第2話

「お付きの人の審査も兼ねてるのか」


 食事をとりながら事情を聞いた親父が、うなずいてからそう言った。


「付き人ではなく、近衛です」


 いつもの事で親父に対してもラディは腰が低いが、それが気にくわないのだろう。近衛だと紹介された新顔氏は目を剥いて顔を真っ赤にしていた。

 ……付き人なら時には意見具申もできる立場だが、近衛はこの場合、護衛である。

 黙って控えているのが近衛のお仕事なんで、口をはさむのはもちろんダメだし、怒りで顔を真っ赤にするのもダメです。俺もあっちで近衛の服を借りて行動する時は、そこに注意してます。じゃないと目立ちまくるからね。


「なるほどなあ、たしかにこれじゃ審査が必要だ。君、ここで抜剣はダメだぞ」


 腰に手を伸ばしかけた新顔近衛は当然、親父の言う事なんか聞く気はない。

 めんどくさいので、そいつの手は俺がさくっとはらっておいた。


昭登あきと、食事中なんだから静かにやれ」


 飛んでいった魔剣(起動してなかったから刃のないライトセーバー状態だ)を横目に言ったのは叔父の秀治しゅうじ

 魔王子殿下が遊びに来たと連絡を受けてやって来た叔父にも、ラディは一つ頭を下げた。


「申し訳ありません、しつけがなっておりませんで」

「それをはっきりさせるために来たんだろう、うちは構わないさ」


 親父も叔父も平然としていたし、飛んできた剣を簡単にった姉は、剣を奪い返そうと襲いかかって来た近衛をその場に転がしていた。


「ねえラディ君、この子ぜんぜんダメだと思う」


 もう一度、憤怒ふんぬで顔を赤く染めた近衛氏はしかし、姉のかかとを食らって股間を抑えてうずくまった。


「すっごく弱いんだけど?さっきからずっと思ってたけどさ、こんなの君の護衛にしちゃダメじゃん。役立たないでしょ」

「ミソノさん、お手柔らかにお願いします。手加減してくださるくらいでちょうど良いはずです」


 ラディは思いっきり笑いをこらえていた。


「か弱き乙女にむかって、なんたる言い草」

「か弱い……」

「乙女……」


 俺とラディがほぼ同時にツッコんだ。


「なあアキト、日本語では乙女って怪力無双の意味なのか」

接頭語せっとうごによって意味は変わるけど、『か弱い』が付くとその真逆だな」

「間違って覚えてたわけじゃないんだな、安心したぞ」

「ラディ、あんた野菜3倍盛りね」

「姉さん、子供相手じゃないんだからさあ」


 姉はラディに対して物理ツッコミはしない。お仕置きはいつも、野菜を食わせることである。


「ラディはあたしの弟分なんだから、子供向けのお仕置きで十分でしょ」


 姉が言う横でお袋がけらけら笑いながら、温野菜を山盛りにしたボウルをラディの目の前に置いた。


「ラディ君、しっかり食べてってね。夏だからお野菜いっぱいあるから」

「……野菜を食べる習慣は無いのですが」


 日照時間が短くて青物なんか育たないからなあ、ラディの国。そりゃ野菜をモリモリ食べる生活なんかしてないだろう。

 ちなみにラディは異種族と言っても人類の亜種の一つだから、俺が食べられる物なら食べられるし、こちらの食べ物が消化できなくて死ぬなんて事も無い。あんまり食べないから好きじゃないだけ、だそうだ。


「はいはい、食物繊維しょくもつせんいは体に良いからねー」


 相変わらずマイペースなお袋だった。

 そしてもちろん、食べ終わるまでラディが席を立てないのも毎度のことだった。

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