へと曲がった。
文字通り膝から崩れ落ちる男、彼の悲痛な叫びが辺りに響き渡った。
「く、くそっ!!こんな、こんな卑怯者は騎士なんかじゃねぇ!!」
痛みに顔を歪ませながら負け惜しみの言葉を吐き続ける、勝ち方としては微妙だったが騎士の仕事としては上出来だった。
「まぁ、こんな物だよな」
異世界無双見たいなのを期待したが実際はこんな物、だがチートの様な強さは無くても人を守れるだけの力があれば良かった。
「大丈夫だったか?」
「はい……ありがとうございます」
倒れて居たエルフの少女に手を差し伸べる、白く透き通る様な肌に少し薄い長く伸びた金髪、何故これ程美しい種族を嫌うのか理解出来なかった。
「裏通りはコイツみたいなのが多いから、大通りまで送るよ」
「ありがとうございます」
まだ怯えているのか、あまり口数は多く無かった。
「少し待ってて」
そう言い男に拘束魔法を発動するとポケットから小石サイズの結晶を取り出す、そしてそれを砕くと声が聞こえた。
『初日から通信用結晶なんて砕いてどうした?』
ライケルの声がした。
「裏路地で発生した暴漢を取り押さえたので回収をお願いします、あと左膝が砕けてるので歩行は困難だと思います」
『ほー、初日からお手柄だな、直ぐに向かわせる』
それだけを残し通信は途切れる、数分もすれば騎士団の仲間が回収に来るはずだった。
連絡を入れて1分も経たずに3人程の騎士が現場へ駆けつけて来る、そして男を台車に乗せると荷物の様に何処かへと運んで行った。
「お待たせ、大通りまで送るよ」
その言葉にエルフは小さく頷く、他種族を見たのは初めてだった。
少し前にも言った通りこの世界はまだ異種族への理解が少ない、種族間での戦争もある……それだけに彼女がこんな所へ一人で来ているのが少し不思議だった。
「一人で王都に何をしに来たんだ?」
「少しお買い物を……」
おどおどした様子でそう告げる、確かに王都にはエルフ達の文明には存在しない物が多くある、とは言え一人で来るなんて危なすぎだった。
「そうか、だけど次から来る時は誰かと来た方がいいぞ、エルフが思っているより治安が悪いからな」
「一緒に来る人なんて居ないから」
返す言葉が無かった、まさか友達が居ないタイプのエルフとは思わなかった。
エルフは小さいコミュニティで堅い絆を作るとばかり思っていた……少し悪い事を聞いたかも知れなかった。
「なんか悪いな、次に王都へ来る事があったら俺が護衛するよ、名前はカナデだ」
「カナデ……私はエルテラ」
「エルテラか、気を付けて帰るんだぞ」
大通りまでエルテラを送ると深々と頭を下げて人混みの中へと消えて行く、エルフ……アニメや漫画で観て居た種族と交流出来たと言うのは感慨深い物があった。
そして記念すべき異世界で初めて助けた人……フィリアスに叩きのめされたが、それを忘れられる程の1日になった。
「明日から気合入れて頑張るか」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます