第22話 とった策

「うん! それじゃあ明日十時に駅前の改札で! 私も楽しみにしてるー! よろしくねー!」


 悠姫ちゃんは、明日会う予定の人との電話を終えたらしく、うきうきした様子でスマホを握りしめている。


「良かったね。無事に会うことが出来るみたいで」

「はい! 私のことを本当の妹のように可愛がってくれてるいい人なんです!」

「ま、本当の姉はそこにいるんだけどな」


 そう言って、俺は自称姉の千陽がいる風呂場の方へ目を向ける。


「それはそれ、これはこれですよ! まあでもやっぱり、初対面で会うってなると緊張しますね」

「だろうな。まあでも、万が一変なところに連れて行かれそうになったら、すぐに連絡するように。これだけは約束してくれ」

「はい! 言われなくても、TPOはわきまえてますので!」


 ビシっと敬礼をする悠姫ちゃん。

 と、丁度話が途切れたところで、千陽が風呂場から戻ってくる。


「悠姫、お風呂入っちゃいなさい」

「はーい! それじゃあ、お風呂お借りしますね」


 悠姫ちゃんは、持ってきた荷物の中から寝間着を取り出して、そそくさと脱衣所へと向かって行く。

 そんな様子をぼんやり眺めていると、くいくいっと千陽に袖を引かれた。


「ん? どうした千陽?」

「ねぇ……何か明日会う人について言ってた?」

「まあ、軽く探っては見たけど、私のことを可愛がってくれるいい人、って言ってたぞ」

「それって個人の感想ですよね?」

「なんで急にひろ〇き口調?」


 神妙な面持ちで、顎に手を当てながら何やら黙考する千陽。


「……行く」


 すると、何か思い至った様子で言葉を発した。


「なんて?」

「明日、悠姫の後を尾行しに行く」

「はぁ⁉ 何言ってんだよ」

「だって、ネットで知り合っただけで、まだ一度も顔を合わせたことのない見ず知らずの人に妹が何か大変な目に遭うかもしれないじゃん!」

「わ、分かったから! 落ち着けって」


 俺は千陽の肩を掴み、一旦落ち着くように促した。

 千陽はソファに座り込み、両手で頭を抱えてしまう。


「どうしよう。ここでもし悠姫に何か問題が起こったら、家族から何て言われるかたまったものじゃないわ」

「そんな大げさな」

「大げさなんかじゃない! 下手したら、実家に帰ってこいって言われて、そのまま一生向こうで暮らす羽目になるかもしれない……」

「な……なんだって⁉」


 俺と千陽の同棲生活にまで支障が出て来るとなれば話は別だ。


「いい、明日悠姫が家を出た後、すぐに尾行するわよ。私たちの今後に掛けて!」

「お、おう……分かった」

「どこら辺に行くのかは、私もそれとなく聞いておくから、明日すぐに家を出れるように、目立たない格好の用意だけはしておいて」

「ら、ラジャ」


 こうして、悠姫ちゃんのオフ会を尾行することになった俺達。

 万が一のようなことが無いよう、明日無事に終わることを祈るばかりであった。

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