追い出される。
「今すぐ出て行けぇぇええええッッ!」
ちょっと困った事になった。
「えぇ……、この真夜中に? 出て行くの? なんにも悪くない俺が?」
村長から独立の許可を得た日から二日後の夜。俺は家長たるクソ親父殿から追い出されそうになってる。
理由はもちろん独立の件なんだけど、俺としてはまだ計画を始動する気がなかった。だが、村長が猟長に話を通した時にうっかり親父殿にもバレてしまったらしい。
この二日、農作業が終わってから日が完全に暮れるまでの短い時間にせっせと森へと入って建材になりそうな木の枝やツルを集め、食料になりそうなヤマノイモ類っぽい芋なんかを探して、建築予定地に集めてたのだ。
だが、まだ準備も終わってないから家に居るつもりだった。今出ていっても大した用意が出来てない。マジで資材集めの途中でしかない。
だと言うのに、俺が独立を目論んでると知った親父殿は、森から帰って来た俺に追放を宣言する。
「口答えをするなぁぁぁあッ!」
「うるさいなぁ。目の前に居るんだから叫ばなくても聞こえてるよ」
兄三人と姉二人、それと両親が揃っての夕食時。
うっすい塩味の麦粥を啜ってると
その時点で「うわバレてんのかよクソが」と思ったけど、すぐに「まぁ良いか」と開き直った俺はそのまま肯首。
するとブチ切れた親父殿が叫んで今に至る訳だ。
「別に出て行っても良いけど、その場合は村長に言うよ? 長から正式に許可を貰ったのに、それを理由に追い出して良いの? どうなっても知らないよ?」
「…………ぐぅッ」
この村で作物が食べれるのは農家のお陰だ。しかし、村で肉が食えるのは狩人のお陰なのだ。だから狩人も農夫もお互いに尊重しあってこの村は回ってる。
なので狩人に成りたい者を家の者が邪魔をすると、かなり厳しい罰が下される。この場合は「独立するなら今すぐ出て行け」と真夜中に無理難題をふっかけてくる親父殿が該当する。
それは村長をはじめ長達の決定に逆らう行為であり、そんな事を認めてしまえば村は回らなくなる。
もちろん、農家だって人手が必要なので次男以下全員が狩人になるとか言い始めたら大問題だ。だからそんな事態にならない様に村長達も許可を出すか否かは考えてる。
だが、この家には狩人が一人もいないし、俺が抜けても男手が四人も居る。長達が許可を出さない理由が無い。
「せめて、明日の朝にしてよ。流石に日が暮れてから追い出されたら困る」
そんな感じで親父殿を黙らせた俺は、翌日、本当に追い出された。マジかよクソッタレ。マジで覚えとけよクソ親父。
「……普通、五歳児を身一つで追い出すかね」
ナイフすら貰えなかったぞ。これ村長にチクったらどうなるかって考えないんだろうか。
まぁ良いか。下手に支援されて後から絡まれてもウザったいし。
それに、こんな貧しい村では鉄製のナイフ一本ですら立派な財産だ。譲って貰えない事自体は織り込み済みである。
地球の歴史でも鉄器の文化は紀元前1700年頃からあったが、それから十四世紀まで鉄の利用は
「…………はぁ、仕方ない。予定だと最低でもレンガを作ってから家を建てたかったが、予定を変更するか」
追い出されて早朝、畑仕事に向かう村民を眺めながら移動する。村の外れに確保した建築予定地へ。
「うん、見事になんもねぇな」
比較的真っ直ぐな二メートル前後の
あとは一日に二食を口にして二日は持ちそうな程度のヤムイモだ。
ヤムイモとは、ヤマノイモに属する加食可能な芋類全般を指す。日本でならヤマイモや
五歳児の胃袋なんて、大きめの芋を一つか二つも食べれば満腹になれるからな。良い物を見付けられて良かったとも。今は保存の為に適当に地面へと埋めてある。
「ふむ、やっぱ一日に二時間くらいしか取れなかった採取時間じゃこんなもんだよな。むしろ食料まで見つかってるのは幸運とさえ言える」
昨日までの採取は、仕事が終わった後の夕方から日が暮れるまでの二時間程しか使えず、二日で合計四時間程度だ。
そんな時間では大したことは出来ず、森に入って近場を漁り、比較的真っ直ぐで長い木の棒を拾っては引き摺って運んだだけだ。
「今日は簡易シェルターを作る程度で妥協するか。何もかもが足りないから、準備の準備から始めないとなんも出来ねぇな」
準備不足で追い出されたのは不幸だが、丸一日を活動時間に使えるのは幸いだ。昨日までは森で拾う程度の採取しか出来なかったが、今日からはちゃんと道具を使って採取を進められる。
「そんな訳で、
まずは、川に行こう。
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